-マリア-デート②
誤字脱字の報告、本当にありがとございます。
マリアside
この後どうしようかしら。
前回はシャル様が素敵なカフェに案内してくれたけど。今回も私の好きなこ事に付き合ってもらったし、私が提案した方が良いわよね。
「シャル様、この後どうする?買い物とかしましょうか?」
「マリアは買い物がしたいのか?」
「特に欲しい物はないんだけど…」
「それなら俺に任せてくれないか?この後の事はちゃんと考えてある」
「あっそうだったの。ごめんなさい。前もシャル様に任せっきりだったし、何か提案した方が良いかと思って」
私ったら余計な事を。
「いや良いんだ。俺も伝えてはいなかったしな。それに、俺とのデートに積極になってくれるのは嬉しい事だ」
シャル様は照れた様な笑顔をする。
そんな顔されたらこっちまで照れてしまうわ。
「2人きりで話がしたいのだが、良いだろうか」
「えぇもちろん」
「良かった。ここから少し離れた所に席を用意した」
シャル様の案内で森の方へ来たわ。
てっきり落ち着けるカフェに行くのだと思っていたけど。
どうして森に来たのかしら。
「ここだ」
「えっ?これって!?もしかして」
草木色の天幕に民族模様が刺繍された絨毯にクッション!
シャル様が用意してくれたのは、私が好きなキャラクターが冒険の時に泊まっていた天幕と家具だった。
挿絵のままだわ!
作品では魔法でこれらを取り出すのよね!
「気に入ったか?」
「えぇ!もちろん!凄いわ!どうやって用意したの!?」
「それは秘密だ。さぁ中に入ろう」
「わぁ!ランプまで本のままだわ!」
「気に入ってくれたようで嬉しい。ここなら人を気にせず話が出来る」
そう言ったシャル様は手を挙げ、お茶とお茶菓子を運んで来た従者を下げた。
そのままシャル様がお茶を淹れようとする。
「あっシャル様今日は私がお茶を淹れるわ」
「俺の国の茶だから、マリアは作法を知らぬだろう?」
「少し勉強したの。シャル様が嫌じゃなければだけど」
「っ!そうか。では、マリアに入れてもらう」
シャル様は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにニッコリ笑ってくれたわ。
シャル様のみたいには、まだ出来ないけど。
私は、一つ一つの動作を丁寧に茶器を扱う。
「どうぞ…。お口に合えば良いんだけど」
どうかしら。
家で練習した通りに淹れられたと思うんだけど。
「美味い。凄いな。俺の国の茶をこんなに美味く淹れられるとは」
「美味しく淹れられたなら良かったわ」
シャル様の国のお茶は使う茶器も違うし、お茶の種類もこちらとは全然違う。
茶葉の量や蒸らす時間、温度で味が凄く変わるから美味しく淹れられるようになるまで大変だったわ。
「マリア、ありがとう。俺の国の茶を勉強してくれて凄く嬉しい」
シャル様は私の手を取り、うっとりした表情で私を見つめてきた。
「そっそんな。お礼を言われるような事じゃ…あっ」
慌てて首を振ったせいで、髪に飾った生花が落ちてしまった。
せっかくヴィが摘んで来てくれた花なのに。
「着けようか」
「良いのよ。摘んだ時から時間が経ってるから、元気が無くなってきているもの。このまま持っているわ。この花、昔ヴィと一緒に植えた花なの」
「ヴィとの思い出の花か」
「えぇ」
シャル様が一瞬顔を伏せる。
すぐに顔をあげ、再び私を見つめ、花を持つ私の手を、包むように手を添える。
「俺はマリアを心から愛している」
「シャル様…」
「マリアの幸せを願うのであれば、諦める方が良い事はわかっている」
「え…」
「愛する家族や友人達から遠く離れた土地に嫁いでくれと。そして重積のある王妃の地位に着いてくれと言っているのだからな。それに、この国で外交官になると言う夢を諦めろと言っているようなものだ」
「シャル様…」
「他にも、俺の国はこの国より平和とは言えない。俺も改革の為、この手を汚してきた」
「シャル様それは!」
必要な事よ!
それに、悪事を働いた人を処罰しただけよ!
「マリアに俺の知らない所で寂しい思いや悲しい思いをさせてしまうかもしれない。だが、それでも!諦める事が出来ないんだ!」
「シャル様…」
こんな必死な表情、初めて見た。
「今はまだ、この国には及ばないが、必ずこの国にも、他のどの国にも負けない、平和で豊かな国にしてみせる!そして、マリアを悲しませない様に努力する!だから、俺の隣で王妃として、国の代表として外交をする未来を考えてくれないか?」
「王妃として…外交…?」
「今まで、王妃に公務は無かったがこれからは違う。俺はマリアの官僚になる夢を叶えてやる事は出来ない。しかし、外交を担う権利を用意する事は出来る」
「それは、他の貴族が黙っていないわ!今だって改革の反動があるんでしょう!?」
シャル様は笑顔を作り、私の言葉に答える。
「それは俺が背負う責任だ。それに、俺はマリアに出来る全ての事がしたい。マリアが笑っていられる世界を作れないようでは、マリアを愛する資格がない」
「シャル様…」
胸が切なく締め付けられる。
あぁ。
やっぱり私はシャル様の事が好き。
シャル様は私のために改革を進めてくれた。
私の夢に沿う役割だって用意しようとしてくれている。
私が幸せになれるように環境を整える努力をしてくれる。
何より、私以外の女性への接し方が変わったわ。
不安なんて、とっくに埋めてくれていたのね。
私もシャル様の隣に立つのが自分以外の女性では嫌だわ。
私は視線を手元の花に移す。
花を見た瞬間、ヴィとの思い出が頭を駆け巡る。
王族に、シャル様の国に行ったら、二度と会えないかもしれない。
いつも隣に居るのが当たり前の、私の半身。
怖い…。
ヴィと離れるのが、怖い。
身体と心を半分、もぎ取られる様な感覚だわ。
ヴィと離れるなんて…私には出来ない。
こんなに大切にしてもらってるのに。
不安を埋めてくれているのに。
気持ちに応えたいのに。
それに、セティーやエメリアとも会えなくなるわ。
「…。今度、俺の誕生祭があるんだ。本来は休暇中に行う予定だったのだが、色々あったからズレてしまったのだ。皆も招待するから、一度俺の国を見に来てくれないか」
困った様に笑うシャル様に、力無く「はい」と返事することが、精一杯だった。
帰り道、髪を束ねているおかげで普段よりハッキリとシャル様の横顔が見えた。
シャル様の瞳は何時も通り、まっすぐ前を見据えているように見えた。




