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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
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恋愛は難しい

誤字脱字報告ありがとうございます。

「皆好きに座ってくれ。今従僕が茶の準備をする」


シャルエラントは自身が借りている王宮の自室へ皆を招き入れる。


ヴェスタトール国の城内、貴賓用の宮の中では1.2を争うほど広い部屋である。

普段はアルベルトと同じように学園の寮で過ごしているが、王族として活動する時などはこの部屋を使用している。

長期の使用ということもあって内装はシャルエラントの母国であるナハラセスに合わせている。


「わぁ!素敵なお部屋ね!」

「色合いが素敵です!」

マリアとエメリアは部屋の内装に驚きつつも歓声を上げる。


「この国では珍しい調度品ばかりだが、気に入ってもらえたようで何よりだ」

「あの、シャル様。少しお部屋を観察しても良いかしら?」

マリアが遠慮がちにシャルエラントに問う。


「もちろんだ。気になる物があれば俺が説明しよう」

「ありがとう。ふふ、まるで本の中の世界みたい」

マリアは目を輝かせて部屋を見渡す。


「ハハ、可愛いことを。これなんか珍しいじゃないか?」

「これ本で見たことあるわ!やっぱり実物はずっとずっと綺麗!」

「そうだろ。こっちは俺の国の名産だ」


「シャルエラント様、お茶の準備が出来ました」

「御苦労、下がってよい」

「えっしかし」

「茶の作法くらい心得ている」


シャルエラントは従僕を下がらせ、自ら茶器に茶葉を入れ皆に茶を配り始める。


「シャル様にお茶を入れてもらえるなんて、光栄ですね」

「シャル様がお茶を入れるなんて驚きだよ」

「今時の男は茶の一つくらい入れられないとな」


ジェラルドとヴィクトルはシャルエラントの入れたお茶をマジマジと見る。

貴族であり、令息である2人は自分でお茶を入れるというこはした事がない。

騎士志望で山で訓練を行うヴィクトルでさえ身の回りの事は従僕がする。

そのため王太子であるシャルエラントがお茶を入れるということが信じられない。


「良い香りですね!」

「えぇ、とっても美味しそうだわ」

「飲んで見てくれ。こちらの紅茶とは少し味わいが違うからな。口に合うと良いのだが」

「「「「頂きます」」」」

4人は一斉にお茶を飲み始める。

「「「「!!!!」」」」

「美味しいです!」

「ほんと美味いね!」

「香りが口に広がりますね。まさかシャル様がまともなお茶を入れらるなんて」


エメリアとヴィクトルは笑顔を見せ、ジェラルドは驚きの表情を見せる。


「まさかとはなんだ。言っただろう、茶の作法は心得ていると」

「すいません、つい」

「ハハ。まぁ、無理もないか。マリアはどうだ?」

「こちらの紅茶より味がしっかりしてるわ。私このお茶好きだわ」

「そうか!それは良かった。次は違う茶葉にしよう!」


「それにしてもシャル様がお茶をいれられるなんて凄いわ」

「幼い頃に習ったからな。茶以外にも舞踊や歌も出来るぞ」

「王子であるシャル様がどうして…」

「5歳までは後宮で女として育てられたからな。茶はその時に母から教えられた」

「「「!?」」」

「え!?それ言っていいの!?国家秘密じゃないの!?」

ヴィクトルが驚き、思わず声を上げる。


「別に秘密ではない。皆知っていることだ。現にジルは知っていただろ?」

「えぇ。シャル様の母君が権力争いからシャル様を守るため性別を偽って育てたと」

「そうだ。俺の母はハレムの中で最も身分が低くてな。自分と俺の身を守るため、父である王に俺が5歳まで生き残れるか賭けをしたんだ。それまで生まれるのは女児ばかり、男児が生まれても権力の渦の中すぐに死んでしまう。後継に困った王はその賭けに応じたのだ。そして賭けに勝った母は自由を、俺は王太子の身分を手に入れた」


