事情②
王宮の財務大臣室の扉が勢いよく開かれる。
「お父様!」
「はぁ。何故クリスティーヌがここに居るんだ」
「お父様!メイド達が私に向かって無礼を働きましたわ!」
「はぁ。お前の様な出来の悪い者に長年耐えてくれたんだ。多少の本音くらい出るだろ」
「許せと言うのですか!?この私に無礼な事を言ったのですよ!?」
「それがどうした?」
「私は侯爵家当主の娘!侯爵令嬢ですわ!メイドにあの様な態度を取られるなどありえませんわ!」
「私の娘か……。丁度良い、屋敷へ共に来い」
屋敷に着くとあの気に入らない執事が出迎えましたわ。
「お帰りなさいませ旦那様。それと、クリスティーヌ様は何故こちらに?」
「オリバー揃っているか?」
「ええ皆様お揃いです。奥様は旦那様の私室にてお待ち頂き、マーサが側についております」
「そうか。面倒を掛けたな」
「いえ、マーサが張り切ってましたから」
なんのことですの?
さっぱり話がわかりませんわ。
お母様がお父様の私室に?
お父様の私室へは誰も入る事を許されてないというのに。
談話室へ入るとお爺様、お母様、お義兄様が居ましたわ。
お爺様なら私の味方になって下さるわ!
「お爺様!お久しぶりですわ!聞いて下さい!お父様ったら酷いのですよ!娘である私がメイド達に無礼を働かれたというのに、罰を与えない所か、咎めもしませんのよ!」
「クリスティーヌちゃん…」
「あらお母様、少し見ない内にずいぶん老け込みました?」
お母様ったら顔や髪にも艶がありませんわ。
まったく、新しいドレスや飾りがなくとも自分を磨くくらいはしてほしいですわ。
この姿じゃあ一緒にお茶会に行くのが恥ずかしいですわ。
あら?
お爺様ったら何も言ってくださらないわ。
どうしたのかしら。
「毒女の娘は所詮毒女か」
「お爺様?」
「はぁ。あの時認めていればこの様な事には……」
「父様、何故クリスを?クリスはこの件には関係がないはずです」
「ちょうど仕事場に押し掛けてきたんだ。今回の件がクリスティーヌにとって自分を知る良い機会だと思って連れてきたんだ」
「ですが……」
「それにクリスティーヌはサンドラの娘だ。自分の母親が犯した罪を知らなければならない」
お母様が犯した罪とはなんですの?
それにこの重い空気はなんですの!
「サンドラ、お前が犯した罪状を読み上げよう。アルベール侯爵家の宝物庫からの窃盗。そして毒を使いレティシアを害そうとした。全て現行を押さえている。申し開きを聞く気はない」
!?
お母様が!?
いくら自由に出来るお金がないといっても窃盗なんて。
まして殺人紛いをするなど、何かの間違いですわ!
レティシアとはお父様の恋人の名前。
今まで関わりがなく表に出て来なかった人にお母様が毒を盛るだなんて。
「どう…して。どうしてなの!どうしてうまくいかないの!」
「おっお母様?」
「今までは直接手を汚さず、実家から連れてきた者に実行させていたが、伯爵家が落ちぶれ、お前の側仕え達はこちらに寝返った。自分の言う事を聞く者が居なくなり自分の手で実行したんだろが、お前の手口は寝返った者によって筒抜けだった。お陰で現行犯でお前を捕まえる事が出来た」
そんな。
お父様の口ぶりではまるで前から悪い事をしていたみたいではありませんか。
「お母様、何故…その様な事を。いったいいつから」
「窃盗は最近だが、レティシアを害そうとしていたのはクリスティーヌが生まれる前からだ」
「そっそんなに前から……。どうしてですのお母様!」
お父様の恋人の存在は結婚する前からわかって居ましたのに。
「そこの汚らしい庶民の子を当主にするというからですわ!侯爵家の一族も表では認めていない様な事を言っておきながら、本気で排除しようとせず放置ですわ!だから私が!」
「だから長年に渡りカミーユを虐げてきたというのか」
「自分の子供ではないのだから、大事にしなくて当たり前ですわ!」
お母様がお義兄様を!?
