すれ違い
明日から夏休暇!
課題はあるし、休暇明けのテスト勉強に外交学の勉強もあってお茶会の予定もあるけど、毎日レオ君に会える!
お兄様とレオ君の3人で息抜きにピクニックしましょう!
それに、アル様と避暑地に行けるし。
それも恋人として
避暑地で一緒にピクニックしたり、ボートに乗ったり。
一日中一緒に居るなんて、私の心臓大丈夫かしら?
「ふふ、楽しみだわぁ」
「セティーたら、よっぽど夏休暇が嬉しいのね」
「セティーさんもの凄く良い笑顔ですよ」
夏休暇へ思いを馳せていると、マリアとエメリアがニヤっと笑いながら私を見ていた。
「えっそんなことは…。やっぱり顔に出てる?」
「「ええ!!」」
荷造りをするため、寮へ移動している途中。
つまり今は学園の廊下。
廊下の真ん中でニヤついた顔をしてたの?
はっ恥ずかしい…。
「ふふ、アル様と避暑地へ行くんでしょ?お土産に惚気話待っているわね」
「楽しんで来て下さいね!」
廊下を移動している途中、ある部屋からクリスティーヌ様が出てくるのが見えた。
「クリスティーヌ様ですね。なんだか、顔色が優れないようですが」
「ずっとお休みしてし、大丈夫かしら?今日は来ていたのね」
確かに元気が無いように見えるわ。
クリスティーヌ様のお母様とお父様が離縁した話が社交界で噂になってたから、きっと学園を休んでいたのもお家の事情よね。
お母様は侯爵家を出られたようだし。
お母様と遠く離れて落ち込んでいるのしら。
そんな事を考えていると、クリスティーヌ様が出てきた部屋からアル様が出てきた。
珍しく護衛を連れて。
「えっ?何でアル様が?」
アル様はこちらに気づく事なく、護衛を連れ足早に去って行った。
「アル様が表立って護衛を連れて歩くなんて珍しいわね」
確かに。
何時もは少し離れた所から護衛されているし。
あんなに脇を固めて歩く姿は学園では初めてかも。クリスティーヌ様と一体何があったのかしら。
「クリスティーヌ様に公的な用事でしょうか?」
「アルベール家が王党派になったし、貴族派出身のお母様と離縁された事が関係してるのかしら?」
うーん。
公的な用事なのかな。
それなら書状で済むのに。
なんだかモヤモヤする。
「セティー大丈夫?」
「難しいお顔されてますが…」
マリアとエメリアが私を心配そうに見ている。
「えっあっ大丈夫よ。ちょっとモヤモヤしただけよ」
「モヤモヤですか…?」
「もー大丈夫よ!アル様はセティー、一筋なんだから!」
「そうですよ!」
「クリスティーヌ様に嫉妬したのね。気になるなら今度アル様に聞いてみたら?旅行前に会うんでしょう?」
マリアの言う通り、旅行前に王宮に行く予定だし、その時聞いてみようかな。
モヤモヤしたまま旅行に行くのも嫌だし。
「そうね!アル様に直接聞いてみるわ!」
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「セティー久しぶり。あーやっとセティーに会えた」
「ふふ、最後に会ってからは1週間しか経ってないわよ」
「違う。1週間も会えてなかったんだ」
ソファに座るように促され、アル様の隣に座ろうとした所で体が浮く。
「きゃっ」
ストン。
「え?」
ニコッと笑ったアル様の顔が近くにある。
わっ私、アル様の膝に!?
「あっアル様!?」
「ここには私達しか居ないんだ。少しくらい良いだろ?」
「そっそうだけど」
部屋に2人きりでも扉は少し開いてるし、扉の前には護衛の方々も居るのに。
私を膝に乗せたまま私を抱きしめて私の顔を覗きこむアル様。
「ダメか?」
「うっ!ダッダメじゃないわ」
そっそんな上目遣いされてダメなんて言えないわ。
それに恥ずかしいけど、嬉しい。
そのままアル様の膝の上に居ると、アル様に頭を撫でられたり頬やおでこにキスされたりした。
うぅ、心臓が!
心臓が持たないよ!
学園に居る時より甘さが増量してる!
アル様がじーっと私を見ている。
キラキラした目で、何かを期待しているような表現で。
ゔっ。
恋人になってしばらく達けど、受け身ばっかりじゃダメよね。
チュッ
アル様の頬にほんの一瞬。
触れるだけのキスをする。
これが今の私の精一杯!
「セティー!」
ギュッとアル様に抱きしめられた後、アル様の方手が私の頭に移動する。
フワッとアル様の唇が私の唇に重なる。
「っ!」
いっ息が。
アル様の肩に置いた手に力が入る。
もう限界という所で唇が離れていく。
「はぁ。」
唇が離れた瞬間自分の口から息が漏れ、息切れがする。
余裕がない自分が恥ずかしくて俯いてしまっていたけど、チラッとアル様の方を見ると余裕のある笑顔だった。
「ふふ、首まで赤くして可愛いな」
「なんでアル様はそんなに余裕なの?」
「余裕なんてないさ」
アル様は私の手を自分の胸に触れさせる。
アル様の鼓動の速さを手に感じる。
「ほら、わかるか?私だって余裕などない」
「アル様も私にドキドキしてくれているのね」
「当たり前じゃないか」
「嬉しい…」
しばらくしてから、アル様の膝から降りて隣に座り、避暑地へ向かう打ち合わせを行う。
連れて行く護衛やメイドの人数を話し合う。
今回、私付きのメイドさんの3人はお休み。
代わりに王宮のメイドさん達が私に付いてくれる事になった。
今後の為に王宮のメイドさん達に慣れる為らしい。
「王宮のメイドだけで大丈夫か?あの3人の方がセティーは気楽なんじゃないか?」
「大丈夫よ。せっかくアイリーン様の計らいだし。それにエルとアンナは里帰りに丁度良い日程だし。カミラも恋人とデートがあるって楽しそうに話してたから」
「そうか。それなら良いが」
「それに、これからの為に王宮のメイドさん達と仲良くなりたいもの」
「セティー、嫁いで来る際に公爵家のメイドを連れて来て良い。セティーが望めば何人でも」
「1人ぐらいは連れて来るかもだけど、何人もなんて外聞が悪いわよ。でも、ありがとう。心配してくれてるのよね」
「当たり前だ。結婚後に住む環境が変わるのはセティーなんだから。それにセティーの周りに付く女官達は貴族令嬢だ。どうしても政治に巻き込まれる。それなら世話をするメイドくらい気心知れた者達の方が良いに決まってる」
女官かぁ。
アル様の心配してくれる気持ちは素直に嬉しい。
行儀見習いの令嬢達だけど派閥とか爵位もあるし、決めるの大変よね。
同じ派閥の高位の令嬢はマリアとクリスティーヌ様だけど、マリアはシャル様のこともあるし。
あっもして、それでアル様はクリスティーヌ様に話を?
「アル様、こないだ学園でクリスティーヌ様に会っていたのは、もしかしてその事?」
「こないだのあれを見られていたのか。セティーの女官をあの者に任せるはずがない」
「それじゃあ何があったの?珍しく護衛を側に連れていたし。公的な要件なら私も把握してた方がいいかなと思ったのだけど」
「セティーは知る必要のないことだ」
「えっ」
アル様の言葉に拒絶を感じ、驚いてアル様の顔を見る。
アル様の表情は王太子の仮面を貼り付けた笑顔だった。




