理想の結婚②
「それでね!セティーのアイディアが本当に素敵な事ばかりだったの!全部写して来ちゃった!」
そう言ってマリアは私のアイディア書の写しを見せた。
「私も見てみたいです!」
「セティー俺にも見せてくれないか?」
マリア、エメリア、シャル様の4人で温室に集まって、例の結婚式や結婚生活についての私の理想というか空想が詰まったアイディア書の話になったわ。
マリアはさっそくシャル様に結婚指輪について話して、シャル様とお揃いの指輪を作る事にしたみたい。
「俺として指輪の素材は金が良いな」
「金も素敵ね。デザインはどんなのが良いかしら」
「俺も付ける物だからな。可愛すぎない物で頼みたいな」
「一生付ける物だから、あまりデザインに凝らない方が良いかしら」
「割とシンプルなデザインが良いと思うわよ。結婚指輪の上に、他の指輪や装飾を付けても良いような物が良いと思うわよ」
普段からシャル様は指輪を3つ以上してるし、ナハラセスではたくさんの装飾品を身につけるのが普通だもんね。
「やっぱりそうよね」
「そうなってくると使う石はやはりダイヤがいいか」
「シャルにはシンプル過ぎるんじゃないかしら?」
マリアが書いている紙を見ると、ダイヤ一つが埋め込まれ金の指輪が書かれていた。
「それならエタニティリングにしたら?」
「エタニティリング?」
あっこれも前世の物だったわ。
「ええっと、途切れるコト無く、リングの全周を同じ大きさのダイヤを使うの。途切れずリングの輪を一周する事で、永遠を表すエタニティって呼んでも良いかなって」
最後ちょっと苦しかったかな。
「エタニティリング…素敵…」
「セティーそのアイディア使わせてもらっても良いか?」
「もちろんよ。デザインの候補の一つにでもしてね」
「この招待客から花びらを投げてもらうフラワーシャワーというのも素敵ですね!」
「あっ私もそれ素敵だなって思ったの」
「ほう、どれどれ」
他にも海の見える教会での挙式だの、森や庭園でのガーデンウェディングだの色々書いてあったわ。
結婚式以外でも、結婚記念日を2人で祝いたいとか、子供が出来たら、子の誕生日の他にパパ、ママ誕生日でもあるから、それも2人で祝いたいとか。
ほんと、色々書いたわ。
少し恥ずかしいわ。
「皆んなくれぐれもアル様には言わないでね」
「それは良いですけど、アル様にこそ知ってもらった方が良いんじゃないですか?」
「私の結婚式は伝統に則った物で、形式も全て決まっているから、こんな妄想の詰まった物知られても困らせるだけよ。私も自分の結婚式でやりたいわけじゃないから良いの」
少しだけ、自分に言い聞かせる様に言ったわ。
アル様から頂いたペアリングを見る。
結婚式は王家から頂いた指輪をするし、挙式と披露宴ではグローブの下に身に付けようかしら。
この指輪も凄く高価で、宝石の格も最上級だから、王太子妃になっても普段付ける事が出来るわ。
格式のある式典なんかは外す様言われるかもだけど、その時はグローブの下に付けておけば良いわよね。
「王族の結婚式は伝統だの格式だの面倒な事を言う輩が多いからな。ナハラセスでの結婚式もマリアにとっては堅苦しい物になるかもしれん」
「大丈夫。わかっているわよ」
「その分、ベスタトールで挙げる式は自由に好きな事をしよう」
「ふふ、ありがとう」
マリア、良かったわね。
メイドや執事、それに騎士達にも自分のウェディング姿を見せたいというマリアの希望でエルランジェ家の者達も式に参加するのよね。
あくまで私的な式として、本当に親しい人しか呼ばないからこそ出来る事だわ。
ナハラセスに向かう時もエルランジェ領に寄って領民の顔を見てから行くって言っていたわ。
私も家の人達に見てほしいわ。
特に私付きになってくれたメイドのエル、カミラ、アンナの3人には。
当日は王宮で支度するし、王家の結婚式に参列出来るのは伯爵位以上の貴族だけ。
だから家の人達に花嫁姿は見せられないのよね。
はぁ。
ダメダメ、考えるのは辞めよう。
私は既にアル様に結婚式に関して我儘を言ったんだから。
結婚式にエメリアとリュカを招待したいという我儘を。
招待客リストを見せてもらった時、まずエメリアの家名が無いと知った私は声を上げそうになったわ。
反対にアル様は一瞬困った様な顔したけど、納得している顔をしていたわ。
幾ら私の学友とはいえ、男爵位で貴族の血が流れていないエメリア。そして平民のリュカを王家の結婚式に招く事は出来ない。
考えてみれば当然の事なんだけど、私は落胆してしまったわ。
アル様に何か望む事があるかと言われた時、2人を招待したかったと言ってしまったのよ。
そんな私の我儘をアル様は叶えてくれた。
