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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
172/235

リーゼ

学園の空き教室。


リーゼはクリスティーヌに礼儀作法を教えていた。


「はい。そこで腰と足の位置をキープしたままお辞儀です」

「こっこんなにキツイんですの!?」

「この角度が1番美しく見えるのです。お辞儀が出来ましたら次は受け答えについて勉強しましょう」

「少しは休憩を入れて下さいませんか!?」

「ダメです。その後はお勉強をするのですから」


リーゼの返答にクリスティーヌは顔を青くする。


「こっこんなに厳しいなんて…」

「何か言いました?」

「なっなんでもないですわ」

「それなら結構。見本となるべき貴族令嬢が結果も出さずに投げ出すなど、あり得ませんからね」

リーゼは笑っている様で、纏う空気はピリついている。


「貴方は身長もあってスタイルが良いのですから、正しいお辞儀が出来ればより映えますよ」

「私の自慢のプロポーションを持ってすれば当然ですわ」

「はい、減点です」

「なっなんでですの!?」

「今のは謙遜する場面です。『そんな事ありませんわ。褒めて頂きありがとうございます』と返事するべきです」


リーゼのメガネがキラリと光る。


「だって本当の事ですもの」

「確かに謙遜をし過ぎるのは良くありませんが、自慢ばかりでは傲慢で高飛車なナルシストだと思われます」

「ナッナルシスト…」

「逆の立場になって考えて下さい。ちょっと褒めただけで自慢ばかりしてくる人は嫌ですよね?」

「それは…確かに…そうですわね」


クリスティーヌは苦渋な顔をして納得する。


「クリスティーヌ様には社交辞令や謙遜を覚えてもらう必要がありますね。侯爵家の御令嬢なのですから褒められるは当たり前ですが、全て鵜呑みにしていてはダメです」

「今の私はどういう評価なんですの?貴方ならちゃんと答えてくれますでしょう?」


リーゼは口元に手を当て、少し考える。


「そうですね。一言で言うなら『メッキ』ですね。見た目だけ高そうに見えて中身は価値の無いアクセサリーのようです」

「なっ!?メッキ…」


クリスティーヌはリーゼからの評価に驚きを隠せない様だ。


「私がメッキのアクセサリーと例えたのには意味があります。この男尊女卑の社会では女性は男性のアクセサリーになりやすいのです。特に中身のない、見た目だけを着飾っているだけの女性は、男性の隣に居るだけの存在になります」


リーゼの話す声のトーンは低く、その声には僅かに怒りが込められていた。


「女性は男性の下であるべき、男性を楽しませる為に着飾るべき。その為、勉強は程々で良いとされてきました。そのせいで男性に、他者に、軽んじられる女性が多いのです。私は貴方にはそうなってほしくありません」

「リーゼさん」

「見た目の良い貴方はアクセサリーになりやすい。男性の横に侍るだけなら簡単です。ですが若さを失ったら捨て置かれてしまう。人生は老いてからの方が長いのです。得た知識や教養は荷物にならない財産です。例えこの先に1人になってしまっても自分助けてくれるものですから」


クリスティーヌは少し不貞腐れた表情で答える。


「そうですわね。でも貴方は1人になりませんわ。わたくし以外にも慕う方達が居ますもの」

「あら嫉妬ですか?」

「ちっ違いますわ!ただ私が最初に相談しましたのに…」

「ふふ。私は物では有りませんから、独り占めは出来ませんよ。だけど、私はいずれ1人になります。きっと遠く離れた場所で残りの人生を1人で生きて行く事になるでしょう」


クリスティーヌは怪訝な表情をする。


「何故ですの?何故そんな事が起きると言うのですの?」

「それは我儘を通した、身勝手な行動への罰だからです」

「罰?貴方が一体に何をしたというのですの?」

「先程も言った通り、我儘で身勝手な行動ですよ」


リーゼは目を瞑り、想いを馳せる。

(ジェラルド様がミレット子爵領へ監査のため訪れたとの報告がありましたわ。ジェラルド様は『リーゼ』の正体に近づきている筈ですわ。こうなる事は予測しておりましたが、取り急ぎ他国へ嫁ぐ準備をしなけばいけませんわ。適齢期を過ぎて慌てて婚姻を結んだ訳ありの女なんて、碌な扱いをされませんわ。

だけど…。

この数ヶ月、とても楽しかったですわ。

愛する人を近くで見つめる事が出来て、会話が出来て、本当に、本当に充実しておりましたわ。

だから、後悔はありませんわ)


「リーゼさん?」

(クリスティーヌ様の成長を見届けられないのは少し心残りですが、仕方ありませんね)


「これをクリスティーヌ様に渡しますね」


リーゼがクリスティーヌに手渡したのは分厚く纏められた資料だった。


「これを全て覚えられれば、他の人に軽んじられない知識や教養が身につきます。後は貴方の頑張りですね」

「こっこれを全部ですの!?こっこんなの無理…」

「無理ではありませんよ。実際セレスティーヌ様やマリア様は全て身につけていますし、他の高位貴族の令嬢も身につけてるでしょう」


(むしろ高位貴族で身につけていないのはクリスティーヌ様くらいですから、絶対に覚えてほしいですわ)


「貴方なら出来ます。貴方は誰よりも負けず嫌いですから」

「わっわかりましたわ!その代わり私がこれを覚えたらちゃんと褒めてくださいませ!褒美に貴方のお茶会にお呼ばれしてあげますわ!」

「ふふ。えぇその時は是非。(なんて天邪鬼な。これだから貴方は憎めませんのよ)」

「絶対ですわよ!」


コンコン。


「リーゼさんはいらっしゃいますか?」

「はい、私ならここです。お入り下さい」


空き教室へ入ってきたのは一年生の男子生徒だった。


「ジェラルド先生からこの資料をリーゼさんに届けるよう依頼してほしいと頼まれした」


リーゼは場所のメモと資料を受け取る。


「ありがとうございます。確かに承りました」

「届けるのは教えが終わってからで大丈夫との事です」

「そうですか。ありがとうございます」


リーゼはクリスティーヌの指導後、ジェラルドから依頼された書類の届け先を改めて確認をし、歩き始めた。


「指定された場所はこっちですね…。あっここは…」

(ここは学生時代に匿名でジェラルド様と文通をした場所ですわ。植えている草木や花はあの頃とは違いますのね。でも、このベンチだけはあの時のままですわ) 


リーゼがベンチに触れる。


(もうここに来るのも最後ですわね)


「ん?これは…」


リーゼはベンチの木目に挟まれた手越を見つける。


『お久しぶりです。貴方にこうして再び手紙を送る事になるとは思いませんでした』


「!?この手紙はジェラ「初めまして」

「!?」


リーゼは後方から声をかけられ、驚きながら振り向く。

振り向いた先に居たのはニッコリと笑っているジェラルドだった。

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