恋心
マリアの話です。
今日はマリアに会いに行くわ。
「お嬢様馬車のご用意が整いました」
「ありがとう」
今日はマリアとエメリアの3人でお茶なの。
お茶会と言ってもお庭な温室で優雅に行うことはないわ。
今日はシャル様の事で気を落としているマリアを慰めに行くという名目だから。
「こちらが本日ご用意したお菓子です。マリア様が笑顔になられると良いですね」
「えぇそうね」
ごめんね。
いくら私付きのメイドでもシャル様が無事だなんて教えられないのよ。
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「セティー来てくれてありがとう」
「マリア。無理に出迎えてくれなくても良いのよ」
「そんな、親友が来てくれたんだもの。出迎えるに決まっているわ」
エルランジェ邸に来たらマリアがいつもの様に出迎えてくれたけど、マリアの顔色は悪いし、泣き腫らした様な目をしている。
「しばらく2人きりにして。良いと言うまで誰も近づけないで」
「「「かしこまりました」」」
マリアとセレスティーヌがマリアの私室に入り、マリアがメイド達を下がらせた。
「ふぅ。やっと息抜きが出来るわ!」
「マリア、演技なのよね?」
「えぇこの顔色が悪いのは化粧よ。目は毎晩泣いてるからなんだけど」
「泣いてるですって!?」
「セティーったら勘違いしないで。私を泣かせているのはこれよ!」
マリアはセレスティーヌに一冊の本を見せる。
「これって!?手に入ったの!?」
「そうなの!出版からわずか1週間で売り切れになった新作よ!」
マリアが見せた本は以前からマリアとセレスティーヌが気に入っていた作家の新作だった。
内容は悲恋の感動物語だ。
「読み終わったらセティーにも貸してあげるわね!絶対感動の涙を流す事間違い無しよ!」
「キャーありがとう!嬉しいわ!」
「まぁそう言う事だから私は心配ないわ。この顔色と泣き腫らした目のおかげで家の人達にはシャル様の事で胸を痛め毎晩泣いているって事になっているの。おかげで方々から手紙が送られてきてるけど…」
マリアがチラリと机の上に置かれた手紙の束を見る。
「マリアも大変ね。手紙は令嬢達から?」
「はぁ。令嬢と男性の半々ね。私はシャル様と両思いだと認識されてるみたい。令嬢達は慰めの手紙。男性からはアプローチの手紙よ。シャル様の代わりに私がって。はぁ演技やり過ぎたわ」
「まぁそ勘違いされても仕方ないじゃない?マリアの事だからこの本を読みながら啜り泣いているんでしょう?それをメイドさん達が聞いたらシャル様の事が好きで心配してるって思われちゃうわよ」
「うっセティーにそんな事を言われるなんて。セティーの恋愛レベんが上がったのね。やっぱり実践に勝る物はないのかしら。どうだったの?初めての旅行は?」
うぅマリアに詰められると弱いのよね。
惚気てるみたいで気恥ずかしいんのだけど。
私はマリアに避暑地であったことを話してしまった。
「はぁー甘いわぁ。恋人になってますます甘々な2人になったわね」
「うぅなんだか気恥ずかしい。あっでもおかげで勉強が全然進まなかったのよ」
「勉強なら私が教えるわよ。私もう殆ど終わったから」
「えっもう終わってるの!?マリア!お願い教えて!」
「もちろんよ!あっでも良いの?アル様に教えてもう予定じゃなかった?」
「ゔーん。シャル様の事もあるし、色々と忙しくてそれどころじゃ無いから」
避暑地から帰って来ったきりアル様に会えてないのよね。
王宮も安全とは言えないから用が無い限り登城しないよう言われてるし。
「それならもっと私とお茶会しましょう!ここなら王宮騎士団に負けないくらい強い騎士達が居るし安全よ」
「それは…そうね。武家であるエルランジェ家の騎士団だもんね。それにお兄様が私にマルヴィン家の影を護衛に付けてるはずだし、他の家に社交しに行くより安全よね」
「マルヴィン家の影ってセティーは見た事ないの?」
「私はないわよ。命令出来るのもお父様とお兄様だけだし」
「やっぱりそうなのね」
「うん。これは当主と次期当主にしか認められてない事だから」
マリアはため息を吐きながら窓から遠くを見つめる。
「マリアどうしたの?」
「あっえっ。えっと…。あの…ね」
言いにくい内容なのかしら?