「そうだったの。知らなかったわ」

「あまり聞こえの良い話でもないからな。まぁおかげで、こうして皆を茶を入れることが出来た。それに女児として後宮を過ごす事で得た物も大きい」


シャルエラントは何でもないように言うが、権力と欲望が渦巻く中で過ごすのは並大抵の事ではない。

それを察して4人は少し気まずい表情をする。


「ふぅ。それにしてもようやくくっ付いたな。このままでは卒業まで無理かと思ったぞ」

シャルエラントが話題を変える。


「2人が恋人になって本当に良かったです!」

「幼い頃から知ってる私はなんだか感慨深いわね」

「俺もだよ。2人には幸せになってほしいよ。友人であり家臣としてね」

「はぁ。私はいよいよ覚悟を決める時ですよ」

「「「「シスコン」」」」


「これからはアルのノロケを聞かせられるのか」

「私達はセティーと恋バナをしたいわ」

「ノロケもドンとこいです!」

「ゔーん。男のノロケ話しはなんかなー」

「男のノロケ話など聞くに耐えんな。気持ち悪いだけだ」

「はぁ、セティーが幸せなら私の幸せだと思って受け止めるしか……」

「「「「シスコン」」」」


「ねぇ真面目な話、ジルさんは妹離れしないと不味くない?」

「そうだな。セティーの恋も実ったのだ、そろそろ自分の恋愛に目を向けてはどうだ?」

「はぁ…そう…ですね。そろそろ釣書に目を通すことにします」

「きっと良い縁談がありますよ!」

「はは、ありがとう」

そう言うジェラルドの顔はまだ暗い。


「縁談か……」

「マリア?」

マリアが小さく発した言葉にヴィクトルが気づいた。


「私もいい加減嫁ぐ準備をしないといけないなって。長年見守っていたセティーとアル様の恋愛が実った事だし、良い切っ掛けよね」

ジェラルドと同じようマリアの表情は曇っている。


「マリア、無理に結婚なんてしなくて良いだよ。父様だって無理しなくて良いって言ってたじゃん」

「無理しなくて良いという事は、出来ればしてほしいという事よ。大丈夫よ!出来るだけヴィに有利になる家に嫁ぐから!」

「マリア、そんなの気にしなくて良いから。何なら、領地経営はマリアがすれば良いよ!その方が絶対上手くいくし!」

「ダメよ!私が家に残ってそんな事したらヴィのお嫁さんに悪いじゃない。それに、これ以上先送りにすると縁談が来なくなるわ。選んでもらえている内に決めないと」

「だけど…。俺はマリアに望まない結婚はしてほしくない。俺の大事な妹で大事な半身なんだから!」

「ヴィ、ありがとう」

マリアとヴィクトルは手を握り合い、額をくっ付け、ヴィクトルを宥める。


「なんだかお互い大変だね」

「ジル様程じゃないですよ。私はモテませんし」

「そうでもないと思うよ」

ジェラルドは上着の裏側のポケットから封筒を取り出し、マリアに渡す。


「ジル様これは?」

「見ればわかるよ」


マリアが封筒の中を覗くと複数の手紙が入っていた。


「!!」

「実はどうしても手紙を渡してほしいと頼まれてね。差出人は…」

「筆跡を見ればわかります。ごめんなさい。ジル様に面倒を掛けたみたいですね」

「いや、良いんだ。ただ私に集まってくる釣書と違ってマリアのは本気みたいだね」


「マリア見せて!!」

「え?いくらヴィでも…」

「変な奴だったらどうするのさ!だいたい父様や家を通さずにマリアに近寄ろうなんて!」

「もう心配しすぎよ。それに、この人達は以前に断った方々よ」

「もしかて前に話してた人達ですか?」

「えぇ、そうよ」

「!?エメリアは知ってるの!?」

「はい、前に恋バナしたので」


「筆跡を見ればわかると言う事は、以前にも手紙を貰っていたんだろ?」

「え?ええそうね」

