新たな恋路
誤字脱字報告ありがとうございます。
大変助かっておりす。
あの事件から数日。
やっと学園復帰する日が来たわ。
身支度をしているとアル様から頂いたペアリングが目に入る。
手を顔の前に出し、思わずニヤニヤしてしまう。
「幸せそうですねお嬢様」
「え、そっそうかしら?」
「ふふふ、顔に幸せだと書いてありますよ」
「お嬢様が幸せで私達も嬉しいです。お嬢様が幸せそうに笑っているだけで心が暖かくなります」
なんて良い人達なのかしら。
ウチのメイドは皆んな優しいわぁ。
「お嬢様、アルベルト様がいらっしゃいました」
「アル様が?なっなんで?」
「お嬢様のことを迎えに来たんですよ。一緒に仲睦まじく登校して下さい」
「こんなことなら、マッサージも行えば良かったですね」
「「「お嬢様、行ってらっしゃいませ」」」
「アル様!」
「セティー、おはよう。体調はどうだ?」
「アル様もおはよう。もうすっかり大丈夫よ。アル様の方こそ大丈夫?」
「ああ、平気だ。昨日から剣術の稽古も再開したくらいだ」
「それなら良かったわ」
「私達は公務で休んでいた事になっているからな。もし辛くなったら言ってくれ」
「わかったわ。そうよね、バレるわけにはいかないものね」
王太子であるアル様が怪我して意識がなかったなんて、知れ渡るわけにはいかない。
だから今回、私とアル様は公務に出ていた事になっている。
ルビーさんは色々あって退学処分になったと発表されているだけ。
今頃は強制労働をして罪を償っているはず。
「しかし、既に様々な噂が流れているようだ。皆が皆、味方というわけではないからな、セティーも気をつけてくれ」
「えぇ」
校舎へ近づくにつれ他の生徒達の姿が増える。
今の所普通に挨拶されてるし、突っ掛かってくる人は居ない。
「アルベルト様!」
クリスティーヌ様だ。
凄く慌ててるみたい。
「クリスティーヌ様、ご機嫌よう」
「クリスティーヌ嬢何か?」
「あぁ!アルベルト様!私心配で心配で」
「何を心配していのか話が見えないな」
「ある女性徒とそこのセレスティーヌさんに巻き込まれてアルベルト様がお怪我をされたと聞きましたわ。私、夜も寝れないほど心配しましたわ」
クリスティーヌ様は知っているいるの!?
どっどうして?
「とんでもない戯言が流れているようだな。今の私を見て怪我をしているように見えるか?」
アル様の纏う空気が冷たくなる。
「いっいえ、ですが長らくお休みになられてましたし」
「セティーと共に公務へ出ていた。それは学園側も知っていることだ。ありはしない話をされるのは不愉快だ」
「し失礼しました。しかし、セレスティーヌさんが同行する公務とはなんですの」
「他人であり、関係者ではない君に知る権利はない」
アル様は冷たく言いつける。
クリスティーヌ様は顔を青くする。
「これ以上用がなければ失礼させてもらおう。セティー行こうか」
「えぇ。クリスティーヌ様失礼します」
「ふぅ。まさかクリスティーヌ様が知ってるなんて焦ったわね」
「休日だったとはいえ医療隊が出動したからな。噂になっていてもおかしくはない。しかし、先程のクリスティーヌ嬢の話し振りではまるでセティーのせいだと聞こえる。セティーを貶めたいという意図が透けて見える」
確かに。
アル様が私を庇ったせいで怪我したなんて、私を婚約者から引き摺り下ろすには十分な理由かも。
「そうでなくとも、私の前でセティーを貶めるような発言が腹だたしい」
「私は気にしてないわよ」
「しかし、彼女は以前からセティーに対して敵意を持ってるだろ」
「それは仕方ないわ。だって私はアル様の恋人で婚約者だもの。逆の立場なら私もクリスティーヌ様に対して敵意を持っていたはずよ」
「私のせいでセティーに辛い思いをさせているのは知っている。しかし、セティーのことも自分の立場も手放す気はない。苦労かけてすまない」
「ふふふ。そんなのとっくに覚悟が出来てるわ。大丈夫よ、意外と平和に過ごしてるから」
公爵令嬢だし、表立って嫌味を言ってくる人は居ない。
茶会だってマリアが助けてくれるし、学園にお兄様が居るから、お兄様という強い抑止力のお陰か嫌がらせも全然ないし。
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「セレスティーヌ様公務お疲れ様でした」
「婚前から公務に付き添いをしているということは王家はセレスティーヌ様のことを認めてらっしゃいますのね」
放課後のお茶会にマリアと参加。
親交が少ない、貴族派の令嬢からの招待だから少し身構えてたけど大丈夫そうね。
