音楽祭②
「これで音楽祭の参加者は揃ったわね」
「リュカ、クリスティーヌ様を勧誘してくれてありがとう。上手く説得してくれて、助かったわ」
「いいえ、大した事ありません。クリスティーヌ様には連奏のお相手がレニー嬢という事を伝えるのは、参加者を発表した後にした方が良いかと」
「そうね。今伝えたらやっぱり辞めると言われてしまうかもしれないわ」
「でも大丈夫かしら?クリスティーヌがハープを弾けるなんて聞いた事ないわ」
マリアの言うとおり、貴族なら披露する機会は多いはずだけど、私も聞いた事ないのよね。
まぁ私達がクリスティーヌ様のお茶会行った事が無いからかもだけど。
「演奏ってそんなに披露宴する機会があるんですか?」
エメリアの質問に私が答える。
「あるわよ。お茶会以外にも演奏会や発表会を開くもの。私も何度かお客様ピアノを披露したわ。マリアのフルートも何度も聞かせてもらったわ」
「昨年はどうだったんですか?昨年は希望者が多くて、実力で選ばれた方だけになったのですよね?」
「確かに、クリスティーヌ様も予選会に居たと思うんだけど、演奏までは覚えてないのよね」
確か居たと思うんだけど、自分も緊張していたし、覚えていないわ。
「少なくても昨年の予選を通過できる程の実力ではないんだと思うわ。でも、それを言うならレニーさんの演奏も同じよね」
マリアが言ったとおり、実力が不明なのはレニーさんも同じね。
「まぁ良いじゃない。めちゃくちゃな演奏はしないと思うし、音楽祭はお祭りだもの。楽しめれば良いのよ」
貴族の学園だし、流石に耳を疑う様な酷い演奏だと酷評されるかもだけど。
流石にそこまででは無いはずだし、難易度は程々の曲にすれば大丈夫よね。
「じゃあ私は参加者に希望曲がないか聞いておくわ」
「セティーありがとう。それじゃあ発表順を決めましょう」
「マリエット様にはトリをお願いしていますが、トップバッターはどうしましょうか?」
最初に演奏する方は上手い方にお願いしたいわね。
「あっ彼はどうかしら?彼の演奏とっても素敵なのよ」
「彼は確か伯爵家の。マリアは彼の演奏聴いた事があるのね」
「えぇ演奏会に度々招待して頂くのよ。バイオリンもピアノもとっても上手な方よ。今回はピアノを演奏されるのね、楽しみだわ」
そうなんだ。
じゃあトップバッターは彼で決まりね。
「私からお願いしてみるわ。明日、サロンで行われる演奏会に誘われているから…「ほぉー。俺との婚約を発表したというのに、まだ招待状が届くのか」
「え?シャルどうしたの?怖い顔しているけど…」
「なに、少し嫉妬しただけだ」
シャル様はそう言ってマリアを抱きしめたわ。
「ちょっとシャル、皆んなの前よ」
「いくら招待されたとはいえ、その男の演奏会に行き、俺を妬かせたマリアが悪い」
「なによそれ。じゃあ明日はシャルも一緒に行きましょう」
「あぁ、そうしよう」
「ふふ、マリアったら愛されてるわね」
「セッセティーったら!もうセティーだって、たくさん招待されてたじゃない」
「アル様と正式に婚約するまではね」
「セティー初耳なのだが」
「私というよりマルヴィン家と縁を繋げたい方々ばかりだったから」
あの頃は婚約候補者の1人でしかなかったしね。
まぁ行った所でアル様以外に惹かれる事は無かったのだけど。
アル様は私の答えに渋々納得したといった顔をしているわね。
後でフォローしなきゃ。
「さっ後は演奏楽器や歌唱が被らない様に順番を組みましょう。それが終わったら発表準備に取り掛からないと」
「そうね。ささっと終わらせましょう」
ふぅ。
発表順も決まったし、明日には参加者の発表が出来るわ。
解散の雰囲気になった時、アル様に話し掛けられたわ。
「セティーさっきの話なんだが」
「アル様、2人で話をしましょう」
やっぱりさっきの話、納得してなかったのね。
最近ハッキリとアル様からの嫉妬の気持ちが感じられるわ。
私達は王族専用の部屋に移動した。
「セティー。私が知らない所で招待を受けたりしていたのか?」
「まだ婚約候補者だった頃に何回か」
「どうして私に知らされていなかったんだ」
「あの頃はただの候補者の1人だったもの。でも私自身への好意というより、私に付いている付加価値を得たい方が多かったはずよ。公爵令嬢で王太子の婚約候補者筆頭だもの。昔もそして今も縁を繋ぎたい人が多いわ」
「確かにそうだが…」
「でも誰と会ってもアル様以外に惹かれる事は全く無かったわ。アル様、私を婚約者にしてくれてありがとう。おかげで堂々と断る事が出来るようになったわ」
「いや、私の方こそ婚約してもらえて嬉しい。セティー嫉妬してしまってすまない」
