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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
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シャルエラント①

シャルエラントside -回想-


俺と母は5歳までハレムで過ごしていた。

母には愛する人が居た。


商家の息子で家に出入りしていたのが出会いだと聞いた。

幼馴染からやがて2人は恋人となった。


母は身分の高くない家の第4夫人の娘だ。

家の中での序列も高くはない。

貴族の娘でも商家に嫁ぐことが可能だっただろう。

そんな母の不幸は俺の父親である皇帝に見初められてしまった事だろう。


美しく輝く金髪。

真っ直ぐ澄んだ青い瞳。

口角の上がった唇。

健康的な小麦色の肌。

俺から見ても母は美人だ。

皇帝が気に入っていたのも納得だ。


ハレムに入れられ、恋人と引き裂かれてしまい、俺を身籠もった。

それでも母は恋人の元へ戻る事を諦めることは無かった。


出産する際に側に居たのは産婆と乳母。

それと父親である皇帝のみだった。

仮にも王族の出産なのだが側に仕えている人数の少なさは、母の身分の低さと寵愛を得ている母を妬んだ他の妃達の陰謀だ。

お陰で俺が男児だという事を隠す事が出来た。


その後は母とハレム内で息を潜めながら生活を送った。

母の誤算は皇帝からの寵愛が続いてしまったことだな。

それさえ無ければもっと楽に生活が出来た筈だ。

何度毒を仕込まれた事か。


そしてもう一つの誤算は俺を愛してしまった事だろうな。

愛していない皇帝に瓜二つな俺を。


『シャール』

俺を呼ぶ母を。

母と過ごした日々を思い出す。

母が最初にくれた最初の名前は『シャール』

自分の名前からとった名をくれた。

毎日、笑いかけ抱きしめてくれていた。

母の愛を疑った事など一度もなかった。


そして5歳までどうにか生き延びた。

その間に何人の兄弟が死んだ事か。

同じ年頃の子供で生き残ったのは皆女児だけ。

そして生き残った女児を王族として認める、披露目の会は作業的に行われる筈だった。

俺が服を脱ぐまでは。


俺が男だとわかり周囲は騒めき、参列していた妃達の視線は鋭かったな。


母も青い顔をしていたな。

母は俺を愛してしまった事で、ハレムから逃げる事を諦めようとしていた。

そして、このまま俺を女児として隠し通すつもりだったようだ。

王太子となり、後継者として育てられるため、宮廷に移され、母とは離れて暮らす事になる。

離れ離れにならない為、秘密を隠し通すつもりだったようだ。

そんな母の願いを裏切り、父である皇帝に、母との約束を守り自由を与えろと言ったのを覚えている。


皇帝の思っていた自由とはハレムの中で自由に生活出来る環境だと思っていた様だがな。


『シャール。一緒に行こう』

母は俺を産む前は1人で逃げるつもりだったのだろう。

身分の低い妃である母が消えたとしても捜索はされないだろう。

しかし俺まで連れて行けば、捜索されてしまうだろう。


俺も母と離れることが平気ではなかった。

だが利口的に考えれば俺を置いて行くのが正解だろ。

連れて行くことも、置いて行く事も出来ずに、母は諦めようとしていた。


母は恋人を愛しているのは知っていた。

俺には見せない様にしていたが、よく遠くを眺め、声を出さずに泣いていた。

それに恋人も待っている事を知っていたからな。


一度だけ、靴師見習いとしてハレムに来た青年。

その青年が母に渡した靴は他の物に比べて仕上がりが荒かったが、母は嬉しそうに抱きしめていた。

彼が母の恋人なのだろうと直ぐにわかった。

生まれた商家を捨て、靴師の門を叩き、母に会う為にここまで来たのだ。


母を忘れず、愛し続けている彼の元へ行くべきだと思った。

行くのは母だけだ。

俺がついて行けば母も彼も不幸になる。

強い味方が必要だった。


俺が味方に選んだのはハレムの中で一番身分の高い女だ。

この女にも何度殺されかけたかわからない。

それでも、母が恋人の所まで無事に辿り着くためにこの女を選んだ。


母は王妃になる気はないが、その気がなくとも他の者達に殺される。

王太子を産んだ者が王妃なのだからな。


俺の腹違いの兄達は皆死んだ。

ついこないだ生まれた弟も死んでしまった。

今、俺と王太子を争う男児はいない。

すぐに俺が王太子と確定するだろう。

そうなれば母がここから逃げる事も、生き残ることも更に難しくなる。


味方に選んだ女は、子が産めない身体になり、自身の子は姫のみ。

王子を産めない事がハレム内での序列に影響する。

権力を欲するこの女にとってそれは苦痛だろう。

この女も俺の存在が必要だった。

利害関係の一致だ。


この女の事情が知れたのも、女児としてハレムに居たお陰だな。


母を無事に逃し、俺の後見人としてこの女を指名した。

そして母に毒を贈った者達を罰する事に成功した。


少しずつハレムで身分の高い者の力を削ぎ、この女は俺の後見人から継母となり王妃となった。


母とは別れ、数年後に再会した。

靴職人見習いであった恋人が採寸の際に母の事を知らせてくれた。

そして靴職人となった彼の助手として母が宮殿に来た。

それから定期的に顔を合わせていた。

そのお陰で母と別れた事に悲観的になる事はなかったな。

母もハレムに居た頃よりイキイキしていたしな。


女児として偽ったままなら、母に付いていくことも可能だっただろう。

しかしこの国を変えることは俺だ。

兄弟達は皆死んだ。

次の皇帝は俺なのだ。


俺の中の野心と義務感は今もなお薄れることはない。


俺がこの選択を後悔する事はない。

何度でも同じ選択をするだろう。

シャルの昔話の回想のみになりました。

次もシャル回です

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