花に込められた思い
「セティー今年こそ避暑地に行かないか?」
王宮抱えの避暑地。
去年は行けなかったのよね。
今年はお爺様達の所へは行かないし、行きたいわ。
「是非行きたいわ。今年は領地へも辺境伯家の所へも行かないから日程はアル様に合わせるわ」
「領地へも行かないのか?」
「えぇ、お兄様がこの夏休みはお見合い三昧になるからって。お兄様がお見合いをするって言ってから、私までお茶会のお誘いが絶えなく大変なのよ」
「ジルより先にセティーを落とそうとしているのか」
「そうみたい。良い機会だから今まで交流がなかった方と社交してくるわ」
「セティーもジルさんも大変だね。俺は今年も山籠りかな。 今年は騎士団の鍛錬に参加させて貰えるんだ」
ヴィクトルはニカっと笑う。
今年もハードな夏休みを過ごすというのにヴィクトルの目が輝いてるわ。
「私は去年と同じです。リュカと一緒に前に住んでいた街に行きます」
「僕はそのまま家の手伝いですね。後は少し鉱山の方に顔を出すくらいです」
「そうなの。気をつけて帰ってね。マリアは?」
「……。」
「マリア?」
「えっ?あっ何?」
「皆んな夏休暇をどう過ごすのか話してたんだけど」
「ああ私は去年と同じよ。後はちょっと勉強するわ」
「マリアは後期から外交学を専攻するんだって。前期で専攻してないから、その分の試験があるんだよ」
「ヴィ!試験に受かってから皆んなに言うつもりだったのに」
「えー。マリアなら絶対受かるから大丈夫だよ。俺の試験勉強だってマリアが教えてくれたし」
マリアも外交学を専攻するのね。
実は私も外交学を学ぼうって思ってるのよね。
王妃教育で習ってるけど、アル様に追いつく知識はないし。
それに、王太子妃になったら外交も仕事だし、少しでもアル様の助けになるかなって。
だけど、試験に自信がないのよね。
ここで私も外交学を専攻するって皆んなに言えたら良いけど、落ちる可能性があるのよね。
でも皆んなに言っちゃえば、後に引けなくなって勉強に身が入るかも!
「私も外交学を専攻するつもりなの。マリア、お互い頑張ばろうね!」
「えっセティーもなの!?セティーは王妃教育で習ってるじゃない」
「王妃教育では触りだけよ。この先の事を考えると必要だと考えたのよ。それに、アル様の助けになるかなって」
「セティー、私のために。ありがとう」
アル様にギュッと体を引き寄せられる。
「あっアル様、皆んなの前で」
「ん?別にこれくらい構わないだろ」
確かに皆んな気にしてない様に見えるけど、私が構うわ。
恥ずかしいよー。
「私は試験に受かる自信はないから、お休みの間は家で勉強するわ」
「それなら私が教えよう。そうすれば休暇中でもセティーに会えるな」
「大丈夫よ。アル様は公務で忙しいでしょう?」
「セティーは私に会いたくないのか?」
「えっそんな、会いたいに決まってるわ。でも公務で疲れてるアル様の邪魔になりたくないし」
「邪魔になんてなるわけないだろ。セティーに会えない方がどうにかなりそうだ。それに、王妃教育はもうほとんどないだろ? セティーに会える口実がほしいんだ」
「アル様…。それじゃあ勉強教えてもらいに、会いに行っても良いのね」
「もちろんだ。私もセティーに会いに行く」
アル様に会いに行ける。
嬉しい。
頬を押さえて嬉しさに浸っていると、皆んなからの視線に気づく。
顔を上げると、皆んなニタニタした目で私達を見てた。
「ふふふ。ラブラブですね」
「恋人の雰囲気になったわよね」
「いやー前も甘々だったけど、恋人なったら更にだね」
皆んなに見られた!
はっ恥ずかしい。
「今は王太子ではなく、ただの愛する恋人に接する1人の男だからな」
「あっアル様、恥ずかしいからそういうのは2人の時に」
「そうだな。明日は2人きりで食事をしよう」
アル様はそういうと私のこめかみにキスをした。
っ!!
ゔぅ手加減してって言ったのに。
「しっ失礼します。お手紙と御荷物をお届けに参りました」
学園で働いているポストマンが私達に手紙と荷物を届けに来た。
みっ見られちゃったかな?
