呼び方①
誤字脱字報告ありがとうございます。
マリア達が正式に婚約したわ!
マリアはナハラセスで行う婚約式に向けての準備と王妃教育に凄く忙しいの。
だから今日の女子会にも不参加。
ちょっと寂しいわ。
「来週はセティーさんも王宮に行く予定でしたよね?」
「えぇそうよ。いよいよ結婚式の準備が始まるのよ」
「セティーさんも益々忙しくなりますね。あと半年もしないウチに最終学年になりますし、こうして過ごすせるのも残り僅かで寂しいです」
エメリアは口を尖らせ不貞腐れた表情をする。
っ!なんて可愛い表情をするの!?
あぁエメリアは今日も可愛いわ!
あっそうじゃなくて。
「そうね。でもエメリアだって来年には官僚試験に向けて忙しくなるでしょう?」
「それは…そうですね」
「私だって寂しいわ。頻度が減っても予定を合わせてお茶をしましょう。もちろん卒業後も。それに、数年後には一緒にナハラセスへ行けると嬉しいわ」
マリアがナハラセスへ嫁いだ後も3人でお茶がしたいわ。
ナハラセスとベスタトールは友好関係にあるし、私がナハラセスへ訪問する事があるはずよ。その時、エメリアが私と一緒にナハラセスへ行ける地位にいると嬉しいわ。
エメリアは目を潤ませ両手に握り拳を作る。
「セティーさん…。私頑張りますね!」
「ふふ。ありがとうエメリア」
「そういえば、セティーさんはアル様の事を名前で呼ばないんですか?」
「え?呼んでるじゃない。アル様って」
「そうじゃなくて!敬称なしでって意味ですよ!マリアさんはシャル様を呼び捨てにしてるじゃ無いですか!」
「ああ、その事ね。それはシャル様にそう呼ぶように言われたからでしょう?私は言われてないし、今更アル様を呼び捨てなんて無理だわ」
「そうなんですか?」
「えぇ。それにアル様って呼べるだけで私は嬉しいのよ」
「えっそれはどうしてですか!?(お2人は恋人ですのに一体何が!?)」
「色々あるのよ」
「あっそういえば、今日はアル様とランチだって言ってましたよね?時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。約束の時間はまだまだ先よ」
「休日はアル様も忙しいですもんね」
「この間、一緒にランチをする日はお互いに模範性の仕事が忙して、一緒にランチが出来なかったのよ。今日はその埋め合わせなの」
普段は皆んなとランチを取るから、2人きりの日は貴重なのだけど、どうしても仕事がね。
これからも公務や仕事関係で一緒に食事が取れない事があるかもしれないわね。
その時は寂しく感じるかもだけど、慣れないとね。
私も忙しい身分になるわけだしね。
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「セティー。来てくれてありがとう」
王宮に着いた私をアル様が笑顔で向かい入れてくれた。
「私こそ今日はありがとう。こうして時間を作ってくれて」
「気にしないでくれ。私がセティーと一緒に食事がしたかったんだ」
「ふふ、ありがとうアル様」
私達は食事を取る部屋に談笑しながら向かう。
すると目の前から文官が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「申し訳ありません、アルベルト王子。先程の決済の事で少々お時間頂きたいのですが…」
文官さんはチラリと私の方を見る。
私の存在を気にしているのね。
本当だったら、アル様は今日1日公務に務めている日だから私とのランチは予定外なのよね。
「アル様、私の事は気にしないで。先にお部屋でお茶を頂いているわ」
「セティー…。すまない」
アル様は眉尻を下げ、本当に申し訳なさそうな顔をするから、私は笑顔でアル様を見送ったわ。
私は笑顔でアル様を見送り、1人部屋で待つ。
そして待つ事1時間が経過したわ。
仕事だもの、仕方ないわよね。
それより、アル様は大丈夫かしら?
元々、約束の時間はランチにしては遅めの時間だったけど、すっかりアフタヌーンの時間だわ。
私はエメリアと軽食を食べたし、今もドライフルーツを摘んでいるけど、アル様はお腹を空かせているんじゃないかしら?
