謝罪
エリザベートside
リーゼは学園の女生徒達に取り囲まれる。
「リーゼさん。本当に今年で学園を去ってしまいますの?」
「はい。ジェラルド様の秘書としての役割や仕事内容が変わりますので(私がエリザベートである事を悟られない内に去らねばいけませんもの)」
「ジェラルド様も学園を去ってしまうのでしょうか?」
「それは…ジェラルド様がお決めになられる事ですから、私にはわかりかねます」
「はぁ。ついにジェラルド様がご結婚されてしまいますし、学園で御姿をお見かけする事が、唯一の救いでしたのに」
「本当ですわ。叶わなくとも、お姿を見るだけで幸せでしたのに」
はぁ。
ジルがオモテになるのは、わかってはいますが複雑ですわ。
ジルは来年度、教師をするか悩んでいる様子でしたが、どうするのかしら。
セティーさんが心配で教師を引き受けたとの事ですが、もう心配はないとも言っていましたし。
私としては、ジルが教師をするなら、秘書として側に居たいのですが、結婚式の準備に花嫁修行と、何かと忙しくなりますし、ジルと相談して秘書は辞める事にしましたの。
王宮での仕事に加え、次期公爵としての仕事もありますし、教師を続けるとかなり忙しいはずなのですが。
もし教師を続け、私と結婚しても学園暮らしでは、少し寂しいですわね。
ただでさえ忙しいジルに会えないのは、辛いですわ。
せっかくの新婚ですのに。
でもセティーさんを心配するジルの気持ちもわかりますわ。
羨望の眼差しを集める一方で攻撃の的になってしまいますもの。
それと、クリスティーヌ様の事も気になりますわ。
ジルにはマルヴィン家としてクリスティーヌ様とは関わる事はないと言われましたわ。
結婚式にアルベール家を招待したとしても、クリスティーヌ様の参列はないと。
婚約者候補同士のライバルであった間柄でしたが、嫌がらせ以上の事があったに違いないですわ。
アルベール侯爵のクリスティーヌ様に対する態度から察するに、下手をするとお家を危ゆくさせる何か。
クリスティーヌ様に、その様な大それた事が出来るとは思っていませんでしたが。
反省している様ですし、今のところ大きな沙汰は下っていない様ですし、出来れば1人の女生として、幸せになってもらいたいものですわ。
「今日は何処でランチしましょうか」
「東棟のテラスはいかがかしら?花壇の花が見頃だそうよ」
「まぁそれは良いわね」
エリザベートは、クリスティーヌのクラスの女生徒達が、楽しそうにランチへ向かうのを見る。
もちろんその中にクリスティーヌは居ない。
成績はまずまずキープしている様ですが、クラスでの立場は相変わらずの様ですわね。
1年生の時の行いのせいもあって、今のクラスではお友達を作るのは難しいですわね。
クラス以外にでも、お友達が出来れば良いのですが、セティーさんのクラスでも難しいかもしれませんわ。
下の学年の令嬢ではどうでしょう?
ちょうどこれからお茶会ですし、それとなく聞いてみましょう。
「リーゼさんお越し下さりありがとうございます」
「お仕事は大丈夫でしたか?」
「私達、お忙しいのに無理にお誘いしてしまっていませんか?」
「私も丁度お昼でしたから。お誘い頂いてありがとうございます。まさか女生徒達のお茶会に誘って頂けるとは思っていませんでしたので、嬉しいです」
女生徒達は私に学園での生活や選択するべき教科について相談してきましたわ。
私はこの学園の卒業生ですから、アドバイスが出来て良かったですわ。
「実はリーゼさんに折言って、お願いしたい事がございます」
「なんでしょうか?」
「セセッセレスティーヌ様と私を繋いで頂けないでしょうか!?」
女生徒は顔を赤くし、勢いよく頭を下げてきましたわ。
「セレスティーヌ様に貴方を紹介してほしいと。その理由を聞かせて頂けますか?」
「私、セレスティーヌ様の女官になりたいのです。子どもの頃からずっと憧れていた方に御使いしたいのです。ですが、私の身分は子爵。それも裕福とは言えませんので」
他の力ある家の令嬢に負けてしまうという事ですわね。
ですが、セティーさんとの縁があり、心象が良ければ女官になれる可能性はありますわね。
セティーさんも良い人を女官にしたいでしょうが、私はこの女生徒をセティーさんに紹介できる程知りはしませんわ。
「それにはまず、私が貴方を知る必要があります。ジェラルド様の大事な妹君ですし、将来王太子妃になられる方ですから」
「もちろんです。私頑張ります!」
「実は私も、マリア様に繋いでほしくて。ナハラセスへ嫁がれる前に一度で良いので、お話がしたくて」
「私は同じ学年なのですが、ファビウス侯爵家のマリエット様に」
公爵家に侯爵家。
高位貴族の令嬢ばかり。
確かに誰かの伝手が無ければ、下位の家柄の令嬢では話し掛ける事も出来ませんわね。
「侯爵家といえば、後1人この学園に通っていらっしゃる方がおりますね」
私がクリスティーヌ様の事を口にすると、女生徒達はピシリとと固まってしまいましたわ。
「わっ私達は、あの方にこれ以上、辛い思いをさせられない様に気をつけております」
「もうあんな思いするのは懲り懲りですもの」
「おっ思い出しただけで震えが…」
本当に恐れている様ですわ。
「なんともクリスティーヌさんは、エリザベート様にお聞きしていた印象と違う様ですね」
「エリザベート様は公爵位ですし、年上の方ですもの。あの方だってそれなりに弁えます」
「目上の方にはあの様な言動はしませんわ。自分が嫌いな相手と格下の者達にだけなんです」
私が見ていなかった一面ですわね。
「ですが今は反省している様ですよ」
女生徒達は顔を見合わせ、1人の女生徒が口を開く。
「反省しているからといって、許すという事が当然ではありません。まして、誰かに促されたり、お願いされてする事ではありません」
「それは…そうですね。諭すような言い方をして申し訳ありません」
「それに、私達はまだあの方に謝罪されてもいません。私達の様な思いをした方は多く居ますから、慕われていないのは当然かと」
彼女達の言い分は最もですわ。
クリスティーヌ様の人望の無さが今の現状ですもの。
それに謝罪をしていないというのは、どういう事でしょう?
