条件
夏休暇も残すところ3日。
昨日、外交学のテストがあって無事に来期から選考する事が可能になったわ。
本当に良かった。
保護した女の子と女性は王弟殿下の所へ行ったわ。
話をしたら即決だったわね。
女の子は薬と栄養のある食事でだいぶ回復したし、一安心だわ。
さて、そろそろ時間ね。
「セレスティーヌ様お待たせ致しました。ご案内致します」
「よろしくお願いするわ」
私はメイドに案内され王宮の会議室に辿り着く。
周りには誰も居ない。
コンコン
「失礼致します。お連れ致しました」
「入ってくれ」
会議室の扉が開かれ、中に入る。
会議室にはアル様とお兄様。
それとアルベール侯爵とその御子息のカミーユ様が居る。
後者の2人は私の入室に少し驚いている様子だわ。
「これは…予算について聞きたい事がおありだと伺っておりましたが」
「もちろん予算について聞きたい事はある。だがその前に話したい事があるんだ。そう、侯爵家の娘にについて」
アル様がクリスティーヌ様の事についてだと話すとカミーユ様が一瞬ピクリと反応したわ。
「既に話がついたと思っておりましたが。セレスティーヌ様からのご提案でしょうか」
「そうです。この子には事件の真相を伝えるつもりはなかったのですが、偶然知らせれてしまいまして。当事者として、処罰に思う所があるようです」
お兄様が私の肩に手を置き、侯爵様に向かって話してくれた。
隣にはアル様、後ろにはお兄様。
なんて心強い布陣なのかしら。
「はぁ。首を差し上げても良いのですが、表向きに病死と偽るための時間を頂けますかな」
「父様!?」
「元々下される筈だった罰を受けるだけだ。しかし、この件でお前の未来が潰れるのは話が別だ」
「そちらがそのつもりなら、初めから絞首刑か副毒刑にしていれば良かったですね。マルヴィン家として望んでいた刑罰は元々そちらですし(最初からそうしていればセティーに知られずに処理できたのに)」
後ろに居るから、お顔は見えないけど、お兄様から冷気が…。
カミーユ様は必死な顔をして口を開く。
「クリスティーヌの罪の重さは理解しております!ですが!どうか命だけはお助け下さい!僕で償える事があればなんで…「カミーユ、黙りなさい」
カミーユ様がなんでもすると言いかけた瞬間、侯爵が止めたわ。
不利な話し合いの場で『何でもする』なんて言ったら、何を要求されるかわからないもの。
止めるのは当然だわ。
減刑の代わりに、爵位を降格させる事も可能だし。
「落ち着いて下さい。クリスティーヌ様が私を襲った者達を雇ったことは許されない事です。ですが私は、殺しを命じたのは別の人物だと考えております」
「僕もそう思っています!」
「正直言いますと、クリスティーヌ様には良い思いをした事はございません」
カミーユ様は私の言葉で持ち直しかけた表情が崩れかける。
「ですが、クリスティーヌ様が1人で罪を背負うのは正しい事ではないと考えております。ですので、条件付きで領地幽閉を見直す事を提案させて頂きます」
領地幽閉を見直す事を提案すると、侯爵もカミーユ様も目を見開く。
今の刑から軽くなるなんて考えていなかったようね。
「セレスティーヌ様。以前、息子のカミーユを公平の目で見て頂きたいとお願いしたのは覚えておられますかな?」
「えぇ覚えております。侯爵様の仰っていた通り、カミーユ様は優秀だと聞いております」
「ええカミーユは必ずや王家と国のために役立つ、良き臣下となりましょう。ですが、今回クリスティーヌを減刑する事で遺恨が残す可能性があるならば、その提案を受け入れる事は不可能です」
「遺恨など、考えさせる余地が無い程、カミーユ様は優秀な方です。もちろん、今後クリスティーヌ様が私を害する事が無ければ、遺恨になど致しません」
侯爵は一呼吸あけて再び口を開く。
「では条件をお聞きしましょう」
「はい。クリスティーヌ様が本当に反省し、更生する事です。今までの彼女とは別人のように、淑女に相応しい言動が出来る人物になられましたら、一貴族の娘として、人生を歩んでも良いと考えております」
「なんと寛大な処分を。して、期限は如何致しますか」
「2年程で如何でしょうか」
今から2年なら学園を卒業して半年って所ね。
「一年で構いません。学園卒業前には判断を下して頂きたい」
「父様!セレスティーヌ様がせっかく期限を長くして下さっているのに」
「2年ではお前の婚姻に差し障る。クリスティーヌが家に居れば、嫁いで来て頂く御令嬢に迷惑が掛かる」
まぁ確かに、更生しなかったクリスティーヌ様が、小姑で嫁ぎ先に居るのは、嫌かな。
「この件に関して、本人伝える事は違反とする。真に反省し更生しなければ意味がないからな。違反した場合は領地ではなく、牢に幽閉する」
違反の罰則!?
アル様、そんな事言ってなかったのに。
でも私が罪を甘くしてしまう分、違反に罰則が付くのは仕方ないか。
「重々承知しております!既に本人は十分反省しております!」
「はぁ。更生したかの見極めはそちらの御三方と私が行わせて頂きたい。カミーユでは甘くなってしまう」
「こちらとしては、どちらでも構わない。それと全員が更生されたと認めた場合のみ、減刑とする」
「それで構いません」
「ではこちらの書類にサインを」
クリスティーヌ•アルベールがセレスティーヌ•マルヴィンに対して犯した罪を反省し、更生した場合、現行の領地幽閉を見直す。
期間は本日より1年。
判定は
アルベール•ヴェスタトール
ジェラルド•マルヴィン
セレスティーヌ•マルヴィン
カジミーユ•アルベール
以上4名全員が更生を認めた場合のみとする。
尚、この件に関する事をクリスティーヌ•アルベール本人に伝えることは禁止とし、破られた場合は現行の領地幽閉から牢での幽閉とする。
こんな感じの書類に各々がサインし、話し合いは終了し、私だけ退室した。
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「これからもクリスを頼んだよ」
「カミーユ様のお願いですもの。お引き受け致します」
「今まで分家だからとクリスに強く言えずに困っていただろう?それなのに、引き受けてくれてありがとう。これからは、クリスが間違っている事は否定して良いからね」
「お気遣いありがとうございます。私なら慣れていますから。また同じクラスですし、クリスティーヌ様も一度離れたクラスメイトとは戸惑うと思いますし」
「そう言って貰えて有難いよ。だけど、今度からは僕の名前を出してでもクリスを止めてほしいんだ」
「それはカミーユ様から許可を頂いているという事でよろしいのでしょうか?」
「うん。教育の一環という事で、学園でのクリスを正してほしいんだ」
「わかりました。出来る限り頑張ります。では定期的に、こうしてカミーユ様と2人でお茶を頂けたらと思います。その時に学園でのクリスティーヌ様の様子をご報告させて頂きます」
「ありがとう。頼りにしているよ、レニー」
次でようやく夏休暇を終了。
シャルが帰ってきます。