それに、私とランチをする時間を設ける為に無理をしたんじゃないかしら?
だんだん申し訳ない気持ちでいっぱいになってきたわ。
待つ事さらに30分。
コンコン
「アル様…「失礼致します。お茶のお代わりをお持ち致しました」
メイドだったわ。
もう私ったら。
「アル様は…お忙しいようね。アル様にご負担が掛かるようでしたら、今日はお暇致します」
お茶のお代わりが来たくらいだもの。
まだ時間が掛かるのよね。
普段忙しい時は片手間で摘める物を食べているって言ってたけど、私との食事があるせいでそれさえも食べていないかもしれないわ。
今日は帰った方がアル様も気が楽になるかも知れないわ。
「お待ち下さい!王子はセレスティーヌ様とのお食事を大変楽しみにしておりました。もう暫くお待ち頂けますか?」
「アル様との食事を楽しみしていたのは私も同じ。アル様に支障が無いようでしたら、幾らでも待つわ」
「では今暫くお待ち下さい」
「あっ一つだけ、アル様に伝言を頼めるかしら?」
「かしこまりました」
私はニッコリ笑ってメイドに伝言を伝える。
「『私は幾らでも待つから無理しないで』と伝えて」
「セレスティーヌ様…かしこまりました」
「お願いね。お茶ありがとう。気遣い嬉しいわ」
「いえ、もったいないお言葉、ありがとうございます」
さて幾らでも待てるとは言ったものの、手持ち無沙汰よね。
メイドが戻ってきたら何か頼みましょう。
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アルベルトside
「王子こちらの稟議書なんですが」
「こちらの稟議書にも目を通して頂けますか?」
なんでこうも次から次へと書類を持ってくるんだ!
それも承認に値しないものばかり。
地方の監査のため、ジルが不在にしている今日なら、セティーとの時間を作れると思っていたのに。
普段、ジルがこうした正当性のない書類を止めていてくれたのだな。
そしてジルが居ない今がチャンスとばかりに文官が押し寄せてきているというわけか。
途中メイドがセティーから伝言を伝えに来た。
セティーは幾らでも待てると。
私に無理しないようにと。
約束を反故にした上、既に長時間待たせてしまっているのに、私を気遣ってくれるなんて、セティーは天使の様に優しい。
「おぉ!セレスティーヌ様はなんと健気ですなぁ」
「婚約者の鏡ですね」
セティー…。
出来る限り早くセティーの元へ行かねば。
「王子、続いてこちらにも目を通して頂きたいのです」
「それは急ぎではないのだろう?」
「ですが…セレスティーヌ嬢の事を気にしておられるのなら大丈夫ですよ。セレスティーヌ嬢はお待ち出来るとの事ですし…」
「そうですな。真面目に公務に取り組むアルベルト王子に相応しい方です」
実際そうだとしても、セティーの優しさを利用されている様で気に入らないな。
「だからと言って、これ以上生産性の低い書類も話し合いも不要だろ。数日でジェラルドも戻ってくる。そちらの書類はジェラルドを通せ」
「えっそんな」
「おっ王子お待ちを!」
「これ以上、マルヴィン家の姫君を待たせる程の有意義な話にはならん!」
文官や臣下を振り切り、セティーの元へ駆ける。
「セティー!!待たせてしまっ…」
扉を開けた先に見えたのは本を開いたまま、眠りにつくセティーの姿。
静かに近づき、ソッとセティーの頬へ触れる。
「待たせ過ぎてしまったな…」
外へ視線を動かすと太陽は既に傾き、夕陽となっていた。
『お前は優等生過ぎる』
シャルから言われた言葉が頭を過ぎる。
王子らしく。
皆の見本となれる様に。
民に恥じぬ様に。
立派な王となる為に。
生まれた時から周りに言われ続けた言葉。
いつしか自分自身でも口にするようになり、自然と目標となった。
今の自分に、現状に不満などない。
そう思えるのはセティーが居てくれたからだ。
長くなりそうなので続きます。




