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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
189/235

音楽祭⑥

時は遡り、クリスティーヌとカミーユが催し物を見に行った後。


「あらレニー?どうしてここに?」

「先程カミーユ様と一緒に居た方は…」

「私達てっきり貴方だと…」


カミーユがクリスティーヌと一緒に催し物へ行った事で、カミーユが金髪の女性と一緒に居るのを他の生徒や来客に目撃されている。

カミーユとレニーの仲を知る者は、相手はレニーだと思っていた。


「カミーユ様と一緒に居るのはクリスティーヌ様です。普段の髪型やお化粧ではないので、気づかない人が多いと思います」

「まぁ!?クリスティーヌ様でしたの!?」

「全然気づかなかったでわ」

「でも、まぁクリスティーヌ様なら安心ね。妹なのだし」

「えぇ…そうですね」


レニーはそれ以降も出会う人達にカミーユと一緒ではないのかと聞かれる。


「恋人だと噂がありましたが、深い仲ではないのかもしれまんせんわね」

「所詮は地方を治める子爵令嬢ですもの。我々にもまだチャンスがありますわ」


何処からかそんな言葉が聞かれる。

一部からは、義妹を優先されてしまう程度の存在だと思われ、立場を軽んじられているようだ。


「クリスティーヌ…腹が立ちますね…」


レニーは苛立っていた。

アルベール侯爵に未だ婚約を認められていない。

その上、面会を申し込んでいるというのに、一向に面会が叶わない。

明らかにレニーは侯爵に蔑ろにされている。

カミーユも父親である侯爵には強く言えず、2人の仲は公認になれていない。

その為、表だって2人で出かける事が出来ない。


レニーとカミーユの仲が知られているのは学園内で、社交界には噂程度にしか知られていない。


こうしている間にも、アルベール侯爵はカミーユに食事会と称した見合いをさせている。


カミーユがそれとなく断っているのは知ってはいるが、レニーには耐え難い状況であった。


音楽祭でカミーユとの仲睦まじい様子を周りに見せ、外堀からじわじわと攻めていく予定だったが、クリスティーヌによって狂わされた。


「クリスティーヌ…。無事に演奏が出来ると思わないで下さいね」


レニーは演奏者の楽器が置かれている部屋に向かう。

辺りを見渡し、誰もいない事を確認し中に入る。


部屋の中には自身で運ぶ事が大変である、大きな楽器が置かれている。

レニーとクリスティーヌのハープも当然置かれている。


レニーはクリスティーヌのハープに近づき、ポケットから小さな折りたたみのナイフを取り出す。

レニーはハープの弦に刃を当て弦を傷つける。

何本か弦を傷つけ、音色が悪くなる様にした。

そして傷ついた弦は演奏中の指遣いにも影響するため、クリスティーヌが演奏をミスする可能性が上がる。

場合によっては演奏中に弦が切れるかもしれない。


クリスティーヌの演奏が思ったよりも上達してしまい、自分が全力を出しても演奏会でクリスティーヌに恥をかかせる事は難しい。

それ故に弦に細工をする事にした。


「ふふふ。どんなに綺麗に着飾っても醜態を晒せば、また悪評が広まるはず」


そしてレニーは辺りを見渡して、誰も居ない事を確認して部屋を出る。




「これは…至急弦の張り替えが必要だ。それにしてもこんな場面が撮れるとは」


リーゼは気づかなかった。

リュカに見られ、弦を傷つけている所を写真におさめられているとは。


「さて、クリスティーヌ様の演奏に支障がないようさっさと張り替えてしまおう。それにしてもセティー様の胸騒ぎは正しかった。見張っていて正解だったよ」


リュカによって傷つけられた弦は新しい物と交換してされた。


「さて、弦の代金と修理代はレニー様に請求するとして。この写真も有効活用しなくては。うん、良く撮れてる。これなら売り出すのに申し分ない」



-----------------------------

トリであるマリエットの演奏が終わり、出演者は全員もう一度壇上に上がり、観客から拍手が送られる。


マリエットが1番注目されているが、クリスティーヌも注目を浴びている。


出演者は壇上を降り、解散となり、友人や婚約者の元へと散っていく。


レニーはリュカに、クリスティーヌのハープに細工をしようとしている所を納めた写真を見せられ、落ち込んでいたが、気持ちを切り替え、レニーもカミーユの元へ行こうとする。


会場を出た所でカミーユを見つけ、駆け寄ろうとするが、カミーユが父親であるアルベール侯爵と話しているのが見え、足を止める。


(侯爵様が何故ここに?いえ、これは好機。カミーユ様との婚約を結んでもらえるよう話ができます)


レニーが声を上げる前にクリスティーヌがカミーユに向かって駆け寄り、声を掛ける。


「お義兄様!私の演奏聴いて下さいました?」

「うん!とっても上手だったよ!屋敷でもたくさん練習していたし、頑張った成果が出たんだね」

「えぇそうですの。屋敷で1人で練習を頑張りましたし、教室をお借りしてからも頑張りましたわ」


カミーユがクリスティーヌは屋敷で練習をしていた話をし、クリスティーヌも1人で練習していたと話す。


噂を知る人達の中で疑問が生まれる。

学園内で聞いたとされる、クリスティーヌがレニーを罵倒している声。


放課後、屋敷に戻っていたクリスティーヌにレニーを罵倒するのは無理である。

では、あの声は本物ではなかったのか?

