理想と尊敬
私はエルランジェ邸に遊びにきている。
マリアとお庭でお茶会を開きながら、物語の感想や意見を語り合っている。
「こうしてると「アリスとエリスのお茶会」みたいね」
「そうなの!せっかく、セティーとお茶会するならって思って準備したの!」
ふふっマリアってば可愛い
あれからマリアは私と普通に話せるようになった。
だいぶ慣れてくれたなぁ。
敬語も使わなくなったし。
「あっセティーにオススメの本、お部屋に忘れて来ちゃった。取りに行ってくるわね」
マリアがお部屋に本を取りに行ってる間お庭を見ていることにする。
すると、少し離れた所でヴィクトルがベンチに座っているのが見える。
いつも元気な彼とは違い、暗い顔して俯いている。
どうしたんだろう?
「ヴィクトル、こんにちは」
「えっ?ああセティーか。そういえば今日来るってマリアが言ってたな」
とヴィクトルはなんだか覇気のない声で返事をする。
「どうかしたの?いつものヴィクトルと様子が違うけど?」
「えっ?あ、あれ? そうかな?なんでもないよ」
すごい動揺してる。
「私で良ければ、話し聞くよ?」
「なっ、なんでもないよ。大丈夫だから」
「そう?私で良ければ話しきくよ?話せば楽になれることあるし」
私が言うとヴィクトルが悩みだした。
どうしよう、余計なこと言ったかな。
「話せば本当に楽になれるのかな。でもこれは俺の問題だし」
「1人で抱えきれない時は周りを頼るものだよ。」
「実はさ、今父様と仲が良くないんだ」
少ししてヴィクトルが話し始める。
「父様は怪我で騎士を辞めて外交官になったけど、本当は騎士の指南役とか作戦室とかの仕事で騎士団に残ることも出来たんだ。それなのにあっさり騎士団を去ったんだ。俺、なんで父様が騎士団を去ったのかわからないんだ。そしたらさ、みんなに父様は怪我をして臆病になったとか、騎士のクセに文官の仕事をするなんてって言われて。俺、なんかモヤモヤして。それで、父様にひどい言葉を言ったんだ。」
ゔーん家族の問題に他人の私が突っ込んで良いのかな?
でも私が話して見てって言ったしなぁ。
前にお父様に聞いた話しだけど、ヴィクトルのお父様は、国の為に外交の仕事を選んだんだよね。
この国をより良くするために。
今までの自分とは違う道を選ぶことはとても勇気のいることなのに、国の為に迷わず選べるのは国への忠誠心の強さだと思う。
「そうだったの。ねぇ、ヴィクトルは今のお父様は嫌いなの?」
「嫌いじゃない!ただ騎士の父様は、俺の理想だったんだ!」
やっぱり、お父様のことは嫌いじゃないんだ。
「そうよね。だって国の為に今の職に着いたお父様は素晴らしいものね。嫌いになんかならないわよね。」
「えっ?」
「だってそうでしょう?国のことはもちろん、他国のことにも詳しいお父様は、外交が上手くいかないと戦争に発展するのがお分かりでしょう?騎士でなくてもこの国に変わらない忠誠を尽くされているわ。これは私の想像だけど、指南役に残れば、自分が庇った部下はなんて思うかしら? 自分のせいでって思ってしまうかもしれないわ。そしてこれも私の想像だけど、ヴィクトルにお父様を悪く言ったのは騎士団の人じゃなくて、剣術を一緒に習ってる御子息達でしょ。」
「そうだけど。なんでわかったの?」
「きっと、悔しかったのよ。今までヴィクトルに勝てなくても騎士団長の息子なんだ、騎士団長に稽古をつけて貰ってるんだからって、言い訳が出来たけど、今は出来ないでしょ?」
「それだけの理由で人を悪く言うのかな?」
私の言葉にヴィクトルが驚く。
ヴィクトルは人を妬むことはないんだなぁ。
「言うわよ。でも、そんなの負け惜しみよ。ヴィクトルはなんでそんな人達の話を信じてしまったの?」
「っ!お、俺は騎士になるのが夢なんだ。父様は俺の理想で尊敬してたんだ。それなのに。努力して団長にまでなったのに、簡単に騎士を辞めたことが許せなくて。そしたらみんなが父様を悪く言うから、なんだかモヤモヤして、みんなの話しが本当なんだと思って」
「ヴィクトルは、自分の理想であるお父様が簡単に自分の夢を辞めたことが悔しかったのね。」
「俺悔しかったのかな?」
「今だって本当は尊敬してるでしょ?だから悔しいのよ。ちゃんとお父様とお話しをしたらいいわ。きっとヴィクトルの理想のままのお父様よ」
私の言葉に少しヴィクトルが考える。
「そっか、俺悔しかったんだ。きっと父様が悪く言われたのも、悔しかったんだ。セティーありがとう。今日父様と話してみるよ!」
いつもどおりの元気なヴィクトルになった。
良かった、少しは気が晴れたかな。
あとはヴィクトルのお父様にお任せするとして、親子の仲が元に戻るといいな。
そして、ヴィクトルが剣術の自主練をするということで、訓練場へ行く。
いれ違いでマリアが戻ってきた。
「セティー。ヴィー何か言ってた?」
「ん?どうして?」
「最近のヴィーね、剣術の稽古の後なんだか辛そうだったの。私や家族に言えないのか、何も言わなかったから。だからヴィーの話しを聞いてくれてありがとう。」
「大したことしてないよ。後はヴィクトル次第だし」
家族に自分のお父様を悪く言うなんて出来ないよね。
ヴィクトル頑張れ!
更新遅くなりました。




