パーティー②
エリザベート視点の方が書きやすかったので、エリザベートsideになります。
エリザベートside
エリザベートはリーゼになる為、ジェラルドから贈られたドレスに着替え、薄く化粧を施す。
髪は編み込み、後ろでスッキリと纏め髪飾りをつける。
そして仕上げにいつものビン底眼鏡をかける。
ジェラルド様からリーゼへ頂いたドレスはやはり素晴らしいですわ。
シンプルなドレスでも良い所の令嬢に見えますもの。
この眼鏡が台無しにしてしまっていますが。
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「ジェラルド様、パートナーがご不在でしたら私共と一緒に行きませんか?」
「そのパートナーとここで待ち合わせをしています。ですのでお気になさらず」
パーティーを主催している家の門の前で、ジェラルドはため息をつく。
「迎えは不要と強く断られたけど、やっぱり、リーゼを迎えに行くべきだったかな」
「ジェラルド様!お待たせして申し訳ありません!」
「いや私も今来た所だよ。それにリーゼも約束の時間より早いじゃないか」
「ですがジェラルド様をお待たせしてしまうなど」
「リーゼ、女性を待つのも男性の役割だよ。この話しはこれでお終いにしよう。それより、パートナーを引き受けてくれてありがとう。うん。やっぱりそのドレスにして良かった。リーゼの品の良さが引き立つね」
ジェラルドはリーゼに向かってニッコリと笑う。
「あっありがとうございます(御世辞とわかっていても心臓に悪いですわ!)」
「では行こうか」
「はい」
ジェラルドはエスコートの為リーゼに向かって腕を出し、リーゼはそっとその腕に触れる。
ジェラルド様にエスコートして頂くのは2度目ですが、前回触れていたのは手でしたが今回はジェラルド様の二の腕。
見た目より逞しぃ。
ハッ!私たら何を考えて!
ジェラルド達が会場に入ると周囲からどよめきが起きた。
会場にいた者達の視線はジェラルドの隣に居るリーゼに集まる。
「あの女、何者なの!?」
「なぜあのように地味な女がジェラルド様の隣に!?」
ヒソヒソとリーゼに向けた悪意が話されている。
まぁこうなりますわよね。
あら、あちらはこの家の令嬢ですわ。私を睨め付けていますわね。
主催者の娘として、ジェラルド様のお相手を務める事が出来るかもしれないという淡い期待が消えたのですから仕方ありませんが。
「大丈夫かい?」
ジェラルドがリーゼの表情を見る為に屈み、リーゼの顔を覗き込んでいる。
「え!?(ちっ近いですわ)」
「心ない言葉を浴びせられて萎縮しているんじゃないかい?リーゼにとって初めての社交だというのに。私のせいでごめんね」
「きっ気にしておりませんから(心臓に悪いですわ)」
ジェラルド達に注目している集団の中から1人の男性がジェラルド達に声を掛ける。
「ジェラルド殿お久しぶりですな。隣に居る方を紹介して頂けますかな?」
「伯爵。お久しぶりです。こちらは私の秘書を務めるミレット子爵令嬢です」
「お初にお目に掛かります。〇〇伯爵」
丁寧な礼をするリーゼを全身品定めをするように視線を動かす伯爵。
「ほう。私をご存知でしたか。ミレット子爵には以前一度だけお会いしたことがあるが。まさか令嬢がジェラルド殿の秘書をしているとは思わなかった」
「その節は父がお世話になりました。ご縁があり、こうしてジェラルド様の秘書を務めさせて頂いております。未熟者ではございますが、親子共々今後ともよろしくお願い致します」
「うむ。今後子爵に何か頼むかもしれないな。その時は私の助けになってくれ」
「はい、もちろんでございます」
リーゼが秘書だとわかると周囲で様子を伺っていた者達がジェラルド達に話しかけてきた。
「まさか秘書を同伴されてくるとは。残念ですなー。お相手が居なければ私の娘をと思っていたのですが」
パーティー主催者親子がリーゼを一瞬にらみつける。
「パートナー同伴だと招待状にありましたからね。リーゼが居なければそもそパーティーには来れていませんよ」
「それは…そうですが。秘書の方は最近王都に来られたのかしら。王都での流行を取り入れるのは難しかったようですわね」
「確かに私は王都での流行りは疎いかと思います。ですが、こちらは全てジェラルド様がご用意して下ったものなので…私にはこれが流行りなのかと」
「リーゼ、すまない。私が選んだ物のせいだ」
「!?ジェラルド様が選んだ物ですの!?」
リーゼが着ているドレスや髪飾りがジェラルドが用意した物だとわかり令嬢は青ざめる。
「はい。秘書としてパーティーに同伴する。これは言わば仕事ですから。雇用主として当然のことです」
「雇用主としてたらそれが当然ですな。娘が失礼を。1人の令嬢としてではなく秘書としてなら相応しい装いではないかと」
「私は女性の流行に疎いので、そう言って頂けるならありがたいです」
ジェラルドの言葉に合わせ、リーゼはお辞儀をする。
未だ復活しない令嬢を他所にリーゼは伯爵にはなしかける。
「そう言えば新しい染料を使った事業を始めた伺いました」
「えぇそうですとも。輝くような白い肌になれる白粉です。ジェラルド様、母君や妹君に如何ですかな?公爵家の方々に使って頂けるなら直ぐにご用意します」
