お茶会-学園-
資料室でリュカはシャルエラントに小声で話しかけ、封筒を渡す。
「シャル様、こちらが頼まれていた物になります」
「おぉありがとう。いつもすまんな。無理ばかり言って」
「いえ、家のツテを使っているだけですので、お気になさらず。シャル様こそ何時もウチをお使い下さってありがとうございます」
「リュカは俺の友だからな。リュカの家なら信用出来る」
「ありがとうございます」
シャルエラントは手元の封筒を開ける。
中にはマリアと話していた画家の展覧会のチケットが入っている。
「これでマリアとデート出来る。リュカ、本当に感謝する!」
「いえ、デートを楽しんできて下さい」
「(リュカには本当に世話になっているな。前のオペラのチケットもそうだが、俺が国に戻っている間、マリアへ贈る花を手配してくれたのはリュカだからな)」
「じゃあマカロンはそこに置いて下さい。ケーキはこちらにお願いします」
「かしこまりました」
「リボンの飾り付け、こんな感じで良いですか?」
「綺麗に出来たわね!良い感じだわ!」
「食器と花も届いたわよ」
「マリアありがとう!」
今日はクラスの令嬢達とお茶会なの。
今回は私達が用意して、他の令嬢達を招待する形になったので、準備をしているわ。
私達が用意するとなって凄いのを期待してるみたいなのよ。
『銀の乙女』と『完璧な淑女』と称される、マリアとエメリア。
それに、私は王太子の婚約者だし。
期待されるのは仕方ないけど、ハードルが高いわ。
「皆んな満足してくれると良いわね」
「そうね。色々と珍しい物を用意してくれたリュカには感謝ね」
「そうね。こちらがお礼をしなきゃいけないのに、これも頂いて。なんだか悪いわ」
「お二人には、サリュート商会をご贔屓下さっているお礼だと言ってましたよ。これ、リュカの家で新たに作った糸で編んだレースなんですよ!お2人がお使いになったら、良い宣伝になると思ったようです!」
宣伝かぁ。
お茶会の準備に協力してくれたリュカの為にも、頑張らないとね。
染料を混ぜ、あえてムラに染めた糸を使って編んだレースは綺麗なグラデーションになっている。
私は水色系、マリアはミントカラー、エメリアのはピンク系になっている。
私達は髪やシャツに結んで使っている。
これ流行りそうね。
混ぜる色によって少しずつ色味が違うし、レースが目立わ。
ストールやドレスを作っても良さそう。
「「「「そのレース素敵です」」」」
お茶会に来た令嬢達は私達が用意した飾りやお茶、お菓子を褒めてくれたわ。
その後すぐ私達3人が着けているレースに興味をもってくれた。
「これはサリュート商会の新作なんですよ」
「あえて均一に染めない事でこの世に一つだけの模様になっているのね」
「このレースでストールやドレスを作っても良さそうよね」
「サリュート商会ですか!絶対に手に入れなくては」
「御三方が身につけている物は流行になりますもの!絶対に流行りますわ!」
「色味の希望とかは出来るのかしら」
良かった。
宣伝になっているみたいね。
「詳しくはサリュート商会に問い合わせてみて下さい」
「私からリュカに話しておきますよ。染めるのに特別な技術がいるので数に限りがあると言っていましたから」
エメリアが数に限りがあると言った瞬間、令嬢達の目が光った気がする。
「「「「お願いします!!」」」」
「ふふ皆さんが注目してくれて嬉しいです。このレースに使われている染料はバルリエ領で取れた物ですから」
「エメリアの所の染料だったのね!」
「はい!ウチは染め物が特産ですから!」
じゃぁこれが流行ればエメリアの義父様も潤うのね。
「リュカさんて、休暇中はあちこちの領地へ視察に回られておりましたよね」
「ウチにも来ましたわ。領内の職人達と色々と話しておりましたわ」
「彼は将来、大商人になりますわね!」
「新しい商品を生み出しておりますもの。今からご贔屓にしたいですわ!」
「そうですね!このレースもリュカの発案ですし、赴いた先で、取引きや商品開発に取り組んでるようです」
リュカを褒められ、エメリアは凄く嬉しそう。
大切な幼馴染だもんね。
リュカなら大成するでしょうね。
相手が望む物を用意したり、提案すること事が出来るし。
商人の才覚はあるし、何よりこの学園で貴族とのパイプを作る事に成功しているし。
