晩餐会
ジェラルドside
ピアノが置かれたホールでエリザベート嬢が来るのを待つ。
さて、私が楽譜なしで弾けて尚且つ、シャル様達の前で演奏するに相応しい曲は数曲。
その中にエリザベート嬢も弾ける曲があれば良いけど。
今夜シャル様が親しい人達だけで食事をしようと晩餐会に招待してくれた。
その時に演奏するには、あまり時間が無いからね。
「ジェラルド様、お待たせ致しました」
「いえ約束の時間前です。それに私も今来た所ですから。さっそく始めましょうか」
「えぇ。晩餐会まであまり時間がありませんもの」
エリザベート嬢と打ち合わせを行う。
「では、こちらの曲で如何でしょう?」
曲を実際に弾いて聴かせてる。
「流石ジェラルド様。難曲を難なく弾きこなすとは。日頃から弾いていらっしゃるのですか?」
「趣味程度に嗜んでいるだけですよ。それより、エリザベート嬢はこの曲は演奏出来ますか?」
「問題ありませんわ。さっそく合わせましょう」
エリザベート嬢との演奏は問題なく終えた。
エリザベート嬢こそ流石だなぁ。
この曲を完璧に弾きこなせている。
日頃からピアノをよく弾いているんだろうな。
この曲は日頃か練習してなければ、指がおぼつかなくなってしまう程の技巧が要求される曲だからね。
「合わせは問題ないようですわね」
「えぇ。エリザベート嬢の腕前は流石ですね」
「私ぐらいの技量は他に多く居ると思いますが、お褒めに預かり光栄ですわ」
現在の王室楽団の筆頭ピアノ奏者を抑えて、コンクールで優勝すること程の技量を持つ者が多数居るはずがないけどね。
「エリザベート嬢はいつからピアノを始めたのですか?」
「物心着く頃から他の楽器と一緒に始めておりますが、ピアノに力を入れ始めたのは11歳頃ですわ(ジェラルド様が、セレスティーヌ様のピアノを褒めていると、聞いたからですわ)」
「そうなのですね。他の楽器は何を?」
「どれも平凡な腕前ですが、ハープにフルートそれと、バイオリンを少々(バイオリンはジェラルド様がお弾きになるから)」
「それは凄いですね」
「それほどでもありませんわ」
流石はミッドランド公爵家の才女と名高い方だな。
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「ナハラセスで過ごす最後の夜だ。皆、楽しんでくれ」
シャル様の言葉に合わせ皆んなで乾杯をする。
「リュカ、ウチの者達が色々と世話になったな」
「いえいえ。充分な報酬は頂いてますし、こちらこそ完売御礼で父も喜びますよ」
「持ってきた布、全部あのランタンにする為に買ってもらえたんだったね」
「それだけではない。地下水を汲み上げる為、職人も貸して貰ったからな」
「サリュート商会はますます大きくなるね」
会話中にチラリとリュカを見る。
貴族や職人と打ち解けるコミュニケーション力があり、商才もある。それに、新しい物を生み出す能力も。
地下水を汲み上げる仕組みはリュカの発案だったはず。
サリュート商会の会頭は跡取りを長男に、次男には商会の会計を任せると決めいるけど、リュカが跡取りにならないのは惜しいと思うよ。
まぁ継がないなら、このまま官僚になって物流を担ってくれたら助かるんだけど。
こればかりは本人次第だからね。
「ん?セティー食べないの?香辛料が使われた肉料理だよ?」
「うっ。そっそれが。実はここ数日で太ってしまって。そっそれに、お昼にたくさん食べたので、生憎お腹が空いて無いんです」
「そうなんだ。じゃあこの肉料理は赤みの所だけにしておこうね」
セティーが気にする程ではないと思うけど。
それに、少しぐらいふくよかでも良いと思うけど、女の子のセティーに余計な事は言ってはいけないからね。
香辛料を使った料理はセティーの口に合っている様だし、少し買い付けて自宅でたまに出してもらおう。
たまにならセティーも気にせず食べられるだろうしね。
そんなセティーの気持ちに気づかずに、アル様はセティーの元にせっせと食事やデザートを運んでいる。
好きな人に太ってしまったなんて、絶対に知られたくないだろうに。
セティーの事だから断りきれず困るだろうな。
