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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
163/236

カミーユ•アルベール

カミーユside


夏休暇中はもっとクリスと接して、勉強を教えてあげたかった。

だけど、シャルエラント王子やジャミール伯爵の件で仕事が立て込み、クリスと過ごすことが出来なかった。


初めの頃は母さんと一緒に一から勉強や礼儀作法を学んでいたけど、嫌気がさしたみたいだ。


やっぱり父様がお見合いをさせたからだ。

あんな男の元に嫁ぐ事になってしまうなら、誰だって嫌がさすはずだよ。


学園に戻ったクリスのテスト結果報告を見て、愕然とした。

さっ最下位…。

それに、この点数…。

もしかしたら、学園史上、過去最低点かもしれない。


週末は屋敷で勉強を見てあげた方が良いかな。

毎週屋敷に帰る事は、学園側は良しとしないだろうけど、1人で勉強する事は難しいと思うし。


これ以上学習が遅れると、追いつくのは難しくなる。

この成績のままでは、1年後に更生したと認めてもらえないだろう。

学園には僕から申請をするとして、許可が降りるまでは、クリスに夏季休暇までの授業の復習をしてもらおう。


クラスが変わって更に落ち込んでいるかもしれないけど、新しいクラスにはレニーも居るし、クリスの事を頼んであるから大丈夫だろう。


そんな僕の願いは、打ち砕かれた。

クリスの週末帰宅の許可か降りたと同時にクリスの素行に対する報告書が届いた。


レニーに暴力を振るった!?

報告書には授業でレニーを蔑む発言をし、教官室に呼び出された後、クリスはレニーの頬を叩いたと書かれていた。

学園側からも同じ内容が書かれた手紙が届いたから間違いはないだろう。


本来なら謹慎処分となると所、レニーのおかげで聖書の書き写しだけに済んだようだ。

レニーには、感謝したと同時に申し訳ない気持ちが強まった。


クリスにもキツく叱ってしまった。

思い返せば、クリスに叱るの初めてだったな。


今までクリスに申し訳ないという気持ちがあった事もあって、強く注意する事も、叱る事もしてこなかった。

クリスがこうなってしまったのには、僕にも責任があるんだ。


------------------------

レニーと以前交わした約束通り、報告を兼ねてお茶をする。


「レニー。クリスに代わって謝罪をさせてほしい。レニーに対する暴力、どんな事情があっても許されない事だ。本当に申し訳ない」

「頭を上げて下さい!上手くクリスティーヌ様を諭せなかったのは私です。それに、クリスティーヌ様の事を思うなら、カミーユ様が代わりに謝ってはいけないと思うのです」


レニーの言う通りだ、クリス本人ちゃんと謝罪しないといけない事だ。


「カミーユ様、気にしないで下さい。ほら、幸いにも跡にはなりませんでしたし」

「レニーありがとう。でも痛かっただろう?それにクリスが酷いことを言っただろう?」

「大丈夫です!どちらも慣れてますから!あっ…」


どちらも慣れている…。

つまり今回が初めてでは無いんだ…。

レニーに対して我儘を通す事があったけど、暴力や暴言があったなんて…

いつから、レニーに我慢を強いていたのだろうか。


レニーは言ってしまったという顔をした後、僕を心配する様にこちらを見ている。


「カミーユ様…あの、さっきの事は聞かなかった事に…「それは出来ないよ。レニー、クリスの事頼んでしまって申し訳なかったね。もうクリスの事は大丈夫だよ」

「カミーユ様、私はクリスティーヌ様の事、もう辛くは無いのです。カミーユ様から拒否する許可を頂いて、やっと本来の自分で、クリスティーヌ様と向き合える様になりました」