「それに彼はとても人気があるんですよ!とても優秀で、お優しい顔立ちで物腰も柔らかい方ですし。たとえ家を継げないとしても、御実家との関係は良好。平民や私のような下級貴族には魅力的な方なんでよ」
「そうですね…。リュカは昔から誰にでも優しくて、人気がありましたから…」
「茶会中にすまない」
「まぁシャルエラント王子。どうなされましたか?」
「マリアに用があってな。マリア、少し良いだろうか?」
「えぇ」
シャル様がマリアを少し離れた所へ連れて行った。
何を話しているかは聞こえないけど、何かを渡しているみたい。
「やはりシャルエラント王子の本命はマリア様なのですね!」
「お似合いの2人ですわ!」
令嬢達はキャアーと騒いでいる。
ますますシャル様とマリアが噂されるわね。
「マリア様!シャルエラント王子はどのようなご用事でしたの?」
「画家の展覧会に誘われていて、その話をしに来ただけですよ」
「まぁ!シャルエラント王子といかれるのですね!」
「だから彼の誘いをお断りしたのですね」
「えぇ。既にお誘い頂いていたので。知っておりましたのね(彼の方が先だけど、この方が角が立たないわ)」
「クラスで話しているのを聞いてしまって。マリア様は大変おモテになりますね」
「そんなことは。侯爵家令嬢という肩書のおかげですよ」
「そんな事はありませんよ。同じ侯爵令嬢でもクリスティーヌ様はマリア様のようではありませんし」
「マリア様とクリスティーヌ様を比べるのは失礼よ!マリア様は完璧な教養を身につけていらっしゃるのよ!」
クリスティーヌ様。
居ない人の名前が上がるなんて、何かあったのかしら。
「クリスティーヌ様がどうかしましたか?」
「先日クラスメイトに手を挙げたそうですよ」
「被害に遭われたのは、分家のレニーさんですわ。何時もクリスティーヌ様の被害に遭われて、お可哀想に」
クラスメイトに手を挙げるなんて…。
更生とは真逆じゃない。
「そのお陰でクラスでは浮いているようですよ。男性達もクリスティーヌ様の性格に気づいて遠巻きにしているようです」
「今思えば、王太子様の婚約者候補を降りた時が、クリスティーヌ様の全盛期でしたわね」
「お2人の為に身を引いたという美談が台無しですわ。あの頃に婚約者が決まっていれば幸いでしたのに」
それはクリスティーヌ様が身を引いたとわけじゃないから。
きっと婚姻の申し入れを断っていたのね。
「クラスメイトであった時、皆さんはクリスティーヌ様とご一緒していたと思っていましたが?」
「「「「仕方なくです」」」」
うわぁ即答。
「クリスティーヌ様の性格や考え方は合いませんわ」
「特にマリア様は子供の頃、付き合いがおありでしたからご存じでしょう?」
「えぇ。そうですね」
初めて会った時、マリアはクリスティーヌ様に嫌味を言われてのよね。
ヴィクトルも凄く怒っていたし。
「酷いとは思いますが、クラスが離れてホッとしております」
「父から仲良くするようにと言われておりましたが、最近になって無理に仲良くしなくて良いと言って頂けたのです」
「私もですわ」
はぁ。
これ以上話したらクリスティーヌ様の悪口大会に発展してしまうわ。
クリスティーヌ様の現状も聞けたし、お開きにしましょう。
お茶会をお開きにし、私は学園と社交界の噂を調べたわ。
クリスティーヌ様は授業で問題発言をして、教員に呼び出され、その後にレニー様に手を挙げたと。
次の日、頬が腫れた状態で登校したレニーさんを見て、クラス全体でクリスティーヌ様を避けていると。
しかも。子供の頃からレニーさんに手を挙げていたのでは、なんて憶測までついているみたい。
はぁ。
やっぱり性格は中々改善されないよね。
でもこのままじゃあ学園でも孤立しちゃうわ。
社交界でも近々カミーユ様のお母様をアルベール侯爵夫人としてお披露目するという噂があるわ。
そうなると前妻の娘で、尚且つ見た目も性格もサンドラ様似のクリスティーヌ様の立場が危ぶまれるわ。
今までは令嬢達の中で問題になっていた性格が、貴族全体となると社交界で孤立してしまうことに、クリスティーヌ様が気付けば良いんだけど。
コンコン。
「はい。どちら様かしら?」
「エメリアです」
「私もいるわ」
マリアとエメリアが部屋を訪ねて来たわ。
「2人ともどうしたの?」
「セティーに聞きたい事と言っておきたい事があって」
マリアの言葉に私はピーンときたわ!