「アル様、セティーは昼間の試食とお茶会であまりお腹が空いていないみたいです。あそこのスープが良いかもしれませんね」
「そうなのか。あまり食べないから心配になったんだが、それなら良かった」
やれやれ。
アル様はこういう事に少し鈍い所があるから、私がフォローしていかないと。
晩餐会が中盤に差し掛かった時、エリザベート嬢が小声で話しかけてきた。
「ジェラルド様、そろそろ頃合いではないでしょうか?」
「そうですね」
「シャル様、僭越ながら私達が1曲奏でさせて頂きます」
「シャルエラント様へのお祝いと皆様へ感謝の気持ちを込めて弾かせて頂きます」
エリザベート嬢と目配せをし、演奏を始める。
練習通り曲の難所もズレることなく演奏していく。
流石エリザベート嬢。
人前での演奏に慣れているな。
緊張で強張ることは無いようだね。
「お兄様!エリザベート様!素敵な演奏でした!」
「エリザベート嬢のピアノを聴くのは久しぶりだが、流石の腕前だな」
「2人とも素晴らしい演奏だった!俺も少しだが楽器が出来る。せっかくだ一緒に演奏してみないか?」
「良いですね」
シャル様はナハラセスの楽器を演奏する。
シャル様の演奏にエリザベート嬢も合わせてメロディを奏でる。
私も遅れないように合わせなければね。
ナハラセスの曲は思ったより難曲だ。
楽譜を見ながらミスをしないように努める。
エリザベート嬢の方は余裕があるみたいだね。
初見の曲をこうも弾きこなすとは、流石だな。
「皆さん素敵な演奏でした!」
「そうか!俺の演奏も中々だっただろう?」
「シャル様も凄い腕前ね!初めてシャル様の演奏を聞いたけど感動したわ!」
マリア嬢の褒め言葉にシャル様は嬉しそうな顔をする。
その後も晩餐会は続き、夜が深まる前に晩餐会は終了した。
「ジェラルド様、本日は本当にありがとうございます。頂いたお花も大事に致します」
「いえ。あの花を気に入って頂けたようで良かったです」
「えぇとても綺麗ですので、見ていて癒されますわ」
「それは良かった。リーゼにもお土産にと思っていたので、女性の意見が聞けて良かったです」
「リーゼにですか。えぇ彼女もきっと喜ぶはずですわ」
流石にリーゼの名前を出しても動揺は見えないか。
「エリザベート嬢はリーゼと親しい様ですし、他にリーゼが喜びそうな物を知っていますか?」
「生憎ですが、彼女ときちんと知り合ったのは最近ですわ。ミレット家に令嬢がいる事は知っていましたが、彼女は領地から出てくる事が少なかったので」
「学園で一緒ではなかったのですね。リーゼと同じ学年でしたよね」
「クラスが違えば、付き合う方々も違ってくるものですわ」
「そうですか。それは失礼しました」
「こちらこそ。お役に立てなくて申し訳ありませんわ」
怪しさはなしか。
もう一つ確認したい。
「エリザベート嬢は『アンジェ』という女性はご存知ですか?」
「いえ。存じあげませんわ」
「そうですか。ありがとうございます」
エリザベート嬢と別れ、考えにふける。
アンジェ・ミレット
ミレット領に居た令嬢の名前だ。
監督生だったエリザベート嬢が同じ学年の女生徒を知らない筈がない。
リーゼがアンジェ・ミレットと同一人物である可能性は低い。
そもそもアンジェ・ミレットという令嬢が学園に在籍していたのかも怪しい。
帰ったら卒業名簿を確認しないと。
そうなってくると、リーゼがウチに面接に来た際に持っていた卒業書も本物なのか怪しいな。
参ったな。
ミッドランド公爵家とこれ以上溝を作るつもりはないのだけどな。
リーゼが何者なのか調べる必要があるけど、慎重に進めないとミッドランド公爵家と争いに発展しまうからね。
ただでさえ、対立派閥である上に、エリザベート嬢との婚姻を断ってしまっているからね。
こんな事なら婚姻を断らければ良かったかな。
いや、リーゼを私の所へ送り込んでくるくらいだ。
エリザベート様がスパイとして使われていたかもしれない。
リーゼが持っていたハンカチに施された薔薇の刺繍も確かめないと。
もしもリーゼが、あの人だったら。
私はどうしたら良いのだろう。
更新がだいぶ遅くなって申し訳ありません。