レニーはカミーユにニッコリとした笑顔を向ける。


「ですから、顔を上げて下さい。そして出来る事なら、まだ私に協力させて下さい」

「レニー。君は本当に優しいね。その優しさを利用する様で申し訳ないけど、クリスを引き続きよろしく頼むよ。もちろん嫌になったいつでも離れてくれて構わないから」

「はい。お任せ下さい」


思い返せば、レニーには助けられてばかりだな。


僕のお披露目パーティーでは、皆んな遠巻きに僕を見ていて、誰も僕とダンスをしようとはしなかった。

平民の母さんを悪く言う人ばかり。

血統主義の貴族達が、平民の血が入っている僕を認めないという意思の表れだったのだろう。

そんな中で僕に笑いかけてダンスの誘いを断らなかったのはレニーだったな。

まだ幼い彼女は貴族社会の事がわからなかったのかもしれないけど、凄く救われたな。


それから月日が経って、母さんのお披露目パーティーが行われた。

クリスも屋敷に帰ってきている。

強く叱ってから、距離を取られてしまったのと、父様から仕事を割り振られ、時間が取れず、きちんと話せていない。

帰ってきた際、元気が無いように見えたから、心配だな。


母さんは父様がエスコートするから、クリスの事は僕がエスコートする事になるだろう。

その時に話が出来たら良いな。


「クリスティーヌなら、パーティーには出さない」

「そんな!?」

「屋敷滞在中は自室謹慎だ。公のパーティーに参加させるわけには行かない」

「しかし、家族であるクリスが母さんのお披露目の場に顔を出さないのは、後々母さんの不利益になるのでは?」

「表向きには体調不良という事にしておく。それに、クリスティーヌが顔を出さずとも問題はない。全く暴力の次は男漁りか。血は争えないな」


クリスがパーティーに出れないなんて。

確か自室謹慎の身ではあるけど、これではますますクリスが屋敷の中で孤立してしまう。


「坊ちゃん、奥様をお部屋まで迎えに行って下さいな」

「それは父様の役目だよ。それよりマーサ、クリスはどうしてる?」

「クリスティーヌ様は大人しくしている様ですよ。旦那様と坊ちゃんのお2人で奥様をエスコートして下さい」


コンコン

「失礼します。本日の為に発注していた品が届きました。間に合って良かったです」


オリバーは小さな箱を持って部屋に入ってきた。


「オリバーこれは?」

「本日のパーティーの為に用意致しました、ブローチです。若様にはこちらを身につけて頂きます」

「これは、アルベール家の家紋」

「はい。旦那様や奥様も同じものを身につけております」

「わかった。ありがとう。これは…クリスの分もあるんだよね?」


僕の質問に対して、オリバーはニコッと笑うだけで答えなかった。

これが答えなんだろう。


マーサや他のメイド達もクリスの事を『お嬢様』とは呼ばない。

オリバーや使用人達もクリスを他人の様に接している。

このブローチは父様が用意した物だろうけど、所々でクリスを家族から外そうとする事があり、胸が張り裂けそうになる。



「ふふ。カミーとガジーに挟まれて、両手に花だわ」

「母さん。もっと緊張感を持って」

「フッ。レティらしいな。緊張で固まっているより良い。カミーユ、2人でレティシアを守るぞ」


こんな風に楽しそうに笑う母さんと、そんな母さんに柔らかい笑顔を向ける父様を幾度も見てきた。


一緒に暮らせなくても家族なんだと、疑う事なく過ごしてきた。


家族なんだと思って居た輪の中にクリスは居ただろうか?

何処かでクリスは家族だけど僕達3人とは違う家族。

別の枠組みの様な気がしていた。

サンドラ様が居たからだろうか。

でも今はちゃんと4人で家族になる事を考えないと。


母さんが挨拶をした直後、自然と拍手が起きた。

沸き起こった拍手に安堵の気持ちになる。

良かった、母さんは受け入れがられているようだ。


パーティーがしばらくして違和感を覚えた。

誰もクリスが居ない事を聞いて来ない。

『クリスティーヌ様がお見えになりませんが、どうなさいましたか?』なんて事を聞かれる事は予想していたのに。

まるでクリスが居ない事が当然のようだ。


今日はアルベール侯爵家の一門に対してのお披露目。

今までクリスに媚びていた人達ばかりなのに。


「レティシア様、近々お茶会に御招待したいのですが、よろしいでしょうか?」

「まぁ!ありがとうございます。伺わせて頂きますね」

「良かったですわ。それでは私はこれで失礼させて頂きます。3人が正式な家族となられました事、お祝い申し上げます」


3人…。

今わざと3人と言ったのか?


