プロローグ
響く音。
本当に嫌な音だ。
何度聞いても慣れない音
病院から出た今でもあの音が耳にこびりつく。
重いギターを背負っていつもの道を歩いている、買ったばかりの新しいヘッドホンを着け俺は家に帰る。
「もう一年かぁ。はやいなぁ。」
ボーカルのシンヤが事故にあって丁度一年近くが経っていた。シンヤはバンドのライブの行き道に交通事故に遭い未だに意識を戻していない。
でも俺たちメンバーはシンヤが目を覚まして今までのように活動できる日が来ると信じて毎日お見舞いに来ている。
「いい曲できたのにボーカルが居ないと話にならねーよな。早く目覚まさねーかな。」
ベースのタクミは独り言のようにボソッと言ったが俺には聞こえていた。
でも、ドラムのカズはそんな中でも元気に俺たちを励ます。
「しけた顔すんなよ。あいつが目覚ました時こんなんじゃ笑われるぜ?」
カズの明るさにどれほど助けられたものだろうか。
俺たちのバンド「STORM」は高校一年の時に結成した4人組バンド。クラスで楽器ができるやつを探して集めたバンド。全員が楽器の経験者で本当に演奏していて気持ちが良かった。特にシンヤの歌声が凄かった。
高い訳でもないが低くなく、バランスが取れた歌声はSTORMの売りだった。
シンヤが事故に遭った日はオーディションを兼ねた大きなライブの日で、全員で集まって会場に向かおうとしたのだがシンヤが遅刻したので先に3人で会場に向かっていた。
シンヤは時間には厳しい男だったので遅刻なんてのはしたことがなかった。
ライブ会場に着いた時、シンヤに電話をかけたが繋がらなかった。きっと焦って忘れたのだろう。俺たちはてっきりそう思っていた。
タクミは俺たちに「何かあったんじゃないか」ずっと言っていたが、まさか事故に遭っていたなんて誰もが思っていなかった。
カズはシンヤを迎えに行くと言ってライブハウスを出て行ったのだが、カズはシンヤがどこにいたのかわかっているのだろうか。
そしてリハーサルの時間が近付いた。シンヤは現れずライブ主催者の方にリハーサルを送らせて欲しいとお願いして待っていた。
タクミは苛立っていて表情も強張っているように見えた。このライブでレコード会社から声がかかれば夢が叶うかもしれない。そんな一大イベントだったから、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
主催者がしびれを切らし、俺たちのリハーサルを早くするようにと言った直後ケータイが鳴り響いた。
カズからだった。
俺たちは泣きながらで殆ど何を言っているかわからないカズの声を聞いて異変に気付いた。
泣きじゃくっていて何を言っているか本当にわからない
「シンヤがぁ...ああああ....ぐるばに...ああああ」
その鳴き声の奥には救急車のサイレンが聞こえた。
そして俺とタクミは察してしまった。
その後の記憶が曖昧になっている。確か2人でライブハウスを抜け出して....
ふと目を開けた。
霞む目を見開き横を見るとカズが俯いていた。
「起きたか。手術はもう終わったよ。でも意識が戻る保証はないらしい」タクミが耳元で囁いた。
シンヤが事故に遭ったんだ。信号を無視したシンヤとトラックがぶつかったらしい。
何も考えてない。昨日まで一緒に笑いあってた友達が急に遠くになるように感じた。涙がこみ上げてきた。なんで遅れたシンヤを待たず先に向かったにだろう。自分を責めて責めて責めた。
しかし胸が痛くなるだけ。
多分すぐ目を覚ます。また音楽ができる。そう言い聞かせて来たがもう一年も経ってしまっていた。
まだシンヤは目を覚ましていない
〜 つづく〜