変化する関係②
クリスティーヌside
「本日の授業はグループで行います。皆さんでグループを組んで下さい」
生徒達は仲の良い者同士でグループを組んでいく。
そんな中、クリスティーヌのみが動けずにいた。
グループですって!?
このクラスに来て2週間程度の私にグループなんて!
まだクラスに慣れてませんのよ!?
本来であれば、レニーのグループに入るのが自然ですが、それは出来ませんわ。
それにしても、あのレニーの変わりようたら!
私の弱みを握っているからってあんなに目立って!
レニーはいつもの地味な装いとは違い、綺麗に薄化粧し、髪を下ろし髪飾りを着けている。
制服に合わせているシャツも今までクリスティーヌが見ていた物より可愛らしい物を着ている。
「クリスティーヌさんは…グループが決まっていないみたいですね。レニーさんの所に入れてもらって下さい」
「えっ。はっはい…」
教員の言葉に、レニーがチラリとクリスティーヌを見て答える。
「嫌ですわ。レニーと一緒なんて耐えられませんわ」
「クリスティーヌさん!?なんて事を言うですか!」
「良いんです先生。クリスティーヌ様は私の事を…」
レニーは悲しげな表情を浮かべる。
「先生!私達も嫌ですわ。大切なお友達を害する方と一緒のグループになるのは」
「レニー元気出して」
レニーは周りの令嬢達に庇われ、励まされる。
「良いんです。それにこれは私とクリスティーヌ様の問題ですし…」
なっなんですの!?
まるで私が悪いみたいな雰囲気は!?
レニーが私を脅すからいけないのですわ
「先生。授業が遅れてしまいます。クリスティーヌ様には別のグループをお勧めします」
「はぁ。お2人には後で話を伺うとして、ひとまずクリスティーヌさんはあちらのグループに入って下さい。丁度他のグループより1人少ないですし」
「致し方ありませんわね。私がそちらに入ってもよろしくってよ」
クリスティーヌをグループに入れる事になった生徒は、やや顔がひきつっていた。
あら、このグループは皆頭の良い方じゃない。
じゃあ授業はお任せして大丈夫ですわ。
しばらくして、クリスティーヌのグループメンバーは困りだす。
「あの、もう少し意見を出して下さい」
「特に思う事はありませんわ」
「では、何か調べた事はありませんか?」
「特にこれといってありませんわね」
「あの、これ休暇中の課題ですけど、何もやってないですか?」
「1ヶ月以上前に手をつけた課題ですもの。内容を忘れてしまいましたわ」
クリスティーヌは意見を言わず、自身が調べた成果もない。
休暇中、クリスティーヌは何もする気が起きず、殆どの課題を終わらせる事ができなかった。
クリスティーヌの持っている課題のノートは殆どが空白である。
「「「はぁー(なんなんだ、この人)」」」
貴方達が仕上げた課題があれば十分ではありませんの。
この方達とグループになって運が良いですわ。
一定の評価が得られると思っていたクリスティーヌだったが、各々が調べた内容や意見にサインをし、誰がどのような活動をしたのか、わかるように記され、課題が提出された。
その為、クリスティーヌが何もしていない事を教員が知る事になった。
まったく、なんなんですのよ!
同じグループメンバーですのよ!
合同制作で良いではありませんの!
はぁ。
もっとやる気を出すよう言われましても。
確かに、お母様が離縁された時は焦って色々と頑張りましたわ。
でも、どうせ頑張った所で辺境の男爵家の三男(離縁歴2度あり、40代マザコン)に嫁がされ、生涯その領地から離れられませんのよ?
お先真っ暗ですのよ!
お義兄様の母親であるレティシアさんと行儀見習い的な事もしましたが、レティシアさんは侯爵夫人になる為ですもの。
私は行儀作法を学び直しても、爵位のない男爵家三男に嫁ぎ、別邸でひっそりと生きていくだけ。
私だって、もしかしら良い方かも!
なんて淡い期待をしておりましたわ!
でも、実際に目にした姿は、醜く太り、脂ぎった顔で隣にいた老婆に向かって『ママ〜』なんて言ってましたの!!
鳥肌が止まりませんでしたわ!!
しかもこの私に向かって、好みじゃないとか、
お金が貰えるから仕方なく結婚してあげると仰ったのよ!
こちらのセリフですわ!!
あんな男に嫁ぐ為に聞き分けの良い令嬢になる必要なんてありませんわ!
それに、唯一の救いである学園も、アルベルト様とクラスを分たれ、近寄るなと通告されてしまい希望を失いましたわ。
せめて、このクラスで楽に学園生活を送れるようにしなくては。
その為には、レニーをどうにかしなくては!