後から文句が出ない様、根回ししてくれたの。
アル様が王太后陛下に呼び出されたと聞いた時、肝が冷えたわ。
アル様は笑っていたけど、きっとお叱りを受けたに違いないわ。
「セティー大丈夫か?」
視線を上げると、シャル様が私を心配そうな顔をして見ていた。
「えっ?あっちょっと考え事をしていただけよ」
「そうか?それなら良いが。マリッジブルーになっているのかと思った」
「そんな事、あるわけないわ。今から来年の結婚式が楽しみなんだから」
それからお開きにして、それぞれ寮へ戻る事にしたわ。
---------------------------
男子寮談話室。
「はぁー。やっと今日のノルマが終わったよー」
ヴィクトルは背を伸ばした後、目の前のテーブルに突っ伏す。
「流石のヴィもお疲れの様だな」
「体動かすのとは違った疲れだよ。やっぱり頭を使うのは疲れるね。でもこれで明日は皆んなとランチが出来る」
「そうか、それは良かった。マリアも寂しがっていたからな」
「1週間近く一緒に食事を取れなかったからね。シャル様、その指輪の絵は何?」
ヴィクトルは自身の資料を片付けながらシャルエラントの持つ絵を見る。
「これか?これは俺とマリアの結婚指輪だ。どうだ、素晴らしいデザインだろ」
「一周全てダイヤなんだ!綺麗だね。ってそれより結婚指輪って何?」
「婚姻後に互いに身につけるお揃いの指輪だそうだ。どんな場面でも外す事がなく、生涯その指に嵌めているらしい。ジルとエリザベート嬢が作ったと聞いてマリアが羨ましがってな」
「へージルさん達が。それは流行りそうだね」
「流行るだろう。なんせ発案者はセティーだ。セティーの『理想の書』に書かれていたのをジルが見たんだ」
「セティーの理想かぁ。なんか凄そうだね」
「素晴らしい案が多かったぞ。だが、くれぐれもアルにはセティーの理想の事は内緒にな」
「わかっているよ」
「セティーの理想…」
「「!?」」
シャルエラントとヴィクトルが談話室の入り口を見ると、そこには呆然と立ち尽くすアルベルトとジェラルドの姿があった。
「シャル、セティーの理想とはどういう事なんだ」
アルベルトはフラフラと歩きながら、シャルエラントに詰め寄る。
シャルエラントは目を逸らさず、笑顔で答える。
「なんの事だ?」
「セティーの理想が書かれた書を見たと話していただろ」
「はぁ。聞かなかった事には出来ないか」
「セティーの事に関して、聞かなかった事になど出来るはずないだろ。どういう事か説明してくれ」
「それについては私から話をさせて下さい」
仕事で寮へ付いて来たジェラルドは、申し訳なさそうな表情をしている。
「私がセティーに結婚式や婚姻生活について何か理想など書き出してほしいと頼んだのです。ですから、アル様との結婚式に不満があるわけではありません」
「何故ジルはセティーにそんな事を?」
「それは…。セティーの理想がリーゼの好みに近いと思ったからです」
「愛する婚約者の為にか。ジルも変わるものだな」
シャルエラントは揶揄うような表情をしている。
「私だって愛している女性には優しく出来るのですよ。リーゼは公爵令嬢として振る舞う為、好きな物より、品格や自身に相応しく似合う物を選んでいます。本来の趣向に関しては、セティーの趣向と合う様です。私との結婚式にも全て公爵家の品格に合うものを選んでいます。私達には公爵位としての立場もありますが、1人の女性として私との結婚に幸せを感じてほしいのです」
「それで、セティーに理想を書くよう依頼したと。だがそれを結婚式で実現させる事は出来ないだろ」
「公式のでは無理でしょう。ですが、私的の式であれば話は別です」
「なるほど。俺達の様に私的な式ならば可能だな」
「そうです。シャル様達の様に私的な式をリーゼには秘密で準備をしています」
「秘密なのか?」
「えぇ。リーゼの事ですから、遠慮してしまうと思うので。ハネムーンで2人きりの式をと考えています。それなら、他からとやかく言われる事はないので」
「2人きりか。それが良いだろうな。マリアは他国に嫁ぐという理由があるが、エリザベート嬢は違う。それに王族の次に高位貴族の男女、注目は必須だからな」
「2人きりの式か。それって司教とかはどうするの?」
ヴィクトルが首を傾げてジェラルドに質問する。
「小さな教会の牧師が居れば十分ですよ」
「そっか。2回挙げると教会が五月蝿そうだけど、私的な式だし、記録に残らなきゃ良いもんね」
「えぇ。それなら教会側も貴族達にもお咎めをされる事はありません」
ジェラルド達3人の会話を聞きながら、アルベルトは小さく呟いた。
「2人きりの式か……」




