お宅訪問
ブックマークして頂いている方々ありがとうございます。
良ければ感想をお願い致します。
婚約候補者の発表からしばらくたった。
お母様はお茶会、お兄様も王宮に行っている。
私は1人でピアノを弾いていた。
婚約候補者として発表されたけど、特に何も起きないなぁ。
まぁ、ゲームのセレスティーヌとアルベルト様は、仲が良かったわけじゃないし、今の私もただの候補者だしね。
私が候補者になったのも、公爵令嬢ってだけだもんね。
他の有力候補者2人も侯爵家なんだし、特別な理由がなければ、爵位が高い公爵家の私を、候補者から外せなかったんだろうな。
そんなことを考えてると、お兄様が王宮から帰ってきたようだ。
何かあったのかな?
慌しい音がしてるけど、どうしたんだろう?
メイドさんがバタバタと走って私の所に来た。
「お嬢様!ジェラルド様がご帰宅されました!」
うん、やっぱりお兄様が帰ってきたらしい。
でも、なんで慌ててるんだろう。
「大変です。ジェラルド様だけではなく、アルベルト王太子様が一緒にいらっしゃったのです‼︎」
「えっ!?」
なんだって!?
それでみんな慌ててるのね
どうやら急に来ることになって、先触れが間に合わなかったらしい。
メイドさんが、私を普段着からドレスに着替えさせ、お兄様とアルベルト様のいる部屋に連れていく。
「セレスティーヌ嬢、すいません。突然で驚かせてしまったかな?」
「いえ、大丈夫です!でもどうして我が家に?」
私はアルベルト様の発言に慌てつつも、訪問の理由を尋ねるとお兄様が口を開く。
「僕がセティーのピアノは素晴らしいって話したら、アル様が興味をお待ちになられてね」
と素敵な笑顔で言われ、その言葉にアルベルト様が続く。
「直接聴いてみたいと、ジルに無理を言って、連れてきてもらったんです」
「そっそんな私のピアノなんて大したことないです」
お兄様‼︎ なんてことしてくれるんだ‼︎
この世界の曲はどれも難しい。
私はまだ弾くことができない。
生前の知識を使っても、弾ける曲といえば、せいぜい『猫踏んじゃった』くらいだ。
貴族令嬢が弾くような曲ではない
やばい!幻滅されるかも!?
「やっぱりご迷惑でしたか?」
私が困惑していると、アルベルト様はシュンっとなりながら聞いてきた。
うっそんな顔されたら断れない。
「!? いえ、そんなことはありません。私なんかのピアノで良ければ、お聴き下さい。」
私が弾くと言うとアルベルト様は笑顔になった。
「ありがとう!突然のお願いで断られてしまうと思っていたから嬉しいです!」
私は顔がひきつるのを感じつつ、ピアノを置いてる部屋へアルベルト様を案内する。
うぅ、後に引けなくなってしまった。
どうしてこうなった……。
私はピアノの鍵盤を見つめながら後悔していた。
そもそも、この世界にない曲なんて、弾いて大丈夫なんだろうか。
でも、ただの指練習曲じゃあ、幻滅されるかもしれないしなぁ。
もう、こうなったら覚悟を決めて弾こう!
覚悟を決めて、私はピアノを弾き始める。
♬•♫ ♬•♫〜
ふぅ、なんとか弾けた。
ほっとしてピアノから指を離す。
「すごく上手でしたよ。聞いたことない曲でしたけど、なんだか楽しい曲でした。なんていう曲なんですか?」
アルベルト様がすぐにピアノの感想とこの曲について聞いてきた。
うっこの世界にない曲名なんて答えられないよ。
どこで、知ったかとか突っ込まれたら困るし。
私が答えにしぶっていると、アルベルト様が首を傾げてこちらを見つめてきた。
「セレスティーヌ嬢、どうしました?」
どうしよう!
ここは誤魔化すしかない!
