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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
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初恋②

ジェラルドside


刺繍を見つめながら昔を思い出す。

あれはまだ私が学園に在籍していた頃。

2学年に上がり、私は模範生と剣術の監督生になった。


監督生の仕事は、訓練時の見本や一年生への稽古を監督すること。

そして時には他の生徒との模擬戦の相手を務める。

剣術に優れ、一定以上の成績を収める生徒が任されるものだ。


マルヴィン家は武門の家系ではない。

昨年の剣術大会の成績は一応3位だったが、他に武門の出で、騎士を目指している生徒はいる。

そんな私が監督生になったのは、母様の生家である、辺境伯家の血筋という理由だろう。


案の定、私を監督生と認めない生徒達が居た。

同じ監督生である、従兄弟のガルドと比べて、明らかに力不足なのは痛感している。

それに、母様似の中世的な顔と細身の体はどうしても弱く見えてしまう。


背丈は伸びたが、筋肉が付きにくい体質なのか、トレーニングをしてもガルドの様にはならなかった。


「お前の剣術は力よりも鋭さに優れている。それにお前には戦術を考える頭があるじゃないか。ジルは模範生の仕事に、アル様の側近としての仕事。それに、公爵家を継ぐための勉強だってあるだろう。全部抱えこもうとせず頼れよ。俺は剣の事だけは力になれるぞ」