「お前がカミーユを虐げることは予想が出来た。だが、使用人達はカミーユの味方だ。お陰でカミーユは何事もなく育つ事が出来た。カミーユを本家に入れる時、一族の者達に苦言を言わせない為に私は出世し権力を得た。今ではカミーユ自身が力を付け一族の者達を認めさせている」
お父様の言葉に執事が前へ出て話し始めましたわ。
「旦那様の指示通り若様とサンドラ様を極力顔を合わせないようにしました。またサンドラ様は自らの手を汚さない事を逆手に取り、サンドラ様の側仕えを買収し、若様が痛め目つけられたように偽装し続けました」
執事の言葉にお義兄様が笑顔で答えますわ。
「マーサをはじめとする使用人の方々には助けられました。お陰で痛い思いのひもじい思いもなく過ごす事が出来ました。サンドラ様が見ていた僕の痣や火傷の後は全て偽装です」
「なんですって!?」
「それとサンドラ様が若様を頻繁に屋根裏部屋に閉じ込めて置くようにと命令されましたが、離れに避難させその隙に家庭教師を招き入れ勉学に努めて頂きました」
「ただ僕がいつも平気な顔をしているせいで母さんの方へ矛先が向いたのは悔やまれた」
「奥様の方へも対応は万全でしたよ。サンドラ様にクビにされた使用人達は奥様の方へ行きましたから。サンドラ様を恨む者ばかりですから、しっかりと奥様の脇を固めてくれました。お陰で奥様はとても健康になられ、よく花壇の世話をして過ごされてます」
「嘘よ!あの女は歩けないはずよ!」
「マーサ。良い、レティシアを連れて入って来てくれ」
「はい、奥様大丈夫ですからね」
マーサに付き添われてストロベリーブロンドにお義兄様と同じ茶色の瞳の綺麗な女性が入って来ましたわ。
「皆様とはこうして正式にお会いするのは初めてですね。 カミーユの生みの母、レティシアでございます」
「レティシア。待たせてすまなかった。こっちに座ってくれ」
「はい。マーサありがとう」
「いえいえ、私も奥様とのお話楽しかったですよ。またいつでもお話いたしますよ」
「ええ是非!またカジーの子供の頃の話し聞かせてね!」
「今度はアルバムもお見せしますよ」
「わぁ楽しみだわ!」
「母さん、空気を読もうね」
「あらごめんね、カミー」
この重い空気の中で堂々としてますわ。
「見ての通り、幾度に渡るサンドラや分家からの攻撃を避け、レティシアは元気だ」
「そんな!」
「あっ歩けない様に見せたのは演技です。たまにサンドラ様や分家の方々の使いが見に来ているのは知ってましたから。初めのうちは虫を送りつけられる程度の嫌がらせだったのだけど、次第に毒を使われるようになったから。毒に弱ってる姿を見せる事で、ここ数年は何もなく過ごせました」
「今回、母さんを毒殺しようとしたのは、僕がいよいよ目障りになったからですね。クリスティーヌが王妃になれないのがわかり、次期当主をクリスティーヌの夫にする為に」
お義兄様は辛そうな表情で話を続けますわ。
「父様はサンドラ様や分家の方々の手が届かないように母さんを守ってくれました。僕も母さんを守りたい、そして母さんが父様と堂々と一緒に居られるようにしたい。そう思ったから自分でこの家に入る事を決めました。だからいくら脅されても僕は今の立場を譲ることはありません。そこでサンドラ様は僕が次期当主を目指す理由である母さんに毒を盛ったのですね」
お母様はギリッと歯を食いしばりプルプルと震え始めましたわ。
「そうよ!クリスティーヌちゃんが王妃になれないのなら、侯爵家を継ぐのはクリスティーヌちゃんよ!」
「クリスティーヌに侯爵家を継げるわけがないのは、サンドラお前自身が1番よく知っているだろ」
「そっそれは!そうだとしてもクリスティーヌちゃんはちゃんと貴族の血を引いてますわ!」
「はぁここにいるクリスティーヌ以外は皆知っているぞ。クリスティーヌがアルベール家の血を引いていないということは」
「えっ?」
ごめんなさい、まだ続きます。