先程の教員から学年主任の教員に授業内の事が伝わり、呼び出されてしまいましたわ。
これも全てレニーのせいですわ。
コンコン。
「失礼しますわ」
教員室にはレニーも居ましたわ。
「先程の授業でイザコザがあったと聞きました。お2人は昨年度までは同じクラスメイト。休み時間は一緒に過ごす仲だと認識しておりましたが。いったい何があったのか、両方の話を聞かせて下さい」
「アルベール侯爵家の問題に障りますので、詳細は控えさせて頂きますが、私がクリスティーヌ様に逆らった事がキッカケです」
「は?何を言ってますの?」
「私はアルベール侯爵家の分家の者です。その為、今までクリスティーヌ様に命じられるままにしておりました。地味に目立たないようにしろと言われれば、そのように。付き従えと言われれば側に居りました。しかし、アルベール侯爵家次期当主であらせられるカミーユ様より、クリスティーヌ様の命に背く事を許され、自分が自分らしくいるため、クリスティーヌ様の命に従いませんでした。クリスティーヌ様はその事をお怒りなのです」
「何を言ってますの!レニーが私を脅したからですわ!それに、地味に目立たないようになど、まして付き従えなど言っておりませんわ!」
レニー!
ここまで口が回るなんて思っていませんでしたわ!
「クリスティーヌさんを脅したとは?事実ですか?」
「事実です」
「「!?」」
レニーが認めましたわ!?
「アルベール家はクリスティーヌ様の教育を見直しております。今まで様に振る舞っているといずれ破滅するとお伝えしました。これからは令嬢らしく、弁えた言動をする様にとも忠告しました。『破滅』『弁えた』と言った言葉が脅しと捉えられたのですね」
「なっ!」
なんて、上手い言い回しを!
脅されている内容は言えませんし!
「それと、お忘れですか?初めてお会いした日からお前の金髪が気に入らないと、お会いする度に仰っていたではありませんか」
「それは子供の頃の話ではありませんの!」
「それに、付き従えと直接的な言い方でなくとも、貴方に言われれば私は断る事が出来ません。礼節を欠いた貴方と一緒に居るのは辛かったのです。2年になりクラスがら分かれ、解放されたと喜んでいましたのに」
「そんなに嫌だったなら離れればよろしかったわ!どうせ下級貴族の者達ですもの!付き合いが切れても支障はありませんでしたわ!」
「クリスティーヌさん!口を慎みなさい!」
「はい、ですから皆途中で逃げて行ったではありませんか。分家で逆らえない私を除いて」
レニーは悲しそうな表情で話を続ける。
「先生!私は、この学園内では、心を許せる友人達と共に勉学に励みたいのです!」
「わかりました。こちらもクリスティーヌさんをレニーさんにお任せしてばかりで申し訳ありません」
「クリスティーヌさん、貴方は一年の時から目に余る言動が度々ありました。レニーさんの言う通り、言動に気をつけなくては、貴方の周りに、誰も居なくなってしまいますよ。それに、休暇中の課題も殆ど手付かずですし、これ以上素行と成績を落とすようでは退学だってあり得ますよ」
全部レニーの思うままですわ!
くっ悔しい!
「しかし、私はクリスティーヌ様が更生して、真っ当な方になれると信じております。これからは一クラスメイトとしてよろしくお願いします」
レニーはニコッと笑ってクリスティーヌに向かって握手を求めた。
この手を取ったら負けですわ!
「クリスティーヌさん。レニーさんに感謝ですね。さぁ早く握手を」
「くっ!」
教員に強制され、レニーと握手を交わしてしまいましたわ。
教員室を出て、レニーは静かに口を開く。
「これで貴方は大人しくなるしかありませんね。カミーユ様から貴方を頼まれている手前、貴方がいつまでもおバカな振る舞いをしていては困るのです。ある程度は、知性のある人間らしくして頂かなくては」
「なっ!」
バチン!!
「キャア!!」
レニーの言葉に対してクリスティーヌの怒りが振り切り、手を挙げてしまった。
「何事です!?レニーさん大丈夫ですか!?クリスティーヌさんこれはいったい」
教員が見たのはクリスティーヌに叩かれ、床に倒れ、赤くなった頬を押さえているレニーとレニーを睨みつけているクリスティーヌだった。
「レニーが悪いんですわ!」
「如何なる理由があろうと、手を挙げるなど許される事ではありません。クリスティーヌさんには3日間の謹慎を…「お待ち下さい!私は大丈夫ですので、クリスティーヌ様をお許し下さい。今謹慎となりますと、クリスティーヌ様が、ますますクラスに馴染めませんもの」
罰を与えようとした教員に対し、クリスティーヌを庇う発言をするレニー。
「レニーさんがそう言うのであれば…。罰は聖書の書き取りとします。寮へ戻り、明日までに書き取りを済ませなさい。レニーさんは私と一緒に保健室へ」
「ありがとうございます」
教員に連れられ保健室へ向かうレニーは立ち尽くすクリスティーヌに向かってクスッと笑ってみせた。
なんでこうなりましたの!
確かに私は手を挙げてしまいましたが、元あと言えばレニーが私を侮辱したからですのに!
どうして、どうしてレニーに主導権を握られておりますの。
例え弱みを握られても、こんな風に立ち回られるなんて…。
その日の夜私は悔しさを感じながら聖書の書き写しをしましたわ。