「そうですね。母と妹が喜びそうです」
「その白粉は王都では販売しないのですか?」
「そうしたのですが、中々生産が…」
「そのような貴重な品をありがとうございます。その染料を大量生産することは出来ないのですか?」
「あいにく原料が…こればかりは中々…」
ジェラルドと主催者はその後も会話を続け、時々リーゼが話題を振る。
「そういえば、ミレット家はミッドランド公爵家の一門でしたな」
「はい。ミッドランド公爵家にはジェラルド様の秘書になるための推薦状を頂き、お世話になりました」
「でしたら、ご令嬢のエリザベート様にお会いする機会がありますな。先程話した白粉をエリザベート様にもお渡しして頂きたい。公爵令嬢達がお使いとなれば箔が付きますからな。希少価値もあって高値で売れるはずです」
「エリザベート様もきっとお喜びになられるかと思います(その白粉には水銀が使われているという疑いがありましたわ。ジェラルド様も知っておられるはず。これで物証も確保ですわ)」
その後もジェラルドとリーゼは貴族達を会話を楽しでいる様に振る舞う。
初めはジェラルドを警戒する貴族も居たが、リーゼが貴族派の家であり、ミッドランド公爵家と繋がりがあるとわかると警戒は弱まり、皆自身の家の自慢話をするようになった。
集団で会話している中、リーゼはジェラルドに耳打ちをする。
「ジェラルド様、あちらの家はハーブを仕入れている様です。なんでも薬にもなるとか(アヘンの密輸が疑わしい家ですわ)」
「そうなんだ。ありがとう」
「リーゼ嬢も苦労しますね。ジェラルド殿の秘書は何かと大変でしょう」
「お気遣いありがとうございます。秘書といっても学園内での秘書ですから」
「いやいや、これ程オモテになられる方の秘書なのですから何かと気苦労が絶えないでしょう?私に出来る事なら相談に乗りますよ」
「(ここですわね)まぁ!でしたら何か気分が良くなるお香がハーブをご紹介頂けませんか?」
リーゼの言葉に男はニヤリと笑う。
「えぇ良いですよ。紹介などと言わず贈らせて頂きます。つきましてはエリザベート様にもお渡しして頂けたら幸いです」
「わかりました。ありがとうございます」
その後も他の貴族と事業の話をし、一区切りがついた所でジェラルドとリーゼは離れる。
すると今度は令嬢達に話しかけられる。
「ジェラルド様、男性達とのお話が終わりでしたら是非私とお話しましょう」
「こちらはウチの特産が実を使ったジュースですの。是非召し上がって下さい」
「アルベルト殿下とセレスティーヌ様と避暑地へ行かれたとか。お話をお聞かせ下さい」
複数の女性がジェラルドの気を引こうと話しかける。
この中で動きの怪しい家も有益な情報が得られる令嬢は居りませんわね。
仕事のお話もないでしょうし。
今はただの秘書。
ある程度は傍観に勤めるとしましょう
「せっかくだからいただこう。リーゼもどうかな?確かこの果実好きじゃなかったかな?」
「えぇよくご存知で。では私もいただきます」
「前に食べている所を見たからね」
ジェラルド様。
そんな事実はありませんわ。
その後もジェラルドは令嬢達からの話題を度々リーゼに振る。
ジェラルド様。
こうも私に話を振るということは、令嬢達とあまりお話したくないですね。
まぁ皆さん私を睨んでおりますわ。
向かいに居る令嬢は確か3歳年下の伯爵家の令嬢でしたわね。
この方も私同様、熱烈にジェラルド様に恋をしている方ですわ。
さぞかし、今の状況が面白くないのでしょうね。
「ジェラルド様は秘書の方にもお優しいのですね。このドレスもジェラルド様がご用意されたとか」
「ええ。リーゼの品の良さを引き立たせてくれていると思います。秘書としての役目もあるので華美な物はと思いましたが、このドレスにして良かった」
「っ!リーゼさん、そのドレス近くで見せて下さいな。あっ!?」
ジュースを持ったままリーゼに近づいてきた令嬢はリーゼの手前で躓き、ジュースがグラスから溢れリーゼの服に掛かってしまった。
「申し訳ありません。私としたことが」
「お気になさらず。ジェラルド様、私は化粧室に行って参ります」
「ごめんなさい。ジェラルド様リーゼさんが戻られるまで私と一緒に…「こんな格好で会場を1人で歩かせるわけにはいかないよ。化粧室まで送るよ」
「ジェラルド様、お気遣いありがとうございます」
予想通りの行動でしたわ。
おおかた、汚してしまった手前ジェラルド様と2人で私の戻りを待つつもりでしたのね。
このドレスをご用意されたジェラルド様にお詫びをするという機会も得られるのですから。
まぁとっさに半歩下がったのであまり汚れていないのですけど。
「リーゼ大丈夫かい?こんな目に合わせてしまって申し訳ない」
「ジェラルド様、お気になさらず。それにとっさに後ろへ下がったので、あまり汚れておりません。化粧室で軽く落とし、後で染み抜きさえすれば大丈夫です。それよりジェラルド様、こちらをどうぞ。もし必要でしたらお使い下さい」
リーゼはジェラルドに何か渡す。
「ありがとう。では私は主催者の奥方と子息の所へ行っているよ。リーゼが戻ったら帰るとしよう」
「はい」
ジェラルドとリーゼは化粧室に続く廊下の前で別れた。
次はジェラルド視点の話になります。




