誕生祭②
マリアside
シャル様とダンス。
そういえば、公的な場でシャル様と踊るの初めてだわ。
羨望の眼差しの他に、嫉妬や憎悪を含んだ視線が私に注がれれる。
「マリア、俺だけを見ていろと言っただろう」
「えぇ。そうだったわね」
シャル様の顔を見ると、ニッコリ笑ってくれた。
「ドレスよく似合っている。着て来てくれてありがとう」
「お揃いだなんて、驚いたわ。それにこの色使い。シャル様の色だと思っていいのよね?」
「もちろんだとも。今度は正式にドレスを贈っても良いか?」
「えぇ。私もドレスの御礼に何か贈らせてもらえるかしら」
「それなら、明日の時間をもらえるか?」
明日の時間?
「そっそんな事で良いの?」
「あぁマリアと過ごす時間が何よりの贈り物だ」
パーティーが終わっても来賓の方々とお仕事があるから忙しいはずなのに。
シャル様が私との時間を持つ為に、無理をしていなければいいけど。
シャル様とのダンスを終え、会場中から拍手が贈られる。
入れ替わりでアル様とセティーが前に出て来たのが見え、他の来賓の方もゆっくり前に出てきたわ。
きっとすぐに次の曲が始まるわ。
シャル様に熱い視線を送っている令嬢達とその父親がシャル様に向かってくるのが見えるわ。
シャル様はこれから他の方と踊るのよね。
「マリア、こちらへ」
「えっでもそっちは…」
シャル様に連れられて来たのはなんと壇上だった。
今は誰も居ないけど、シャル様や他の王族達が座る椅子が置かれているわ。
ここは、私が上がって良い場所ではないわ!
「陛下、こちらがマリア•エルランジェ。俺の大切な人です」
「ほぅ其方がシャルエラントの宝か」
「偉大なるナハラセスの太陽、皇帝陛下に御挨拶を申し上げます。ご紹介に預かりました、マリア•エルランジェでございます」
階段から現れた国王陛下に慌てて、挨拶をする。
口上はこれで正しいはず。
お辞儀もカーテシーではなく、足を揃えた状態でのお辞儀のはず。
「ナハラセス式の挨拶をもらえるとはな。シャルエラントの言っていた通り、優秀なようだな」
「もったいなきお言葉にございます」
他の王族の方々を紹介するとは言っていたけど、まさか皇帝陛下に会うなんて。
壇上の下はでは来賓達がダンスを踊ってる最中どけど、視線が注がれているのを感じるわ。
こちらを伺っているのはナハラセスの貴族達ね。
「シャルエラントが、自身の美しい月を見つけた事を喜ばしく思う」
「今はまだ月に向かって手を伸ばしている状態ですけどね」
月…。
皇帝陛下の事を太陽と表すという事は、月は皇后!?
シャル様いくらなんでもそれは…。
「ならば手に入れろ。この令嬢がお前にとっての唯一無二ならばな。マリア嬢、貴方がもう一度この地を踏む事を、余は望んでいるぞ」
皇帝陛下はそう言って私に手を差し出した。
私はその手を取り、皇帝陛下と握手を交わす。
「ではな。シャルエラント、約束を忘れるではないぞ」
「わかっています」
そして、皇帝陛下は会場を後にした。
「マリア大丈夫か?」
「きっ緊張したわぁ。いきなり皇帝陛下に会わせるなんて!」
「すまないな。どうしても陛下にマリアを思っている事を認められたくてな」
「っ!皇帝との約束って?」
み認められたいって…。
シャル様の言葉に、顔が赤くなるのを感じ、話題を逸らしてしまったわ。
「あぁ。母を一目見たいという願いを叶えてやるんだ。母は夫の助手に扮装して俺に靴を献上しに来る。その時に、隠し扉から覗いてもらうんだ」
「皇帝陛下はそこまでシャル様のお母様の事を…」
「夫と共に幸せな母を見れば、陛下も諦めがつくだろう。何しろカスィームは母にとって最愛の夫だからな」
皇帝と話していた時とまるで違う表情だわ。
皇帝とは何処か他人行儀に感じたわ。
「さぁ他の兄弟達を紹介しよう。アル達もちょうどダンスを終わったようだ」
「えぇお願いするわ」
シャル様に紹介されたのは3人の姫と1人の王子。
姫達はシャル様と歳の近い方々だけど、王子はずいぶんと歳が離れているのね。
皆様、心から歓迎して下さっているようだわ。
「貴方が僕の新しい義姉様になる人?」
「えっと…」
8歳の王子様がキラキラした純粋な目で私を見つめてくるから、なんだか否定しにくいわ。
「お前はマリアが義姉になると嬉しいか?」
「うん!とっても綺麗で優しそうだもん!兄様のお嫁さんになれば、僕の義姉様になるんだよね!」
「そうか、そうか。そうなれる様に、この兄が頑張るとしよう」
「ちょっとシャル様!」
シャル様!
