ダイエットは明日から①
ゔーん朝かぁ。
いよいよ明日にはベスタトールへ帰国する日だわ。
もう少しゆっくりしていたかったけど、学園や公務もあるし、仕方ないわね。
それにしても、昨日のランタンは綺麗だったわぁ。
アル様と宮殿から眺めていたけど、とてもロマンチックだったわ。
ヴィクトルがマリアの為にシャル様が手配したんだろうって言ってたから、また見たいけど、今回だけの特別よね。
マリア、愛されてるわぁ。
そろそろ起きて着替えないと。
前にシャル様に貰った衣装持って来て良かったわ。
おかげで寝苦しさを感じずに寝れているもの。
お腹が見えて、足も透けてるから誰にも見せられないけど、寝巻きとしては快適だわ。
この衣装、前に皆んなでパジャマパーティーの時に一回着ただけだったから、着る機会があって良かったわ。
普段使ってる夜着に着替えてからメイド達を呼ばないとね。
はしたないと怒られちゃうもの。
ふと露わになっている自分のお腹を見て、先日見てしまったアル様の腹筋を思い出し、そっとお腹に手を置く。
引き締まってはいないけど。
だっ大丈夫よね、まだ…。
コルセットがない状態だと、どうしても気になるわ。
それに、お菓子や甘い飲み物ばかり食べて太ってしまったし…帰ったら運動しよう。
カサ。
ベットから出て普段の夜着を手にした所で足元に何か触れている様な違和感を覚えた。
ん?何かしら?
足元を見ると大きな蜘蛛が私の足にくっ付いていた。
「キッキャー!!あっあっち行ってぇー!!」
ムリムリムリー!!
あまりの大きさに驚き、悲鳴を上げてしまったわ。
「セティー!?どうした!?」
アル様が隠して扉から慌てて入って来た。
「アル様!!くっ蜘蛛が!!」
「蜘蛛?こいつか」
アル様が私の足にいた蜘蛛を外に追い出してくれた。
「アル様!ありがとう!」
「大きさに驚いたんだな。大丈夫だ、毒はない…やつ…だ…」
アル様、声が震えてるわ。
どうしたのかしら?
そう思った瞬間、アル様の顔が首まで赤くなり、顔に手を当て天を仰ぐ姿が見えた。
「セティー頼む…何か…羽織ってくれ」
「えっ…?ハッ!?」
わっ私!あっ今、足もお腹も見えてる!!!
「ッ!ヒャア〜!」
私は慌ててベッドに入り、身体を隠す。
「みっ見た…わよね」
「うっうむ」
アル様はコクンと小さく頷いた。
あぁやっぱり見られてたぁー!
「こっこれは、夜暑いからで。前にシャル様に貰った衣装で寝てて。メイドを呼ぶ前にいつもの夜着に着替えようとしたら蜘蛛が」
私は慌てて状況を説明したけど、アル様はこちらを見ようとしないわ。
もしかして、私のお腹を見て幻滅してるんじゃあ!?
だって会食もあったし、ナハラセスの珍しいお菓子に飲み物等の強い誘惑。
何より、この国でようやく食べる事が出来た、カレー!!
もう美味しすぎて、こっそりおかわりしてしまったわ。
だって仕方ないじゃない!
前世ぶりのカレーよ!
転生して16年、こちらの食事にも慣れて不満はないけど、前世の食べ物が食べたいなって思う事はあったわ。
そんな私の目の前にカレーが現れたのよ!
我慢出来る筈ないじゃない!!
たっ確かに昨日、何時もよりコルセットが締まらないって言われたけど…。
うぅ。
アル様だって会食して、お酒だって飲んでるのに完璧なプロポーションを保っているのに。
それに普段、アル様が私の腰に手を触れるのはドレス越し。
メイド達渾身の力でコルセットを締め、無駄なお肉を胸に集めた完璧な状態。
学園の時だって、ドレスの時より緩いけどコルセットしてるし。
アル様の方を見ると口元に手を当て、ハァと溜息をついているわ。
あぁ!
やっぱり普段より太いって思われたに違いないわ!