シャルエラントは厳しい表情でマリアに問う。

「そして1度断られた上での手紙だ。マリアはその手紙を読むのか?」

「気は進まないけど、もし以前と同じ内容ならきちんと断らないと。手紙でダメなら直接会って断るわ」

「ダメだ!直接会うなど危険過ぎる!気が進まないならその手紙はここで燃やして無かったことにすれば良い」

「そうだね!マリア、燃やしちゃおう!」

「えぇ!?そんな、読まないとお返事を書けないのよ?それに手紙を受け取って返事を書かないなんて失礼だわ」

「受け取らなかった事にすれば良いだろ」

「もうシャル様、それじゃあ橋渡しをさせられたジル様が困るじゃない」


ヴィクトルは当然ピリつき、シャルエラントも機嫌が悪い。

エメリアも空気の悪さにオロオロしている。

手紙の橋渡しをしたジェラルドも気まずそうだ。


そんな空気を察してマリアが口を開く。

「はぁ、ちょっと気分転換に外の空気を吸ってくるわ」

「はぁ、ではマリアが帰ってくる頃に新しい茶を入れるとしよう」

「ありがとう。すぐに戻るわ」




「はぁ、なんであんな空気になっちゃったのかしら。他の令嬢達みたいに恋文を貰った事を素直に喜べたら良いだけど」


庭園に出たマリアはベンチで手紙を広げる。

やはり内容は恋文だった。

以前オペラを誘ってきた大使からの手紙もあった。


「結婚嫌ってわけじゃないのよ。ただ自分を押し殺すような結婚は嫌。やっぱり1人になるとダメね。もう泣き虫じゃないのに、泣きそうだわ」



「マリア嬢!ここで会えるなんて、私は運が良い」

「ご無沙汰しております」


声を掛けて来たのは以前オペラを誘ってきた大使だった。

彼も来賓であるためこの宮を使っていたのだ。


(はぁ。最悪なタイミングだわ)


「所でジェラルド殿から手紙は受け取って頂けましたか?」

「っ!!えっええ」

マリアの言葉聞いた彼はパァっと喜び、マリアの手を握る。


「受け取って頂けたのですね!」

「ですが、私の答えは変わりません。申し訳ありませんが…」

「待って下さい!どうかチャンスを頂けませんか?」

「あの、どうして私をそこまで想って下さるのですか?」

「その情熱が燃えるような赤い髪、エメラルドの様に輝く瞳。その優しげな眼差しはとても愛しく感じます。それに何より惹かれるのは貴方の内面です。言葉に明るく、度々私共を助けてくれました。本がお好きという趣味も奥ゆかしい貴方にピッタリだ」


彼の告白にマリアは一瞬瞳が曇る。


「私は確かに本が好きですが、静かなわけではありません」

「それは勿論わかっています。他国の文化に触れるのがお好きなようですし。私と結婚すれば各国へ旅行が出来ます。共に他国を巡りませんか?」

「っ。わ私は旅行がしたいわけ…「マリア!」

「シャル様!?」

「次の茶が入った。皆も待っているぞ」


シャルエラントは握られているマリアの手を取り、立ち去ろうとする。


「申し訳ありませんが、今は私がマリア嬢と話をしているんです」

「元々マリアと過ごしていたのは俺なんだが。マリア、彼は?」

「えっと隣国の大使の方よ」

「フン、女を口説く暇があるなら仕事をしたらどうだ」

「なっ!?」

「そもそも1度断られているんだ、諦めの悪い男は嫌われるぞ」

「恋愛について貴方様にとやかく言われたくはありません。1人の女性を愛するというこの気持ち、ハレム文化の貴方様にはわからないでしょう」

「今まではな。これからは違う。さぁ皆が待っている。行くぞマリア」


マリアはシャルエラントに腕を掴まれながらその場を後にする。立ち去る瞬間、彼に向けて一礼をする。

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