子供に何を言っているの!
「間違っていないだろう?俺はマリアに求愛している立場だからな」
「だからって…」
皇帝陛下や他の王族の方々に私に求愛していると、言って周ることないじゃない。
なんだか外堀を埋められている気がするわ。
そういえば姫様達は…。
姫様達はジル様とヴィにピッタリくっついた。
「まぁ!公爵家の若様に婚約者がいらっしゃらないなんて。運命の神様はお休みをしていらっしゃるのね」
「ヴィクトル様!朝の鍛錬見学させて頂けますか?」
年上の姫様2人はジル様に、歳下の姫様はヴィにウットリしているわ。
「すまないな。姉妹達は嫁ぎ先を見つけるのに必死なんだ。俺が幾つかの家を取り潰してしまったからな」
シャル様がハレムを解体している上に、現皇帝陛下もハレムに足を踏み入れていない。
改革によって取り潰しにあった貴族がいる現状。
自分達を守るため為に、王家に習ってハレムを持たない貴族が増えるわね。
貴族の数が減った上に、ハレム文化も薄れれば、嫁ぎ先も当然減るわ。
「俺としては、安全な所であれば、何処でも良いと思うがな」
「シャル様…。あの方々はシャル様にとって大切人なのね」
「どうだろうな。姉や妹とは言葉を交わした回数は片手で足りるほど、希薄な関係だ。ただ、母親達には借りがある。俺や母が毒に苦しんでいる時に何度も助けられた。弟の母親も、俺を何度も匿ってくれたからな。その恩を返すだけだ」
母親達への恩返しね。
「そういえば、姫様のお母様達は後宮に居るの?」
「あの人達の母親なら、数年前にそれぞれ不慮の事故で天に昇った」
「そんな…」
不慮の事故って事はつまり…。
「そのため、返せなかった恩を姉妹達や弟に返す事にしたのだ」
「だから、姫様達をこの宮殿で本保護しているのね」
4人の周りに居るあの給餌は護衛よね。
「気づいていたか、流石だ」
「王族として認められている証ならサッシュで十分なはずよ。でも4人は壇上に繋がる階段から入場したわ。他の姫様達は会場の入り口からなのに」
「マリアの言う通りだ。改革に乗じてあの4人にはこの本殿に部屋を与えた。それに護衛もな。あの人達は自身を守る術が無いからな」
「じゃあ姫様達は安全なのね」
「後宮に居るよりは安全だろうな。それにしても、少ない情報から気づくとは流石だな」
「そうかしら。ありがとう」
そんな大きい事実じゃないし、少し考えればわかる事よ。
それにシャル様も秘匿にしている様子は無いし。
その後も姫達と話をし、4人は部屋へ帰っていった。
ジル様とヴィは明らかに疲れた顔をしているわ。
「ハハ。2人とも姉妹達がすまないな」
「はぁ、見て居たなら助けて下さいよ」
「ジルが姉2人のどちらかを娶ってくれるなら、俺は安心だがな」
「ご冗談を」
「ハハハ。やっぱりダメか」
「それにしても見られているな」
アル様が言った通り、ずっと視線が注がれているわ。
特に私を見てヒソヒソしているわ。
パーティーが始まってからずっとシャル様と居るし、皇帝陛下とも挨拶をしたから、シャル様の妃を狙っている人達にとって邪魔な存在よね。
「マリア、あちらで少し休もう」
「えぇそうしましょうか」
私達はセティー達と離れソファのある所へ移動する。
「シャル様お誕生日おめでとうございます」
複数の女性達が話しかけてきたわ。
わぁ!全員、凄く美人だわ!