「シャル様の事!?」
「違うわよ!!」
違うの!?
「はぁ。クリスティーヌのことよ」
「セティーさんならクリスティーヌ様がクラス替えになった本当の理由を知ってますよね」
やっぱり、2人は変だって思うわよね。
いくら学園が人数調整だと言っても、クラス替えになったのがクリスティーヌ様だけだもの。
「ちょっと私とトラブルがあって。それでアル様がクリスティーヌ様が近づかないようにと手を回してくれたの。ほら、休暇前にアル様が護衛を連れて部屋から出てくるのを見たでしょう。その時にクラス替えの話をしたのよ」
「トラブルってなんですか?」
「今まで散々嫌な思いはさせられてきたきたじゃない。なのに今更なんで?」
誘拐の事は言えないわ。
いくら親友の2人でも、こればかりはごめんね。
「机に不吉な花言葉の花を飾ってあったり、物がなくなっていた時期があったでしょう。それがクリスティーヌ様の仕業だったのよ」
「あれ、クリスティーヌ様仕業だったんですか!?」
「そう、クリスティーヌが。その他には?」
「えっ他?」
「だってそれくらいならただの嫌がらせで注意を受けるだけよ。他にもあるでしょう?」
流石マリア、鋭いわ。
「はぁ。言える時が来たら言ってね」
「えっいいの?」
「私もエメリアも無理に聞こうとは思ってないわよ。一番大事なのはセティーだから」
「2人とも…。ありがとう!」
「それと、言いたい事は、クリスティーヌの噂は言わない•聞かない•関わらない、で居てほしいの」
「今日みたいに、セティーさんがクリスティーヌ様の名前を出さないでほしいんです!聞きたいなら私が聞きます!」
「どうして?」
「学園内でクリスティーヌの噂が加速しているのよ。セティーはアル様の婚約者という立場をクリスティーヌと争っていたから、巻き込まれる可能性があるわ」
「下手したら噂の根元や原因だと誤解されてしまうかもです!」
クリスティーヌ様の噂を助長させる要因があるのね。
「私もクリスティーヌとは昔から折り合いが悪いし、今後も関わらないようにするわ」
「わかったわ」
「それと、クリスティーヌの事を考えるのはやめて」
「えっ」
「セティーさん、クリスティーヌ様の事を気にしていますよね?」
ドキッ!
「クリスティーヌが今こうなっているのは、自分自身のせいよ。今のセティーにはアル様との幸せを感じながら過ごしてほしいの」
「セティーさんとアル様が自然に振る舞えるのは今だけです。それを、他の人の事で減らしてほしくないんです」
クリスティーヌ様の事を考えてしまい過ぎて、周りに心配を掛けてしまったわね。
お父様に背負い込まないようにと言われていたのに。
「2人ともありがとう。出来るだけ考えないようにするわ」




