心遣い③
ずっと投稿できず、2年ぶりの更新になり申しわけありません。
マルヴィン公爵家の自室でジェラルドは目の前招待状の山を見ながら溜息をつく。
「お兄様、入ってもよろしいですか?」
「大丈夫だよ。」
セレスティーヌがレオルドを抱きながら入室する。
「お兄様、少しお時間良いですか?エリザベート様のドレスのことで」
「たぁ!」
「うん、大丈夫だよ」
セレスティーヌはジェラルドにドレスのデザイン図を見せる。
「もう1着の方のデザインに悩んでまして」
翡翠色のドレスのデザイン図が複数。
「このドレスの形が良いんじゃないかな」
ジェラルドが選んだのはマーメイドラインのドレス。
「そのドレスですと刺繍を全体的入れたら綺麗ですね」
「たぁ!にー」
刺繍の見本表を開くとレオルドが指を指す。
「うん、兄様と同じ金色だね。でも翡翠のドレスに金色を使ったドレスは贈れないから同系色にしたらどうかな」
「そうしましょう!これでやっとオーダー出来ますね」
「喜んで貰えるといいね」
「それにしてもすごい数の招待状ですね」
「大半はお断りするものだよ。ただ招待状の中には仕事の付き合い的で出席しなければいけないんだ」
「気が乗らない招待なのですか?」
「いや、それがどれも参加条件がパートナー同伴なんだ」
ジェラルドの表情が曇る。
「お兄様のパートナーでしたら私が務めますよ!」
「セティーはアル様の婚約者だから、無闇にパーティーに出すわけには行かないよ。政治に関わる話もあるからね」
「うぅ、そうですよね。 あっでしたらエメリアに頼んでみてはどうでしょう?」
「駄目だよ。年頃のそれもセティーに近しい令嬢では周りに誤解されてしまうよ」
セレスティーヌとジェラルドは難しい表情をする。
コンコン
ノックの後、執事の声が入室の許可を得て扉を開ける。
「ジェラルド様、リーゼ様がお越しになられています」
「リーゼが?どうしのだろう?」
「預かった資料にジェラルド様の書類が紛れていたそうで、お持ち下さいました」
「そうか、悪い事をしたな。すぐに応接室の準備を」
「それが、もてなしは不要とのことで」
「休日に、わざわざ書類を届けに来てくれたと言うのにはそう言うわけにはいかないよ」
「お兄様、このままお待たせするより、こちらに案内されてはいかがです?休日ですし、あまり硬くならずに気軽に部下の方と接するのも良いかと」
「うーん、そうだね。私室に女性を入れるのは憚れるけど今はセティーとレオが居るし良いかな」
「失礼します(ジェラルド様の私室!)」
いつもと同じお下げとビン底メガネに簡素なワンピース姿のリーゼが緊張した様子で入室する。
「リーゼ、私の不手際で申し訳ない。わざわざありがとう。何かお礼をさせてほしい」
「いえ!お礼などとんでもございません!気にしないでください」
「リーゼさんお時間お有りでしたらお茶でもいかがですか?それと弟のレオルドを紹介させて下さい」
「で、ではお言葉に甘えさせて頂きます。レオルド様、お目に掛かれて光栄です。リーゼと申します」
「たぁ!」
レオルドはリーゼに向かって笑顔で手を伸ばす。
「っ!(かっ可愛いですわ!)」
テーブルにお茶とケーキが置かれ、リーゼはセレスティーヌ達とは向かい側に座る。
「あー。うぅー!」
レオルドが目の前のリーゼの方へ手をと体を動かす。
「あらレオ君たらリーゼさんの隣に行きたいの?」
「うぅ!」
「リーゼを気に入ったのかな?」
「あっあの宜しければレオルド様を抱っこさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「えぇ大丈夫ですよ。レオ君も喜ぶと思います」
レオルドを渡すためセレスティーヌはリーゼの隣に座る。
「うきゃ!あー!」
リーゼに抱かれたレオルドは上機嫌になり笑いながらリーゼに身を預ける。
「本当に可愛いですね。ジェラルド様に心なしか似ている気がします」
「そうなのです!レオ君はお兄様に似て綺麗な顔立ちなんです!」
「私はセティーに似てると思ってるんだけどね」
「ふふレオルド様はお兄様とお姉様から愛されていますね」
リーゼがレオルドの口元をハンカチで拭いながら笑いかける。
レオルドは嬉しそうにリーゼの頬や髪を触る。
「あぁ!ごめんなさい、ハンカチが汚してしまって」
「リーゼ、新しい物を贈るから貰ってほしい」
「ハンカチは汚れる為にあるのです。お気になさらず」
「休日にこうして書類を届けてくれただけじゃなく、弟の為にハンカチを汚して。私の気がすまないよ」
リーゼは自分のハンカチを握りしめるレオルドを見ながらこれ以上断るのは悪いと思い始める。
「ではお言葉に甘えさせて有り難く頂戴致します」
「うきゃー!」
レオルドはハンカチを離し、ジェラルドの方を向いていたリーゼのメガネに触れる。
「あっ!」
レオルドによってリーゼのメガネがズレ片目が見える状態になってしまう。
慌てて下を向くリーゼ。
「(まっまずいですわ。メガネを掛け直すにはレオルド様から手を離さないと)」
「レオ君!めっ!だよ」
「うぅー。うわーん」
「もう、レオ君こっちに来て。リーゼさん目は大丈夫ですか?」
セレスティーヌが泣き出したレオルドを受け取ろうとリーゼに近づく。
「!?だっ大丈夫です」
リーゼは俯いたままセレスティーヌにレオルドを渡す。
リーゼは俯いたまま慌てた様子でメガネを掛け直す。
「そっそろそろ、お暇させて頂きます。ジェラルド様、セレスティーヌ様、それにレオルド様ありがとうございました」
メガネを掛け直したリーゼは焦るように帰宅を伝え退室する。
「あっ見送りをさせて下さい」
「いっいえ、レオルド様も泣かれてますしお気になさらず」
リーゼが帰り、セレスティーヌがレオルドが落としたリーゼのハンカチを拾う。
「なんだかリーゼさんには悪い事してしまいましたね」
「そうだね。お詫びとお礼を兼ねてハンカチ以外にも何か贈るよ」
「えぇそうしましょう。あっ!この刺繍とっても綺麗!」
セレスティーヌの言葉にジェラルドはハンカチの方へ視線を送る。
「セティーその刺繍ちょっと見せて!」
広げられたハンカチをジェラルドが覗き込む。
そこには緑の薔薇を中心に周りを複雑な模様で囲った紋章が刺繍されていた。
「お兄様、この刺繍がどうかされたんですか?」
「いやどこかで見た刺繍だなと思って」
「こんな素晴らしい刺繍一度見たら忘れませんよ。リーゼさんて刺繍がお上手なんですね」
「そうみたいだね」
ジッと刺繍を見て考えこむジェラルド。
「リーゼさんへ贈るハンカチはエリザベート様のドレスと一緒にオーダーしましょうか」
「あっああ。そうしようか」
ミッドランド公爵家の自室に帰宅したリーゼは髪を解き、メガネを外しエリザベートの姿に戻る。
「焦りましたわ。バレていませんわよね。この赤い目を見られては怪しまれてしまいますわ。ミレット子爵家に赤い色を持つ者はおりませんし」
エリザベートは気づいていなかった。
隣に座っていたセレスティーヌには見られていなかったが、目の前に座っていたジェラルドには一瞬だか、その赤い瞳を見られていたことを。