「レティシア様、初めまして。子爵家のレニーでございます。本日はお会いできてとても嬉しいです」

「貴方がレニーさんね。カミーから話は聞いているわ。私も貴方に会えて嬉しいわ」

「私もカミーユ様から聞いていた通り、お優しい方で安心しました。ところで…クリスティーヌ様の姿が見えませんが?」

「クリスは生憎体調を崩していて、本日は欠席なんだ」

「そうなのですか。残念ですね」


今日初めてクリスを心配してくれた。

やっぱりレニーは優しい。


「まぁ、レニーさんたら本当に優しいのですね。普通は暴力を振るった相手なんて心配しませんわ」


ザワッ。


「レニー嬢に暴力を振るったのは本当だったんだな」

「ウチの息子もレニー嬢の頬が腫れているのを見たと言っていたから、本当だと思っていたんだ」

「なんて野蛮な女なんだ」


周りから聞こえてくる声に声を上げそうになる。


「全く、侯爵の温情で侯爵家に居れるというのに、やはりあのサンドラの娘だな」

「今日は居ないようで安心しましたわ。侯爵家の血を引かない者が居ては、せっかくのパーティーが台無しですもの」


クリスが父様の子ではないと一門の者達に知られている!?


「ごっごめんなさい。私が不用意に聞いてしまったから」

レニーは青ざめた表情をしている。

クリスが父様の子ではないと、他の者には知られているようだけど、レニーは知らなかったのかもしれない。


純粋にクリスを心配してくれたのたというのに、こんな顔をさせてしまった。


「大丈夫よ。レニーさんのせいではないわ」

「はっはい」


母さんが宥めてもレニーは顔を青くしたままだ。


「ゔーん。そうだわ!カミー!渡す物があるって言ってたわよね?今それを渡したらどう?」

「そっそうだね。じゃあレニー、一緒に僕の部屋に来てくれないかな?」

「はっはい…」


部屋に着いた僕はレニーに向けて箱を開ける。


「今までの事、レニーへの感謝と謝罪を込めて用意したんだ。気に入ってくれたら嬉しい」

「わぁとても綺麗です」

「良かった気に入った様だね」

「でっでも私、カミーユ様に頼まれた事全然上手く出来なくて、さっきだって私の不用意な発言のせいで」

「それは気にしないでほしい。本当にレニーには助けられているから。付けても良いかな?」

「はっはい。どうぞ…」

「うん、よし。良く似合ってるいるよ」

「ありがとうございます」


顔を赤くしながらレニーは笑顔になる。

その笑顔を見て、何処かホッとした。


クリスが父様の子ではないと一門に知られた以上、ますますクリスの立場が難しくなる。

クリスもストレスからか、使用人達に当たってしまう事があるし、このままでは不味いな。


「あの、私クリスティーヌ様に挨拶をしたいのですが、許可を頂けますか?」

「レニーなら大丈夫だよ。クリスを励ましてあげて」

「はい!」



「クリスティーヌ様、レニー嬢が来てくださいました。開けますね」

「わっ私はまだ許可してないわ!」

「レニー様、何かあれば声を上げて下さい。部屋の近くには騎士も居ますので」

「はい。ありがとうございます」


使用人はクリスティーヌの返事を聞く前にドアを開け、レニーを中へ案内し退室する。


「わぁ本当に使用人達にさえ大事にされてないのですね。主人ではなく私の身を心配するなんて」

「なっ何の用ですの!?」

「まぁまぁ。そんなに興奮しないで下さい。私はレティシア様が一門の皆に認められた事を伝えに来たのです」

「そっそれが私にどう関係していると言うのかしら」


レニーはクリスティーヌの部屋を見渡し、クリスティーヌの質問に答える。


「侯爵様と奥様であるレティシア様、そしてカミーユ様の3人が正式に家族であると認められたのです。3人とも侯爵家の家紋が掘られたブローチをしていましたが、貴方には侯爵家の家紋が入った物は持っていない様ですね」


クリスティーヌはレニーの話にピクリと反応する。


「まぁ当然ですよね。貴方だけ家族ではないですもの。では失礼しますね」

「まっ待ちなさい!」

「嫌です。さようなら」


「私だけ…家族じゃ…ない…」



それからクリスティーヌは週末に屋敷に帰る事を辞めたが、化粧も辞め、地味になり学園でも教室の隅で過ごす様になる。


カミーユへは、大人しく過ごしているという報告がなされ、カミーユの中でレニーの株がさらに上がった。

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