ガルドはそう言ってくれたが、次期公爵家跡取りとして、不甲斐ない所は見せられない。


私には、特別剣の才能があるわけではない。

だから鍛錬の時間を増やすしか無い。

しかし他人の前で、無様に鍛錬している所を見せるわけにはいかない。


ガルドに鍛錬に付き合ってもらうのにも限界がある。

私は人目のつかない所で1人で鍛錬をする事にした。


「流石ジェラルド様!剣術の才能まであるなんて!」

「模範生と監督生の両方に任命されたのは学園初ですって!」

「お忙しいでしょうに。それでもサラッと卒なく出来て流石ですわ」

「まさに文武両道の天才ですわ!血筋に容姿も優れて、まさに神に愛された完璧なお方ですわ!」


表では女性達からの賛辞が聞こえてくる。

苦労する事なく、当たり前のように出来ると言われても、私は嬉しくはない。


「チッ次期公爵様は何から何まで天才かよ」

「俺らとは生まれも、貰った才能も違うんだよ」

「良いよなー。あれで顔まで良いなんて、世の中不公平だろ」


表面上は上手くいっていても、裏では悪意のある言葉が飛び交う。


「良いよなー女に困る事のない人生で」


そんなわけがない。

確かに女性達からアプローチを受ける事があるが、困ることばかりだというのに。


贈り物に髪の毛が入っている事。

ストーカーとなった令嬢から気味の悪い手紙が届く事は日常茶飯事。

女性相手に、男である私がストーカに悩ませれているなど、公にするわけにはいかず、黙って耐えるしかない。


初めて茶会に出た際に、令嬢達がお互いに罵り合い、醜く争う所を目にしてしまった。

その時から恋愛は避けてきた。

歳を重ね、成人した頃に、飲み物や食べ物に催淫剤を盛られるようになった。

既成事実を作り、公爵夫人の座を狙う為だろう。


そうして私が令嬢達を避けるようになり、令嬢達はセティーを取り込もうとした。

そういう事があって、自分に好意を寄せる女性に対して、ますます嫌気をさすようになった。


1人で鍛錬をしていたある日、ベンチに手紙と水が置かれていた。


手紙には『貴方様を応援しております』と書かれていた。

初めはまた新たなストーカーかと思い、置かれていた水と手紙は寮の部屋で捨てた。


それからも手や水が置かれていた。

『無理なさらないで下さい』

『適度にお休み下さい』

手紙は私を気遣う内容のものだった。


今までのストーカーとなった令嬢達は、何枚もの便箋に一方的な思いを綴っていたが、この方は違うようだ。


置かれていた水も未開封な物だとわかる。

水以外にも軽食やお菓子も置かれていた事もあったが、全て既製品であり、箱は未開封で変な物を入れられている痕跡はない。


この方は今までの様なストーカー達とは違い、本当に私を気遣って下さっているんだ。


次の日、今までの差し入れのお礼や気遣って頂いている事に対して感謝の手紙を書きベンチに置いた。


『御返事、感謝しております。私が行いたくて行っている事ですので、お気になさらずに』

私の手紙に対して、謙虚な姿は変わる事がなかった。


『貴方様の努力なさる姿が、私に力や勇気を与えてくださいます』


その後も頂いた手紙の内容は私を癒し、勇気をくれた。

私の弱さや泥臭く鍛錬している所を見て幻滅せず、励まし、気を遣ってくれる人なんて家族意外で初めてだった。


顔も名前もわからない彼女との手紙のやり取りが楽しくなり、鍛錬の度に手紙がないかベンチを確認していた。


この時点で私は彼女に対して惹かれていたのだと思う。


そんな日々が過ぎ去り、2度目の剣術大会を迎えた。


「ジルと当たるのは決勝だな!」

「そこまで残れるかが問題だよ」


昨年はトーナメントの運が良かった。

今年は騎士を目指している者や武門の出身の者ばかりと当たる。


『君の実力を信じている。頑張りたまえ』

昨日、教員にそう言われた事を思い出した。


どう見てもこのトーナメントは偏っている。

私の実力に疑問に思う者達からの嘆願があったのだろう。


「なんだよ珍しいな!緊張してるのか?お前の実力なら、余裕な相手だろ」

「私だって人間だからね、緊張くらいするよ。それに皆実力者ばかりだよ」

「平気だって!ジルだって今まで爺様のシゴキに耐えてきたんだからな!ジルの実力は俺が保証するぜ!」


ガルドにそう言って貰えて素直に嬉しい。

だけど、ガルドは知らないんだ。

お祖父様は私にだけ甘かった。

訓練では私にだけ皆より軽い重りをつけたり、メニューを軽くしていた。

それでも皆についていくのがやっとだった。


「「「ジェラルド様!ハンカチを受け取って下さいませ」」」

「申し訳ありませんが、妹からのハンカチが既にありますので」


こうなる事を予想して、セティーに頼んでおいて良かった。


「妹様のですか…」

「えぇ素晴らしい刺繍でしょう?妹が勉強で忙しい中、私の為に作ってくれたのです」

「そっそうですか…」


令嬢達を撒き、1人になりたくて自然と普段鍛錬している所へ足が向いた。


「はぁ。緊張のコントロールも実力の内だというのに、情けない」


自分がこんなに弱いなんて思わなかったな。


助けを求めたい気持ちになり、ベンチへ目を向けた。

そこには、いつもと同じように手紙と差し入れの箱が置かれていた。


『貴方様の頑張りが実を結びますように。御自身の努力を信じて、力を出し切って下さいませ。貴方様の活躍とお怪我が無いよう祈っております』

その手紙と共に緑の薔薇が刺繍されたハンカチだった。


剣術大会の結果は2位。

決勝でガルドに負けはしたけど、今までで1番ガルドに近づき、手応えのある試合だった。

この結果のお陰で、監督生として周りに認められた。


「ジル!こんな所で1人で鍛錬してたのか!」

「一緒に鍛錬して下さいよ。皆、貴方と鍛錬したがってますよ」

ガルドや他の生徒に1人で鍛錬しているのが見つかり、私と彼女の手紙のやり取りは自然と遠のいた。


そして最終学年に上がる少し前。

匿名で寮の部屋に手紙が届いた。

配達員から受け取った手紙は直ぐに彼女からだとわかった。


『模範生と監督生の兼任お疲れ様でした。間も無く、学園最後の年になります。悔いのない学生生活にして下さいませ。貴方様の活躍はこれからも陰ながら祈っております。今までありがとうございました』


久しぶりに来た彼女からの手紙。

だがその手紙の内容は突然の別れを告げるものだった。


「この手紙の依頼人の名前は!?」

「さっさぁ。ただ届けて欲しいと頼まれて。怪しい物でも無さそうでしたので、了承しましたが、如何しましたか?」

「いや、なんでもない。少し待ってくれ、この手紙の返事を届けてほしい」


私は、卒業式の後、手紙をやり取りしていたベンチに来てほしいと手紙を書いた。


だが彼女は現れなかった。

彼女との縁は途絶えてしまったのだろうか。


私は届くかわからない手紙をベンチに置いた。

会って話がしたかったという思いや、今までの励ましや気遣いへの感謝の気持ちを手紙に書いた。


そして手紙には剣術大会で身につけていたカフスを入れた。

本当だったら会って、貴方の手紙のお陰で結果を残せたと言って渡したかった。


女性に自分が身につけていた物を贈るなんて初めての事だったが、受け取って貰いたい、私を覚えていてほしかった。


その後は官僚となる為の勉強や公務、卒業後も忙しさに忙殺され、ハンカチの事は忘れていた。



彼女との思い出を振り返り、再び手の中にあるハンカチを見つめる。


リズが彼女なのだろうか。

リズには彼女の様な気遣いや私を思いやる気持ちを感じる。


彼女がもし、何か犯罪や陰謀に巻き込まれているなら、止めたいし、救いたい。

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