「アル様、やっ痩せるから…」
「ん?セティー?」
「やっ痩せるから、きっ嫌いにならないで」
ベッドの布団をギュッと掴み、意を決してアル様に伝えた。
ようやく私の方を見たアル様の顔はポカーンとしているわ。
「嫌う?私が?セティーを!?なっ何故そういう事になるんだ!?」
「えっ私のお腹見て幻滅したんじゃあ?」
「そんなわけないだろう!!」
アル様はベッドにいる私の所まで来て、私の手を握る。
「私がセティーを嫌いになる事など絶対にない!」
「でも私のお腹を見て固まっていたし、さっきは溜息だって…」
「婚姻前に、好きな人の肌を見てしまったんだ、動揺するのは当たり前だ。お腹だけじゃなく、足まで見てしまった…赤面するのは当たり前だろ」
そういえば首まで赤くしていたような。
そっか、私がアル様の腹筋を見た時と同じように動揺してただけだったのね。
「それじゃあさっきの溜息も?」
「自分を落ち着かせる為だ(セティーの姿を反芻してたなど、とても言えないな)この衣装は、私以外に絶対に見せてはいけない」
「わかっているわ。でも、アル様が私の肌を見て動揺するなんて意外だわ」
私がそう言った瞬間、アル様に身体を押され、身体がベッドに沈む。
「私だって男だ。この間といい、好きな人の肌を見て、何とも思わないわけがないだろう。頼むから、これ以上私を刺激しないでくれ」
アル様は私に覆い被さり真剣な顔をする。
そして顔を近づけ、私の耳元で囁く。
「そうじゃないと…私がセティーを襲ってしまうだろう?」
アル様はそのままカプっと私の耳に噛みついた。
「ひぁっ!?はっはい!!」
心臓が今までにないくらい速くなってる。
「はは、セティーも首まで赤くなっている」
「あっアル様!」
「これに懲りたら気をつけくれ、私の理性が持たない」
「きっ気をつけるわ」
アル様は私の身体を起こしてくれた。
「でも良かったわ。実は少し太ってしまったから幻滅されたと思って。帰ったらダイエットしないとね」
「ダイエットなど必要ないだろう」
「でも実はコルセットが普段より締まらなくてなっちゃって。アル様も太った婚約者は嫌でしょう?」
「セティーならどんな姿でも愛せる。それに少しぐらい太っても良いだろ」
「そっそうかしら」
私は布団越しに自分のお腹に手を置く。
アル様は私の手に自分の手を重ねニコッと笑う。
「セティーは気にしているようだが、男の私とは違い、柔らかそうに丸く、美しい曲線で魅力的だ」
ピシッ!
丸く…
今、丸くって言った?
「女性は痩せ過ぎているより、少しぐらい肉付きが良い方が良いと思う」
肉付き…
丸く…。
「抱きしめた時に骨が当たるよりも…」
駄目だわ。
アル様の言葉が耳に入ってこない…。
丸く=ぽっちゃりって事よね。
やっぱり痩せないと!!
それからアル様とは一旦別れ、メイドにドレスの着付けをしてもらう。
「やっぱり太ったかしら」
「確かにコルセットは少し締まり辛くなりましたが、お嬢様はまだまだお痩せになられてますよ」
「そっそうかしら。それにしては、にっ肉が付いた気がするわ」
「女性らしい体型に成長しているのですよ」
「女性…らしい」
「えぇ女性らしい丸びを帯びた身体になっていくのです」
丸い!!
お肉ならもう充分付いているわ!
お母様譲りで胸も大きく育ったし、これ以上丸くなる所なんてないわ!
そっそういえば、お腹ばかり見てたけど、お尻や太腿も太くなったような。
やっぱりすぐにダイエットしなきゃ!
「試食会、楽しみですね」
「え?」
「東洋の食材の試食会ですよ。お嬢様、すごく楽しみされていましたね。その後はエリザベート様達とお茶会の予定ですから、コルセットは緩めにしておきますね」
そっそうだったわ!!!
アジアっぽい国の方を見かけ、思わず声を掛けたらナハラセスに輸出する食材の試食会に招待されたの。
味噌や醤油があるかもしれないから凄く期待してたのよ!!