レニーは練習に熱が入り過ぎてしまっただけだとクリスティーヌを擁護していたが、そもそも本当に一緒に練習をしていたのか?


このままでは噂が嘘だと、偽りであったと浸透してしまう。


レニーは慌ててカミーユ達の元へ駆け寄ろうとするが、侯爵に近づくリュカが視界に入った。


「アルベール侯爵。御歓談中、失礼致します。少々お時間をよろしいでしょうか?先日の件で父より伝言がございます」

「サリュート商会の会頭からの返事か。聞こう」

「カミーユ様にも、お聞かせしたいのですが」

「もちろんだ。我々は我が家の馬車へ移動しよう」


リュカは侯爵とカミーユを連れて行ってしまった。

その場に残ったのはクリスティーヌのみ。


「あらレニー。お義兄様ならお義父様と共にお仕事のお話をしていますわ」

「えぇ。そのようですね」

「フフ。いつ終わるかわかりませんわ。友人達と音楽祭を楽しんでらしたら如何かしら?」

「嫌だですわクリスティーヌ様。ここで待ちます。最愛のカミーユ様との時間を僅かでも共有したいですもの」


クリスティーヌとレニーの間にバチリと火花が立つ様な空気が流れる。


クリスティーヌとレニーが睨み合っている間、リュカ達は馬車の中で話を行う。


「報告を聞こうか」

「まずはこれをご覧下さい」


リュカは胸ポケットから先程レニーに見せた写真を取り出し、侯爵に渡す。


「ほぉ。これはこれは…よく撮れているな」

「えぇ改良した新しいカメラで、従来の物よりも鮮明に写す事が出来るのです。その写真から推察出来る事は、侯爵様が危惧していた通りだと思われます」


侯爵とリュカは笑っているが、不穏な空気が流れる。


「父様、その写真はいったい…。それがサリュート商会との取引なんですか?」

「あぁ。先日、彼に仕事を一つ依頼してな。その結果だ」


そう言って侯爵はカミーユに写真を見せる。


「!?こっこれは…いったい…」

「レニー様がクリスティーヌ様のハーブの弦を傷つけている場面です」

「!?レニーが何故そんな事を!?」

「クリスティーヌ様に恥をかかせる為ですね。傷ついた弦で演奏すれば、音色は悪く、指遣いにも影響しますから。演奏中に弦が切れていたかもしれません。そうなれば、碌な楽器を与えられていないのだと、クリスティーヌ様のアルベール家での立場の低さを露見させる事が出来ます」


リュカの言葉にカミーユは顔色を悪くする。


「でもクリスはちゃんと演奏をしたじゃないか」

「えぇ僕が弦を張り替えましたから。これが交換した傷付けられた弦です」


リュカは一見わからないが、よく見ると細かい傷が付けられた弦を侯爵とカミーユに見せる。


「それと、学園ではクリスティーヌ様が練習中にレニー様に暴言を言われていたとの噂があります」

「クリスはもうそんな事はしない!」

「残念ながら、直接声を聞いたという人も居ました」

「そんな…」


混乱するカミーユとは違い、侯爵は冷静な声でリュカに尋ねる。


「それで?話には続きがあるのだろう?」

「えぇ。声を聞いたという生徒達に話を聞き、日付と時間を特定できました」


リュカは日付と時間、聞いた生徒の人数をまとめた用紙と、もう一枚の用紙を侯爵に渡す。


「どれもクリスティーヌ様がお屋敷で練習なさっている日です。クリスティーヌ様曰く、知らないうちに噂を立てられたと事です。クリスティーヌ様がお屋敷へ戻られるため、学園を出ていた事は学園の門番に確認が出来、記録も残っておりました。そちらは写しになります」

「では噂は嘘だという事だね」

「おそらく嘘だと思います。ただレニー様はこの噂に対して、『練習に熱が入り過ぎてしまっただけ』と暴言があった事を肯定しています。侯爵様から依頼されたレニー様の素行調査は以上になります」

「そうか。礼を言わなければな。短時間で良く調査してくれた」

「いえ。滅相もございません。僕はこれで失礼させて頂きます。まだ模範生の仕事が残っておりますので」


リュカはアルベール侯爵家の馬車を降り、学園に戻った。


「レニーの素行調査…父様はレニーを疑っていたんですか?」

「あぁ。クリスティーヌに対して素直に嫌悪感を出さない令嬢はあの者くらいだ。幼い頃からの恨みがあるというのにだ。疑って掛かるに決まっているだろう。折よく、サリュート商会の青年がクリスティーヌの元を訪ねていたからな。調査を依頼をしただけだ」 


「そっそうですか」


カミーユは力無く馬車の椅子に座り、俯く。


「さて、お前の婚約者にレニー嬢を認める事は出来ん。このまま帰るとしよう」


アルベール家の馬車は屋敷に向けて発車した。


レニーはカミーユが戻ってくるのを音楽祭が終わるまで待ち続けたが、カミーユか戻ってくる事は無かった。

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