「マリア無理に話さなくても良いのよ」
「そうじゃ無いの。えっとお父様が嫁がないならヴィと一緒にエルランジェ家を継いでも良いって言ったの」
「えっヴィクトルと一緒に?」
「うん。ヴィが騎士団で仕事している間私が領地経営やエルランジェ家を回していけば良いって。この家を継ぐのはヴィで私は何処かに嫁ぐって思ってたから…その、どうして良いか…」
「マリアに継ぎたい気持ちはあるの?」
「わからないわ。領地経営とかは私の方が得意だって思うけど、このエルランジェ家を背負っていく覚悟があるかと言われたら…。私は何処かでヴィの手助け役で良いって思っていたから。武家の娘だというのに剣も握れないに。どうやって皆んなを率いていけば良いのか、わからないわ」
「まだ嫁がないとは決まって無いじゃない?もう少し時間をかけて考えたら?」
マリアのお父様どうして急にそんな事を言ったのかしら。
「シャル様が無事だと分かれば、私への求婚は減るわ。一国の王子で改革を起こし、国王の座は確実と言われている方から思いを寄せられてるんだもの。他に嫁ぎ先を見つけるのは難しいわ。だからお父様はシャル様のアプローチを断ったとしても、後継者として家に残れるようにしてくれているのよ。嫁に行けなくなった娘が肩身の狭い思いをしないようにって」
「マリアは愛されているわね」
「えぇ。痛いほど愛されているってわかるわ。ヴィも私の好きにして良いって。2人で継ぐ事で、世襲問題が起きるかもしれないけど、2人で話し合っていこうって」
美しく家族愛だわ。
ヴィもマリアの事を深く愛しているのね。
それに、遠く行くのは寂しいのよね。
コンコン
「お嬢様、エメリア様がお越しになられました」
「通して。エメリアが入ったら皆は下がってちょうだい」
「セティーさん!マリアさん!」
「エメリア久しぶり」
「セティーさんとは学園で会った以来ですね!お元気そうです良かったです!マリアさんは…どうしたんですかそのお顔は!?」
そりゃあ驚くよね。
元気なはずだって思ってたんだもの。
私達はマリアの顔色についてとマリアの後継者についてエメリアに説明した。
「後継者ですか。なんだか私には遠いい話しで見当もつきません。私は男爵家に居ますけど血の繋がりは無いですし。家を継ぐ可能性なんて考えたことないです」
「私だってそうよ。ヴィが居るのに自分が、なんて考えあるはずないわ」
「女性が後継者になるのは女児しか子供が居ない場合だしね」
私だって当たり前にお兄様が後継者だって思ってるし。
「うーん。後継者になるのは一旦置いといて。マリアさんはシャル様への気持ちはどうなんですか?」
「私も聞きたいわ。シャル様が怪我して行方不明と聞いて泣き崩れたと聞いたわ。そこまでマリアが取り乱すとは思わなかったわ」
私とエメリアがジーッとマリアを見る。
「うぅ……」
マリアの顔が徐々に赤くなり、小さく消えそうな声えで言う。
「……好き…だと…思う」
「「マリア!/さん!」」
キャー!
マリアとシャル様が両思い!!
ん?思う?
「マリアさん、それじゃあ後継者になる話しに悩む必要ないじゃないですか!シャル様と両思いおめでとうございます!」
「あっあの、私…」
エメリアに祝福されてるのに、マリア、浮かない顔をしている。
「マリア、さっきシャル様の事『好きだと思う』って言ってたけど、思うって事はまだ気持ちがハッキリしていないの?」
「えっと。シャル様が生死不明だと聞いて、目の前が真っ暗になったの」
「うんうん」
「シャル様と過ごした日々が一気に思い出して…声が聞きたい…もっと話がしたい、会いたいって思ったの。この気持ちは…好きって事で…いっ良いのよね?」
マリアは自信なさげに言う。
「それは好きって気持ちですよ!」
「えぇシャル様の事が好きだからこそよ!友情以上の気持ちが目覚めたのね!」
「やっやっぱりこれが好きって事なのね」
「「えぇ!」
「マリア、自分の気持ちがハッキリした?」
「えぇ。私はシャル様が好きなんだと自分の気持ちに自信が持てたわ」
「じゃあシャル様の告白に応えるんですね!」
「それは…」
「マリア?どうしたの?」
また浮かない顔してるわ。
それに戸惑いも見えるわ。
シャル様を好きな気持ちがあるのに後継者の話しに悩むってことはもしかして。
「好きという…気持ちだけでは…王妃には…なれないわ」
やっぱり…。