「えぇっと、この曲は私が指の練習に作った曲ですわ」
なんて信じてもらえないよね。
「曲が作れるなんて凄いじゃないか!さすがセティーだ!」
「本当にすごいですね。まだピアノを始めたばかりだと聞いていたのに」
お兄様がすぐに大げさに喜び、その場はなんとか誤魔化すことができた。
それから、アルベルト様が私の部屋を見たいと言うので、私の部屋に移動する。
「あの、恥ずかしいので、あまり見ないで頂きたいのですが」
「そうですか? 女の子らしくて可愛い部屋だと思いますけど」
「全部お母様の趣味です。あのぬいぐるみ達は、お父様やお祖父様達が贈ってくれて」
私の部屋はピンクと白を基調とし、至る所にレースとフリルがあり、ベッドと棚には、たくさんのぬいぐるみ達がいる。
私でも落ち着かない部屋をアルベルト様に見られるなんて、辛い……。
「セレスティーヌ嬢は、御家族からとても愛されてるんですね。それだけ愛されていれば、ワガママな性格になりそうなのに……。
そういえば、最近はあまり、ドレスなどは買わなくなったとジルが言ってましたけど、どうしてですか?」
ギクッ!?
「えぇ、その、お金の大切さに、気づいたからですわ。この家のお金は、お父様が働いて得たもので、その中には領民の方々が、たくさん働いて我が家に納めて頂いたものだと気づきました。今まで大切なお金を、私なんかが使ってしまい、反省しております」
「そうですか。大切なことに気づかれて、ご自分で自分を変えられるなんて、立派ですね」
「そんなことありませんわ」
ふう、危なかったぁ。
それから程なくして、アルベルト様がお帰りになるため、お見送りをする。
お兄様が食事にお誘いしたが、今回は非公式な訪問だからと、辞退された。
「今日は急な訪問に対応して頂き、誠にありがとうございます。
あれ?申し訳ないが、セレスティーヌ嬢の部屋にハンカチを落としてしまったようだ」
ハンカチには王家の紋章が施されているので、無くすと大変とのこと
「それなら僕が取ってきますよ」
お兄様がハンカチを取りに行ってしまった。
非公式な訪問なので、見送りは私とお兄様だけでいいとおっしゃられていたので、今ここいるのは私とアルベルト様だけになった。
「セレスティーヌ嬢」
「はい、どうされました?」
「私は、セレスティーヌ嬢のことをもっと知りたい。良ければ私も、セレスティーヌ嬢のことをセティーと呼んでも良いでしょうか?」
「えっ、それはもちろん、よろしいですよ」
私がそう答えるとアルベルト様は笑顔になる。
「良かった。私のこともアルと呼んでください」
「よろしいのですか!?」
愛称呼び!? いいの!?
うわぁ、やばい! 嬉しすぎる‼︎
頬の筋肉が緩むのを感じると、アルベルト様がクスクスと笑いだす。
「もちろん、いいに決まってます」
「では、アル様とお呼びさせてきただきますね」
自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
「セティー」
「はっはい、なんでしょ?」
ふいに呼ばれて、驚く
「ふふっ呼んでみただけですよ」
アル様がイタズラを成功させた子供のように笑っている
なにそれ!?
可愛すぎるんですけど!!!
赤かった顔がもっと赤くなっていくのがわかる。
「ふふっセティーも呼んでみてください」
「ふぇっ!?えっとあ、アル様!」
私が名前を呼ぶとアル様が満足そうな顔をする。
「はい。そういえば言うのが遅くなりましたが、婚約の件ありがとうございます」
「い、いえこちらこそありがとうございます。婚約と言ってもただの候補者というだけですが」
「婚約候補でも、婚約は婚約ですから」
「アル様、ありましたよ」
「ジル、ありがとうございます」
「それでは、失礼させていただきます。
セティー、これからもよろしくお願いします。
手紙を書きますからね」
「あっありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
アル様がお帰りになり、自室に戻った私はベッドに突っ伏した。
愛称呼び!
ゲームのセレスティーヌは決して許されてなかった愛称呼び!
あぁ〜アルさまぁー。
今日のアル様はやばかった!
めちゃくちゃ可愛かった!
これはいけるんじゃないか!?
処刑ルートを避けて、本当にアル様の内側の人間になれるかも!!
私は今日の出来事を思い出し、興奮してベッドの上で足をバタつかせるのだった。
次はアルベルト視点のつもりです。