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結果から言って、味噌と醤油があったわ。
それを使った料理として、お味噌汁とお肉をわさび醤油で頂いわ。
お味噌汁を一口飲んだ時、美味しさはもちろんの事、懐かしさで涙が出てしまったわ。
アル様とお兄様は、最初こそ見慣れない味噌と醤油に困惑し、醤油の黒さに不味いのではと警戒していたわ。
私が涙を流す程に感動したならと、輸送費がとんでもなく掛かってしまうのに、ベスタトールにも輸入しようとするから、止めるのが大変だったわ。
最後に出されたお米にナハラセスのカレーがよく合う筈だと提案したわ。
ここではナンで食べけど、せっかくお米があるならカレーライスが食べたいじゃない!
実際カレーライスは凄く美味しかったわ!
「この前のサンドイッチといい、よく組み合わせを思いつくね」
「セティーは発想力が良いんだな」
ごめんなさい2人とも。
前世の食べ物なだけよ。
シャル様にはカレーに使うナハラセスのスパイスがよく売れたと喜ばれたから、良しとしましょう。
「セティーこれからお茶会だろう。言っていた通り、後で差し入れを持って行く」
「わぁありがとう!」
お茶会かぁ。
お菓子を食べ過ぎないようにしなくちゃ。
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「皆様、よくおいで下さいました」
「エリザベート様、招待ありがとうございます」
マリアとエメリアと一緒にエリザベート様のお茶会に招待してらもらったの。
パーティーでエリザベートの様の部屋を移すよう、シャル様にお願いしたら、直ぐにエリザベート様の部屋を別の宮殿に移してくれたわ。
部屋の準備が出来るまで休憩室で体調を崩したエリザベート様に付き添っていたの。
エリザベート様の荷物はエリザベートのメイドの他にシャル様の従者や私達のメイドが協力して運んだわ。
フィオーレのメイドが、頑なに付いてこようとしたのは気になったけど。
帰国も私達と一緒に行く事にしたとフィオーレの王子の下へアル様と一緒に伝えに言った際、かなり食い下がってきたし。
「この度は皆様にご迷惑をお掛けしました」
「そんな。気になさらないで下さい」
「そうですよ!困った時はお互い様です!」
2人の言う通りよ。
なんかあの王子怪しかったし、エリザベート様に何も無くて良かったわ。
「皆様ありがとうございます。帰りの船に私共もご一緒させて頂き、重ね重ね、ありがとうございます」
「大した事ではありませんよ。同じ国に帰るのですから」
「そう言って頂けてとても嬉しいです」
ゔーん。
固いわ。
私達は歳上がいるお茶会は慣れているけど、エメリアは私達以外は、同じクラスの令嬢達としかお茶会をした事が無いから、ちょっと緊張してるみたいだし。
お礼をしたいと言うエリザベート様に、それならお茶会に誘って下さいとお願いしたのは、失敗だったかしら。
コンコン。
「失礼。セティー約束通り来たぞ」
「歓談中に失礼します。こちらを差し入れに来ました」
「アル様!お兄様!」
アル様とお兄様が差し入れを持って来てくれたわ。
「わぁ!綺麗です!」
「なんと見事な飴細工なのでしょう」
エメリアとエリザベート様は口を揃えて飴細工を褒める。
「そちらはシャル様からです。シャル様は多忙なため来られないので差し入れを預かって来ました」
そうお兄様が説明すると、エリザベート様は少し申し訳なさそうな顔をした。
「まぁシャルエラント王子にまで気を遣って頂いて。ただでさえ私は御恩がありますのに」
「シャル様は気にするような方ではありませんよ」
「ですが、受けた御恩をどう返して良いものか…」
「でしたら、エリザベート嬢の演奏を披露しては如何ですか?シャル様は形式的な物より、個人からの気持ちを大事にする方ですから、きっと喜ばれますよ」
「私の演奏ではとてもお返しにはなりませんわ。それに、王子に披露出来るほどの腕前ではありませんわ」
エリザベート様は王室楽団に入れる程の実力だと聞いたわ。
私もエリザベート様のピアノ、聴いてみたい!
「エリザベート嬢、1人では不安であれば私のバイオリンと合わせましょう」
「ジェラルド様のバイオリンに私にピアノを?」
「えぇ。シャル様の誕生日祝いに演奏しようかと思っていたのですが、エリザベート嬢がピアノを弾いてくださるなら有り難いのですが」
「わっわかりましたわ」
「では後ほど手合わせをお願いします」
アル様とお兄様は差し入れを置いて帰っていった。