1日学園で過ごしたけど、アル様が怪我したという噂は聞かなかったわね。
私が公務に付き添ったということについての噂ばかりだったわ。
「そちらの指輪は?セレスティーヌ様が指輪を身に付けるのは珍しいですわね」
「これはアル様から贈られた物です」
私は令嬢達に指輪を見せるように手の甲を顔の近くに持ってくる。
自慢したいわけではないけど、アル様の恋人だって言いたい気もする。
反応は様々。
笑顔を見せる方、目を見張る方。
「あら、殿下からの贈り物にしては随分と華奢な物ですわね」
「石も可愛らしいサイズですわ」
先輩達から嫌味を言われる。
貴族としては高価な物に見えないのね。
確かに華奢なデザインで石は小さいし。
どう反撃したらいいかしら。
「ペアリングとしてはこれくらいが丁度いいではありませんか?」
「「「ペアリング?」」」
「これと同じデザインの指輪をアルベルト様も身につけています。剣を握られるアルベルト様でも身に付ける事が出来る物にしたようです」
反撃に悩んでいるとマリアが助け船を出してくれた。
「えぇ。これはアル様から愛の証にと頂いた物です。この指輪なら王家から賜った指輪を重ねてつける事も可能です」
自分で言っててちょっと恥ずかしいわ。
私は微笑みながらも頬を少し赤くする。
「ペアリングとは2人で同じ指輪をつけるということですか?」
「あまり聞いたことのない言葉ですわ。最近お2人がペアの飾りを身に付けてらっしゃるので流行ってはいますが」
「海外の文化ですから、聞いたことがないのは無理もないかと」
「海外……。ということはもしかして、これはマリア様も関わっていらっしゃるのですか?」
「アルベルト様が改めてセティーに指輪を贈りたいと婚約式の後で仰っていたので提案させて頂きました。また、どんな装いにも合わせられ、外すことはないもので、会えない時でもお互いを感じられる物をデザインしてはと案を出しただけですわ」
「婚約式……。そんなにも前から準備していたなんて」
知らなかったわ。
みんなも知っているの?
「ふふ、私だけじゃなくて皆知っているわ。この模様の細工や上質な石を手配するのにだいぶ時間が掛かってしまったみたいだけど」
「そうだったの。ますます嬉しいわ」
「喜んでもらえてアルベルト様も満足でしょうね」
嫌味を言ってきた令嬢達は諦めたようだ。
「マリア様は随分、殿下と親密ですね」
「えぇ兄共々アルベルト様とは親しくさせて頂いてます。公的には臣下として、私的では友人として」
「婚約候補者でしたのに友人ですのね」
「元より降りるつもりでありましたから。その頃からアルベルト様がセティーのことを好いていると知り、思い合う2人を陰ながら見守っていました」
「いくら友人だと言ってもこうも親しくされてはセレスティーヌ様も不安ではありませんか?マリア様には婚約者も居りませんし」
今度は標的をマリアに変えたみたい。
私とマリアを仲違いさせたいのかしら。
少し空気が重くなったわ。
「いいえ全く。幼い頃からこの恋を応援してくれている親友です。それに私のアル様は他の女性と2人きりになったりはしませんから」
こういう時は紅茶を飲みながらサラッと優雅に流すのが1番だわ。
全く失礼な。
マリアはこういう場で誤解されたくないからアル様の事を愛称で呼ばないのに。
「私に婚約者が居ないことでそのような考えを持たれるなんて…。でもご安心下さい、ようやくお父様が私の結婚について考えるようになられましたから」
「「「まぁ!」」」
「相手はどなたですの!?」
「お噂の大使の方かしら」
「ふふ、まだハッキリとは決まったわけではありませんから発表は控えさせて頂きます」
マリアが自分に話題を引きつけてくれたお陰でさっきの話題は消えたわ。
そのままお茶会はお開きになり、私とマリアはエメリアが待つ温室へ向かった。
「はぁー。今日も大変だったわねー」
「マリアありがとう。たくさん助けて貰っちゃったわ」
「そんなの当然よ!まぁ最初から敵陣だと思っていたけど、予想より軽い嫌味だけで終わって良かったわ」
「お2人ともお疲れ様です!」
「エメリアも一緒に行けたら良かったんだけど」
「私は男爵位なので。私的には面倒な社交をしなくて済むのはラッキーです。貴族社会の良いところ取りですね!」
「ふふふ、エメリアったら」
「それより!マリア、婚約ってどういうこと!?」
「マリアさんお見合い決まったんですか?」
「お見合い!?私聞いてない!?」
そんな大事な事後から聞くなんてショック!