明らかに以前と違って態度が改めてられているというのに。
「リーゼさん。どうかしました?」
「セレスティーヌ様。少し、考え事を」
「あちらの部屋で2人で少し話しませんか?」
「えぇ是非」
「それで何に悩んでいるんですか?リーゼ義姉様」
「あら、この眼鏡をしているのに、わかりますの?」
「わかりますよ。眉が少し下がっていますよ」
「あら、私とした事が。はぁクリスティーヌ様の事です」
クリスティーヌ様の名前を出すとセティーさんは複雑そうな顔をしましたわ。
「クリスティーヌ様との間に何かあったのですよね?」
「リーゼ義姉様になら話して問題ないですね。家族になるんですし」
セティーさんとクリスティーヌ様との間に起きた出来事を聞きましたわ。
「そんな…そんな恐ろしい事が…。では今クリスティーヌ様の態度が改められていたのは…」
「アルベール家での扱いが変わり、処罰が降りたのでしょう。彼女達に謝罪していないのは、過去の行いまでは振り返えられていなのではありませんか?それに、誰に何を言ったのか、きっと覚えていないと思います」
「そのようですわね…。はぁ私としては、クリスティーヌ様には1人の女生として幸せになってほしいのです」
「私もそう思っています。ですからクリスティーヌ様には、更生して幸せになってほしいのです。」
「優しいのですね(私がセティーさんの立場でしたら、その様に言えませんわ)」
「私はクリスティーヌ様に関わる事は出来ませんので、リーゼ義姉様がクリスティーヌ様の為に動いて下さるのは嬉しく思います」
「それも出来るのは、後少しですわ」
大事な義妹をその様な目に合わせたのですから、嫁魏マルヴィン家の人間になりましたら。関わりを断ちませんと。
「学園を去るまでの残りの時間で、出来る事はしてみますわ」
「リーゼ義姉様、ありがとうございます」
放課後、エリザベートはクリスティーヌのもとへ訪れた。
「クリスティーヌさん。ご機嫌いかがですか?」
「リーゼさん。特に変わりはありませんわ」
クリスティーヌは不貞腐れたように答えた。
「前に私と人との話し方を学びましたが、そもそもお話出来る方が居ない様ですね」
「っ!仕方ないではありませんの!誰も茶会には参加してくれませんし、皆私から離れていくのですから!」
「それは、過去の行いのせいでしょうね。今まで自分より身分の低い令嬢達に酷い言動を行ってきた報いです」
「それは、そうかもしれませんが。私だって態度を改めていますわ」
「ですが、今だに謝罪をしていないようですが」
「過ぎた事を謝れと!?」
「当然です。謝罪も無しに受け入れてもらえるなんて、ありはしません」
クリスティーヌ様は苦虫を潰した様な表情をしていますわ。
「謝罪とはどの様にすればよろしいの?」
「謝罪をした事が無いんですか?」
驚きですわ。
まさか謝罪をした事がないだなんて。
「酷い事をした方々全員に『酷い事したり、言ってしまって申し訳ありません』と言って頭を下げて下さい。誰に何を言ったのか覚えていないのでしたら、今までお茶会等で共にした方々全員にして下さい」
「私が頭を下げるですって!?」
「頭を下げるだけでは足りないかもしれませんよ」
「そっそんな事を私がするだなんて…」
「出来ないのであれば仕方ありません。貴方はずっとこのままでしょう。では、私はこれで失礼させて頂きます」
「あっ…」
クリスティーヌ様は私に向かって手を伸ばしていましたが、気づかなかった事にしました。
それから数日、クリスティーヌは令嬢達に謝罪をした。
今までのクリスティーヌからでは謝罪するなど考えられない事であり、令嬢達に衝撃が走った。




