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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
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断罪のその後

レニー王都追放から数ヶ月。

カミーユは馬車から外を眺める。

カミーユの目に映っているのは、身分剥奪され、王都追放となったレニーだ。


レニーはあの日、一度は子爵家に戻れたが、王都を出るのに与えられた時間は僅か。

使用人達は戸惑いながらも荷造りを手伝った。


レニー1人で抱えられるだけの荷物しか持ち出せない為、ドレスや服よりも宝石や装飾品を出来るだけ鞄に詰めた。


騎士に見張られ、強制的に子爵家を出る。


「間違っても領地へ行くな。これ以上、我が家に迷惑を掛けるな」

別れを惜しむどころか、恨み言を肉親から言われ、レニーは無言で屋敷を出た。


「今までの繁栄は私の犠牲のおかげ。娘を庇う事も出来ず、自ら事業を起こせない能無しのくせに」


レニーは馬車の中で悪態をつく。

レニーを乗せた馬車は王都を出て隣の町へと入った。

そこで王都追放を見届ける騎士と馬車の御者の役目は終わった。


その町でレニーを置いて騎士と御者は引き返そうとしたが、レニーが離れた所にある大きな街まで馬車に乗せてほしいと希望した。


王都の隣町という事でその町には宿が無かった。

旅行者は皆王都に泊まるからだ。


「私の役目は終わった。報告の為帰らせてもらう。御者へは自身で契約を交わすように」


騎士はレニーと御者を残して馬で王都へと戻っていった。


レニーは御者に頼み込んだ。

夜道の運転は危険であり、盗賊が出る可能性もある。

護衛なしでは御者にとってリスクが大きいため、高額の値段を提示された。


しかし宿のない町では野宿になってしまう。

次の町まで、歩いて移動するわけにはいかないレニーにとって、その値段を払うしかなかった。


こうして無事に街に着いたレニーはホテルのそこそこの部屋に泊まった。


持って来たお金に宝石や装飾品があるので、当面の支払いに困る事はないとレニーは考えていた。


しかし、そう甘くはなかった。

宝石も装飾品も相場の値段より安く売る事になる。


貴族の令嬢に見えるが、家名を名乗れず、メイドも連れずに1人で店に売りに来たレニーを店の者は怪しんだ。

品々はどれも本物であるが、訳ありの物かもしれない。

後に厄介事に巻き込まれる可能性を考えると、相場の値段よりも安い金額しか提示出来ない。


レニーは宝石や装飾品の価値がわかっている為、提示額を拒否したが、その金額でなければ買い取らないと言われてしまった。


宝石を売るには、資金のある大きい店でなければいけない。

今いる店はこの街で1番喉大きな店だ。

他の大きな街までは距離があり、そこまでの路銀が足りない。

他の街に移動するにも、この街に留まり、ホテルの支払いをするにしても、現金が必要であった。


レニーはその提示額に応じるしかなく、手持ちの宝石を数個売った。


「泊まる部屋、それに食事の質を落としているのに、こんなに生活費が掛かるなんて。早く仕事と借りる部屋を見つけなければ」


レニーは確かにホテルの部屋のランクや食事のレベルを落としはいるが、それは貴族から裕福な平民レベルに落としただけだった。


「こんなに固いパン。これから毎日、これを食べないといけないだなんて」


今まで食べていた質の良いパンでは無く、多少品質落ちるパンで我慢している。

それでも、今の生活を続ければ、いずれ資金が底を突くとわかっている。


レニーは読み書きに計算、礼儀作法、それに他国語も出来るため、ホテルフロントの仕事や商店で働けるのではないかと考えた。

しかしそういった所は紹介状や学園の卒業証が必要だった。


諸事情にて退学する者には、学園に在籍していた証明書が発行されるが、パーティー後すぐに追放となったレニーは持っていない。

今頃子爵家に届けられているだろうが、わざわざレニーを探して渡しに来るとはない。


レニーはホテルや商店は諦め、針子の仕事についた。

令嬢の嗜みとしてレニーは見事な刺繍が出来る。

自身が刺繍をしたハンカチを見せ、すぐに採用となった。


しかし、針子の仕事は上手く行かなかった。

針子の給金は制作した数に応じて支払われる。

当然、納品ノルマも期日もある。


今までの様に、優雅にお茶を飲みながら、休み休み針を刺すのでは間に合わない。


レニーは朝から晩まで針仕事を行った。

それでも期日までに依頼された量は完成出来ず、給金が満額支払われる事はなかった。

レニーは腕はあるが、仕事が遅いと判断され、次第に仕事の依頼が少なくなった。


ホテル暮らしを続け、徐々に手持ちの宝石や装飾品が少なくなってきた為、部屋を借りた。

そして針子以外に他の仕事を探した。


「とは言え、力仕事は出来ませんし、水仕事もしたくありません。ただでさえ日々の生活で手が荒れてしまったのに」


今まで掃除、洗濯はメイドが行っていたが、今は自分で行わなければならない。

とりわけ洗濯は重労働である。

まず生活や洗濯に必要な水は街の共同井戸から汲んで来ないといけない。

何度も水を汲み、洗濯物を手洗いしなければならずレニーにとっては苦行であった。


「家具付きの部屋を借りたのは良いですが、ベットは固くて寝れたものではありませんし、他の家具だって古くて使えません」


レニーが借りた部屋の家具はどれもレニーにとっては使い古された物であるが、一般の平民の暮らし的には普通の物である。

慈善活動として孤児院へ何度も訪問し、その生活の大変さは知っていたが、実際に自身がその生活をするとは、考えた事がなかった。


レニーが平民の生活に順応するには時間が必要だった。


「暖かいお風呂や食事が恋しい…。もう持って来た宝石が半分もありません。こんな布団では冬を越せません。薪も買わないと…」


レニーは生活の全てにお金が必要だと痛感する。

掃除や洗濯は自身でなんとか行えたとしても、料理が出来ないレニーにとって食事は全て外食である。

この先、暖炉に薪が必要になるが、薪割りが出来ないので、それにもお金が掛かるだろう。


今の宝石を売って生計を立てられるのも、そう長くない。


「今ある求人の中で1番良い仕事を選びませんと」


結果レニーはカフェの給仕として働く事となった。

お茶の作法が身についているため、レニーは期待の新人として働き始めた。


「仕事中は立ち続けなければいけないので、足が痛いですが、手で料理を運ばなければいけない所よりマシですね」


このカフェでは食事やお茶の提供にワゴンを使用する。

街の食堂の様に人力で運ぶ事はない。

また洒落たカフェで値段設定も周りの店より高めのため、客の質もそれなりに安定している。


「働く前にお客として見に行ってよかった。あちらで働いて居たら大変でした」


それからレニーはカフェの仕事が休みの日は刺繍を行い商店に売りに行っている。


「少しでもお金を稼いで、この残った宝石は保険としてとっておかないと」


レニーは寝具を買い替え、薪を買い、冬に備える事が出来た。

その他にも暮らしていく上で必要な物を買い揃え、持ってきた宝石に残り数個となった。


秋が過ぎ、季節が冬となり、水汲みがつらくなった季節。

レニーは手を擦りながら、今日も井戸から水を汲む。


その様子をカミーユが馬車の中から見ている。



「坊ちゃん」

「我儘を言ってすまない。帰ろう」

メイド長のマーサに諭され、カミーユは馬車を動きよう伝える。


「無事に暮らしいてるなら良かった… さようなら…」


断罪後がぬるいと思われるかと思いますが、レニーはちゃんと賢いので、どん底まで破滅しないだろうと考えました。

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