「べっ別に内緒にしてたわけじゃないわ!その、セティーとアル様が無事に恋人になった事だし、そろそろ自分の結婚に目を向けようと思っただけよ!」
「だけよって、大事なことじゃない!?」
「それで、結局お見合いはどうなったんですか?あの大使の方に決めたんですか?」
「うぅ、それが……」
マリアからお見合いを受けるとお父様に言ったけど、無理しなくていいと言われたこと。
既に断った複数の男性から手紙をもらい、再度お断りしたこと。
大使の方だけが、諦めきれずに家に正式に会いに来たこと。
そこで彼からアプローチを受けた事を聞いた。
マリアったらモテモテね!
マリアなら納得だけど。
真紅の波打つ綺麗な髪にエメラルドのように輝く瞳。垂れ目は幼い頃は優しさと可愛らしさを感じていたけど、最近は色気も漂うわ。
それにスタイルも抜群、マナーや教養は完璧!
性格だって優しくて頑張り屋さん!
良い女の条件揃ってるもの、モテないはずがないわ。
「それでね、断る前にデートをしてほしいって言われたの。1回デートして、それでも無理なら諦めるからって」
マリアの眉が下がり、明らかに困った顔をする。
「「デート!?」」
私とマリアは思わず叫んでしまったわ。
その叫び声で温室の扉が開く音が聞こえなかった。
「デートなんてした事ないし、それにデートした上で判断してほしいなんてどうしらいいか」
「誰と誰がデートだって?」
「ヴィ!?どうしてここに!?」
「ヴィだけではないぞ」
「すまない、聞くつもりはなかったんだが、聞こえてしまった」
アル様達が温室に入ってきていた事に気づかなかった。
マリアはヴィクトル達に知られたからか明らかにオロオロし始める。
「こないだ家に来た男だろ!変だと思ったんだ、諦められずに家に来たのに、あっさり帰るから」
「ヴィ、落ち着いて」
「マリア!俺はあの男は反対だよ!マリアのこと全然わかってないじゃん!」
「私も断るつもりよ」
「断る気でいるならデートなんか行かなくていいじゃん!」
「でも、もうお約束してしまったし…」
「はぁー。マリアは押しに弱いんだから!」
「だからセティーとエメリアに相談してたのよ。デートだってしたことないし」
「デートなら俺としただろ」
マリアとヴィクトルが言い合う中シャル様が爆弾発言をする。
「へ?オペラを観に行ったこと?だってあれは……」
「文化を知るなんて口実に決まっているだろ。オペラの後は街を散歩してカフェで茶を飲む。俺はデートだと思っていたが、マリアはそう思っていないとは悲しいな」
「なっなっなんで!?」
マリアは顔を真っ赤にする。
「シャル様!俺シャル様の冗談を聞けるほど今余裕ないよ!」
「冗談でこんな事言うわけないだろ。俺はマリアの事を好いている」
「!?」
きゃあー!!!
シャル様がマリアの事を!
いつから!?
関係ないこっちまでドキドキするわ!!
マリアは!?
マリアはどう思っているの!?
マリアの方を見るとマリアは顔を茹でタコのようにして一杯一杯といった感じになっていた。
「あっあっあの、えっと」
「今すぐにどうこうしたいわけではない、ただこれからは俺の事を意識してくれたら嬉しい」
シャル様がそっとマリアの手を握る。
シャル様のマリアを見つめる視線がとても真剣でマリアはプルプルと震えだした。
こんなにオロオロしたマリアを見るのは久しぶりだわ。
「論外だ」
ヴィクトルが下を向いてボソッと声を出す。
「ヴィクトル、どうした?」
アル様が声を掛けると、下を向いていたヴィクトルは顔を上げ、シャル様を指差し大声を出す。
「シャル様は論外だよー!!!」
ヴィクトルはマリアの手を掴み温室から走り去ってしまった。
これ、どうなるの?
シャル→マリアということになりました。
2章の後半からこの組み合わせを考えていました。
3章で作者的にフラグを立てていたつもりです。
そろそろ忘れていたエリザベートも出して行きたいです。