「御友人と一緒も良いと思いますが、こんな時こそ自国の者達で団結せねばなりませんわ。どうでしょうか、私と一曲踊ってはいかがですか?」
1人の令嬢がシャル様の腕に手を置き、身を寄せしだれ掛かる。
本当にこちらの女性は積極的だわ。
それに皆んな凄い露出だわ。
「気安く触れるな。其方達と踊るつもりは微塵もない」
「そんなつれない事を仰らずに。ダンスがお嫌でしたら、お話しを致しましょう。私は舞が得意で…「では西国の経済状況について意見を交わそうではないか」
「えっ?あっあの」
シャル様は令嬢の言葉を無視して西国の政治経済について話し始めた。
途中私や令嬢達に意見を求めるけど、令嬢達は何も答えられない。
無理もないわ。
ナハラセスの女性が他国の政治状況を学ぶ機会が少ないのだから。
「ベスタトールでは女性でも男性のように学ぶのですね。私達はその分教養を学びますの」
「そうですか。それでは随分と高い教養をお持ちなのですね」
「舞や楽器は勿論、女として魅力を極限まで高めておりますの」
女としての魅力。
令嬢達は自分の魅力をわかっているし、それを出し惜しみすることもないわ。
高めた自身の魅力が自信に繋がり、他者と渡り合っていく。
それが、この国の女性の生き方であり、生き残り方。
「ベスタトールの方は本当に色が白いのですねぇ。大変でしょう?満足に太陽の下を歩けなくて」
「そうですねぇ。この繊細な肌を維持する努力は欠かさないですね。」
「そうですか。ではナハラセスで暮らすのは大変ですわねぇ」
「まぁこちらの女性は日傘を使わないのですか?いくらこちらの方々の肌が丈夫でもシミが出来てしまいますわ」
「わっ私達も使いますわ」
わぁ引きつった笑顔だわ。
私は澄まし顔をキープしなきゃね。
「それでしたら、何処の国でも外での過ごし方は一緒ですわ」
「外に出るなら天幕を貼ることも出来る。まぁマリアは例え日に焼けても美しいけどな。充分休んだ、アル達の所へ戻ろう」
ソファーから立ち上がり、その場を去ろうとすると女性の1人がシャル様の腕を掴む。
「お待ち下さい。ここに居るのはシャルエント様のハレムに入る事が決まっていた者達です」
「俺がいつ望んだ?決めつけていたのは其方らの父親だ」
「私はシャルエラント様に嫁ぐ為に生まれてきたのです!」
「そんなわけがないだろ。俺は幼い頃は女として後宮で過ごした。俺の為に生まれてきたなんて言葉は偽りだ」
「例え生まれた理由が偽りでも、私は美しく成長しましたでしょう!?」
「俺は望んでいない。そして、これからも望む事はないだろう。美しいだけの者に興味はないからな」
シャル様
なんて、冷たい目なのかしら。
「私達は芸事にも優れています。他にも…」
「舞や楽器なら俺も出来る。このストールを見ろ、マリアが丁寧に織り上げた一品だ。其方らには真似出来ない事だろう?」
「そんな物、職人が作った方が良いに決まってますわ」
「だからお前達とは相容れないのだ。離せ、これ以上纏わりつくようなら不敬罪に問うぞ」
「そっそんな。今まで女性には優しい方でしたのに」
「今の俺には特別な存在が出来た。この先、優しさを傾ける女性はただ1人だ」
シャル様がジッと私を見つめ、私の髪にキスをする。
令嬢達は顔を赤くし、怒りを表しながら私達の側を離れていった。