「ふふ。私は嫉妬してもらえて嬉しいわよ」
愛されてるって実感するし、自分ばかりが好きなのではないって思えるもの。
過度な嫉妬は辛いかもだけど。
「セティーありがとう」
アル様は私をそっと抱きしめてくれた。
音楽祭の参加者を発表し、張り出された用紙の前は人が集まっているわ。
後は無事に開催して、滞りなく音楽祭が行われるようにしなきゃね。
そんな事を思っていたら、廊下でざわめきが起きたわ。
「クリスティーヌ嬢とレニー嬢が連奏!?」
「大丈夫なのか?」
「またレニー嬢に辛く当たらなければいいが」
やっぱりクリスティーヌ様とレニーさんが連奏する事がざわつかせている理由ね。
ざわつきが落ち着かない廊下にレニーさんがやってきて、心配する声を掛ける人達と話をしているわ。
「皆さん、ご心配ありがとうございます。精一杯演奏させて頂きますので、聴いて頂けたら嬉しいです」
「あっセレスティーヌ様、この度はクリスティーヌ様を説得して頂き、誠にありがとうございます」
「説得したのはリュカで私ではないので、御礼ならリュカにしてあげて下さい。演奏楽しみにしていますね」
「はい!精一杯頑張ります!それと、今回でクリスティーヌ様と和解出来るよう頑張ります。機会を与えて下さってありがとうございます」
「レニー嬢がクリスティーヌ嬢との連奏を希望したという事らしい」
「今まで散々な扱いを受けていたというのに、和解をしたいだなんて、優しいんだな」
レニーさんがクリスティーヌ様との連奏を望んだ事が周囲にいる人達に伝わったわ。
2人が仲良く練習して、本番演奏を披露すれば、クリスティーヌ様の立場も本当に変わるかも!
「こっこれは、なっなんですの!?レニーと連奏なんて聴いてませんわ!」
発表内容を見に来たクリスティーヌ様は想像していた通り、驚きの声を上げているわ。
「クリスティーヌ様、リュカから他の令嬢との連奏だと聞いていましたよね?その令嬢がレニーさんなのですよ」
私はクリスティーヌ様に近づき話しかける。
そういえば、クリスティーヌ様と話すの凄く久しぶりだわ。
「セレスティーヌ。もしかして貴方が仕組んだのですの?」
「まさか。レニーさんからクリスティーヌ様との連奏を希望されたのです。レニーさんはクリスティーヌ様との仲違いを解消したいそうです。この機会にお2人でよく話し合い、練習を通して互いに仲を深めて下さい」
私はそれだけ言ってその場を離れた。
「クリスティーヌ様、勝手に連奏を希望して申し訳ありません。どうしてもクリスティーヌ様とは仲違いしたままでは嫌だったのです。もしかしたら、将来家族になるかもしれませんし」
「は?家族?まっまさかお義兄様と!?」
クリスティーヌが声を上げた事で、アルベール侯爵家跡取りであるカミーユとレニーが結ばれる可能性がある事が周囲に知れ、騒めきが起きる。
「まだ侯爵様の承認を頂けておりませんが、お互い想いを伝え合いました。カミーユ様は今のクリスティーヌ様の状況をとても嘆いております。ですので、私にも何か出来ればと思いまして」
「お義兄様が…レニーと…」
レニーはクリスティーヌに向かって握手を求め、放心しそうになっているクリスティーヌの手を握る。
「まずは連奏する曲を決めましょう!放課後2人で話をさせて下さい」
レニーはそう言った後、クリスティーヌにだけ聞こえる声で囁く。
「逃げないでね」
「わっ私、お義兄様に手紙を書かねばなりませんので、失礼しますわ」
レニーの囁いた言葉にクリスティーヌはゾクりと身の毛をよじり、その場凌ぎの言葉を言い、その場を去った。
残されたレニーを友人達が囲う。
「きゃあーレニーおめでとう」
「ありがとう。でもまだ侯爵様の承認をもらえてないから…」
「侯爵様自身、恋愛結婚を結ばれたじゃない!それに、レニーの家は子爵家でも裕福だし」
「恋愛すると女性は綺麗になるって言うけど、最近のレニーは本当に綺麗だもの。特にレニーの金色の髪は本当に綺麗だわ」
「ふふ、ありがとう。正式に婚約が出来たら皆んなに1番に伝えるわ」
「良い報告を待っているわ!」
「それより、クリスティーヌ様が義妹になる事、大丈夫なの?」
「あっそうよ!それに連奏なんて!練習中とかに嫌目に合うかもしれないわよ!」
友人達はクリスティーヌとの連奏を良く思っていないため、皆顔を顰めている。
「大丈夫よ!クリスティーヌ様は以前とは違うわ。反省して令嬢達に謝罪して回っているし」
「でもレニーには謝罪がないわ」
「だから、今回で関係を修復したいの」
「レニー…。貴方がそういうなら、私達は見守るわ」
「でも、レニーが辛そうなら直ぐに止めるわね」
「ええ!ありがとう!」