ポストマンの方を見ると目が合い顔を赤くされた。
うぅ絶対見られたわ。
皆んな以外にも見られるなんて。
「ご苦労。確かに受け取った」
「ありがとうございます。お爺様達からだわ」
「私もお母さんからです」
「俺とマリアにも届いてるよ」
今年はお爺様達がこちらに来るって書いてあるわ。
今年も会えるの嬉しいわ。
「こちらはマリア・エルランジェ様宛てです」
ポストマンがマリアに青紫の花束と手紙を渡す。
「誰からの物か聞くまでもないな」
「花束だけでなく手紙まで。本当にマメですね」
「そうよね。手配していた物だとしても、お花は自分で選んでるのよね」
「ウチの店に御依頼して頂きましたが、花の種類や色の指定をとても細かくされてましたよ」
「花言葉も素敵ですね。『純愛』『希望』『美しい』極め付けは『君を思う』ですね」
ほんと素敵な花言葉。
しかも今日が初めてじゃないのよね。
定期的に花束が贈られてきてるのよ。
初めて贈られてきた時は誰からかと思ったけど、メッセージカードを見て納得したわ。
「シャルがこんなにマメな奴だったとはな」
「シャル様は女性の扱いに慣れてるようだから、不思議ではないと思うわ」
ゲームではお色気担当って感じで女性に甘い言葉を言ったりしてるし。
それとゲームの説明書に書かれていた、女性に囲まれて、中心に座っているシャル様の絵を思い出したわ。
「そうでしょうか?普段の様子を見ていても、積極的に御自分から関わろうとはしませんよ?女性達から声を掛けられる事はあっても御自分から話し掛ける相手は私達くらいです」
「そうだな。軽いように見られる言動があるが、シャルは女性に対して線引きをしている。国柄的に表には出さないがな」
「そうなのね。でもこれでシャル様が本気なのだとわかるわね」
マリアの方を見ると顔を赤くしながら花束を大事そうに抱えて手紙を読んでいた。
それをヴィクトルが複雑そうな顔で見ていた。
「シャル様が本気なのはわかったけどさー。色々不安要素があるんだよー」
「不安要素?」
ヴィクトルが不安になる様なことなんて無いと思うけど。
「だってシャル様と結婚するってことは、マリアはナハラセス国に行っちゃうんだよ?今回のことでナハラセスの貴族や女達に目の敵にされそうだし。国内ならエルランジェ家の力で守れるし、俺も側に居られるようできるけど、ナハラセスじゃあ俺は側に居れないからさ」
「ヴィクトル……」
美しい兄弟愛だわ。
「ヴィ、そんなの何処に嫁いでも同じよ。貴族達の前で婚約式をして国民に祝福されたセティーだって敵は居るのよ?何処へ嫁いでも多かれ少なかれ苦労はあるわ」
「そうですよね。姑問題に親戚付き合い。嫁は嫁いだ家の方々にとっては他人ですから。旦那様が味方になってくれるとは限りませんし。陰で泣いて耐えないといけい話、よく聞きます」
「結婚って相手との生活だけじゃないものね。相手の親族に身と心を捧げて、いざとなったら心中する覚悟持って嫁ぐようにって授業で習ったわね」
前世だってよく女の癖にとか、嫁姑問題は耳にする言葉だったわ。
「恋愛結婚ならともかく、政略結婚で好きでもない相手と結婚。その上親族の方々が良い人じゃなかったら地獄だわ」
「生家との取引で立場は変わってきますが、大事にしてもらえるかわからないですよね」
結婚は墓場なんて男の人が口にするけど、本当に墓場なのは女性よね。
「「「はぁー」」」
私達は自然と溜息をつく。
私は恵まれてるわよね。
王妃様と国王陛下には嫌われてないし、お父様が宰相だから王宮内で軽く扱われることはないだろうから。
何よりアル様と両思いになれたもの。
アル様と両思いというだけで、これからの苦労なんてどうってことないわ。
私がそう思っていると隣に座るアル様が私の腰に回している腕に力を入れて自分に引き寄せる。
「セティー、私は公では味方になれない状況になろうとも、心はセティーの味方だ。だから1人で耐えるなどしないでくれ」
アル様、悲痛な顔をしてる。
こんな話聞いたらアル様だって不安になるよね。
「アル様大丈夫よ。私はアル様との結婚を悲観的に思ったことはないわ。有難い事に陛下と王妃様に嫌われてはいないし、王宮内にはお父様だって居るから。それに何より私達は愛のない結婚ではないから」
「セティー……。ああそうだな。私達には確かな絆がある」
アル様にギュッと抱きしめられる。
うぅ皆んなの前じゃなきゃ素直に嬉しいのに。
「セティーとアル様なら大丈夫よね」
「お2人には愛の力がありますから」
「さっきもポストマンに見られているし、学園中に噂が回るね」
「既にお2人の噂は庶民棟でも持ちきりですよ」
うぅやっぱり噂の的になるのね。
変な尾びれが付かないといいけど。
「そういえばシャル様はいつ戻られるのでしょうか?」
「夏休暇の終盤には戻って来るって書いてあったわ」
思ってたより早く帰ってこれるのね。
「想像より早いですね。上手くいっているなら良いのですが」
「問題ないようだ。シャルから私にこれが送られてきたからな」
そう言ってアル様が見せたのはチェスの駒だった。
これはクイーンの駒よね。
駒に少し傷がついてるわ。
でもこれが何だというの?
「「なるほど」」
マリアとヴィクトルがハモる。
「2人はわかるの?」
「ええこれは簡単よ」
「俺もテストは苦手だけど作戦暗号とか密書の読解は得意なんだよ!ヒントはシャル様と現王妃の関係性だよ」
「あっなるほどね」
「ゔーん、私にはわかりません」
「僕もさっぱりです」
「ナハラセスの王妃を落としたってことだよ。今の王妃はシャル様の母親じゃないし、表面上は仲が良いってことになってるけどね」
「えっそうなんですか?」
「おそらく王妃を味方にしたんだろ。自分の子供ではないシャルが王太子では、立場が危ういからな。王妃もハレムが解体された方がライバルが減るからな」
「はぁー、そうなんですか。なんだか複雑な関係ですね」
「でもシャル様の思惑通りに進んでるってことなら良かったじゃない」
「そうだな。シャルの思惑通りに進めばナハラセスは今よりも発展するだろう」
順調なら良かったわ。
無事に戻ってくる事を願うばかりだわ。




