魔物化
ここは魔物が蔓延る荒廃した世界。
俺たち人類はやつらの餌にならないように逃げまわるので精いっぱい。各地に残った廃墟を転々として、こそこそ生き延びている。
俺は地べたに座り込んで、ずた袋の中身をひっくり返す。
軽い音のする乾パンの缶詰、水を汲むのに使っているビール瓶……それ以外は何かに使えるかもしれないと拾い集めたガラクタばかり。
食料が底をつく前に行動を起こさなければ。
俺はビール瓶をコンクリートの壁に打ちつけて割った。
底の部分が砕け散り、鋭利なガラスの武器へと様変わりする。
これで多少は攻撃力のある武器になるだろう。
廃墟を出て森の中へと入る。
ずた袋は廃墟に置いてきた。どうせろくなものは入ってないし、少しでも身軽でいた方がいいと思ったのだ。
音をたてぬように注意を払い、同時に魔物の気配を感じ取れるよう神経を極限まで研ぎ澄ませる。
しばらくすると、せせらぎの近くで一匹の魔物が水を飲んでいるのを見つけた。
灰色の毛並みに強靭なキバを持つ『シルバーファング』と呼ばれる魔物だ。
鼻の利くやつだが、幸いにもこちらには気づいていないようだ。警戒している様子もない。
これはチャンスだ、と思った。
しかしほんの少し目測が逸れれば、たちまち絶体絶命のピンチに変わりうる。
ビール瓶を握る手にじわりと汗がにじむ。
『シルバーファング』は、こちらの緊張など素知らぬ顔で水を飲んでいた。
……憶するな。
ここで動かなくても飢えて死ぬ。
ゆっくり逝くくらいなら、一思いに逝った方が楽になれるというものだ。
だが、やるからには勝つつもりでいく。
不思議だ。
普段の俺ならば『シルバーファング』に出くわそうものなら、いかに逃げるかを考えていたはずだ。
しかしどうしようもなく空腹が、戦闘意欲を駆り立てる。
やつを殺して喰らえと鳴っている。
人間、追い詰められると正常な判断ができなくなるというが、今の俺もそうなのかもしれない。
だが、正気を保った状態でこんな世界を生き抜くことなどできるのだろうか?
よだれが溢れて止まらない。
さあ、食事の時間だ……!