「えっそれじゃあ断るんですか!?大丈夫ですよ!マリアさんなら立派な王妃になれます!セティーさんもそう思いますよね!」
「マリアに王妃の素質があるかと言われたら、私はあると思うわ。だけど王妃になるべきとは言えないわ」
「セティーさん!?どうしてですか!?」
「私は王妃という重責と役目を踏まえた上で、アル様を好きになったわ。だから覚悟は出来てる」
「やっぱり、セティーはそう言うと思ったわ」
「え?」
エメリアだけわからないって顔してるわね。
説明しなきゃ。
「エメリア、王妃は王の横に座っているだけではないでしょう?王妃という役職にはかなり重い責任が伴うわ。それに王族になるという事は、一般家庭の様な幸せは望むことは難しいわ。気持ちだけで、なれるものではないわ」
「あっ…」
エメリアも察しがついたみたいね。
私も王妃様に以前言われたのよね。
おかげで覚悟が出来てたけど。
「それに、私は自国の王族に嫁ぐの。幼い頃から一緒に過ごし、陛下や王妃様とも交流があって、お父様もお兄様も王宮で働いているの。少しずつ王族に嫁ぐための準備をして、覚悟を積み重ねて、一部の人達を除いて受け入れてもらったわ。マリアがシャル様の所へ嫁ぐのは状況が違い過ぎるわ。他国の、遠く親族の居ない所へ1人で嫁ぐのよ」
「そうですよね…ごめんなさい。軽率でした」
「謝らないでエメリア。私には王妃になる覚悟なんてないわ。だからと言って、この家の後継者になる。その覚悟や勇気すら…私にはないわ」
マリアの目に涙が浮かぶ。
「私はずっとヴィのサポート役で良い。社交界でもセティーの友人で後ろにいる存在で十分。いつだって1番を目指した事なんてないの。誰かの次で良い、誰かの後ろに居れば良い。誰かの上に…1番上に立つ役目なんて私には出来ないわ」
「マリア!そんな事ないわ!自分をそんな風に思わないで!マリアはいつだって努力出来る素晴らしい子なんだから!」
「そうですよ!それにエルランジェ家を継がなくてもマリアさんには、外交官になるっていう夢があるじゃないですか!」
「ありがとう。強くなったと思ってたけど、私は子供も頃のまま、変わってなかったのね」
「マリア。誰だって変わる事は怖いわ。勇気が必要よ。私だって王族になったら2人とこんな風に気軽に話をする事が出来ないわ。お父様やお兄様から敬語を使われる。自分の居る環境や立場が変わる事を恐れない事なんてないわ」
物語じゃないもの。
王子様と結婚してめでたし、めでたしで終わりじゃないわ。
嫁いだら人目のある所で自由に振る舞う事は出来ない。
1人になれる時間も殆どない生活になるわ。
色々と嫌な思いもするわ。
「私アル様の事好きよ。アル様が王族でなくても、仮に平民でも好きよ。好きになった人が王子様で、その人の隣に居る為にならなきゃいけない職業が王太子妃であり、王妃なの。私は権力なんて欲しくないわ。でもそれにならなきゃアル様の隣に居る権利はないの。私はそれくらいアル様が好きよ。マリアももう少し自分の気持ちと向き合ってみたら?王妃が務まるかを悩む前に、王妃になっても良いと思えるくらいにシャル様を好きじゃなきゃね」
好きという気持ちだけじゃ王妃は務まらないけど、まずは王妃になっても良いと思えるくらいに相手を好きじゃなきゃね。
そうじゃなきゃ目指せないわ。
王妃という責務に対する覚悟はその後についてくるものだと私は思うもの。
「そうね。自分の気持ちを見つめ直してみるわ」
「セティーさんでもそんな風に思っていたんですね。私、セティーさんはアル様のお嫁さんになるのが当たり前だと思っていたので」
「それこそ、アル様が一般貴族ならって、思わない事もなかったわ。でも仕方ないわ。王族としての責務を全うしようとするアル様も含めて、好きになったのだから」
「なんだかセティーさんが大きく見えます」
「アル様と恋人になって威厳が出てきたんじゃない?堂々とアル様が好きだと言える様になったしね」
「えっ2人とも!揶揄うのはやめて」
良かった。
マリアが笑っているわ。
毎晩泣いてるのは本のせいだって言ってだけど、悩んでたんだろうな。
王族に嫁ぎたくないなんて言えないし
嫁がないのに家を継ぐのも嫌とも言えないものね。
マリアがシャル様の事を本当に好きなら乗り越えれられると思うわ。
次はヴィクトルが出てくる予定です。
シャルエラントはその後かなと思います。




