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魔王、一撃離脱を試みる

都市エベルの造船所は今、青銅のエルフ達に占拠されていた。そこかしこで笹穂耳をピコピコさせながら蒼い肌に藍色の髪のエルフ達が駆け回っている。


「急ぐのじゃッ、後10日で四番艦までの最低限の艤装を終わらせるでのぅ!!」


陣頭指揮を取っているのはいつもの如く、リーゼロッテだ。


その彼女の側に次元歪曲が発生してゲートが開くと、人狼兵達が台車に乗せた魔導式蒸気エンジンなどの部品を次々と運んでくる。


「ん、持ってきたよ、リーゼロッテ」


最後尾から銀色しっぽをふりふりとしながら、ヴィレダがやってきた。


「うむ、良い子じゃのぅ、飴玉をあげるのじゃ!」

「うぅ~、子供扱は嫌、飴はもらうけどッ!!」


なんだかんだ言って、しっかりと手を伸ばす天狼娘であった。


「で、攻めてくるって?」


「うむ、ガイエン卿が王都シュヴェルグに潜ませていた間者の話では、王国海軍に動きがあるそうなのじゃ…… 目的地はここ以外にないのぅ」


「ガイエン………………… あ、マリの父親」


暫し考えたあとに、ぽんと手を叩く。


「ここの占領直後に王都と各領地の中核都市へ密偵を送っていたでのぅ、あやつけっこう使えるかもしれんのじゃ」


「信用はできる?」


「それは分からないのじゃ……じゃがのぅ、元々船舶の艤装は予定していたゆえ、やることは変わらないのじゃッ」


彼女達が会話している間も、艤装作業は進められていく。


「人狼兵さん、向こうの試験区画に一基運んで下さい」

「あぁ、了解した」


彼が運んでいるのは往復機構を付けたレシプロ式魔導蒸気機関であり、小型船舶に搭載するためのものだ。今回は取り急ぎ、4隻の12m級小型船舶に対して最低限の艤装を施す事になっている。


「このいっぱいある羽根はどこに持って行けばいいんだ?」

「スクリューの組み立てはあっちだ!持って行って3枚一組にまとめてくれ」


青銅のエルフの青年が示す先を人狼の青年がみやると、既に原始的な直径60cm程の可変ピッチスクリューが一基組み上げられていた。まだ外装を取り付けられておらず、骨組みがむき出しのままだ。


遅れてゲートをくぐって来た吸血姫スカーレットがリーゼロッテの隣に立って尋ねる。


「あの羽根の材質、金属ですけど…… 錆びませんの?」


「ふっふ~、先日“高純度あるみな”の精製に成功したじゃろ?という事は蛍石から疑似氷晶石を用意してやれば、電気分解で“あるみにうむ”の精製が可能となるのじゃ!その”あるみにうむ”を青銅と混ぜてやれば、防腐効果があるでのぅ」


「”あるみにうむ”? 地球の自販機で購入できる飲み物の器ですか、ペコペコのイメージですが…… そんな効果があるのですね」


その会話を遮って元気の良い声が響く。


「スクリューの羽根の稼働テストいくよ~、えいッ!」


そのスクリューの羽根の根元はクランク状の機構を備えており、其処から伸びるロッドを青銅のエルフの女性が押し込むと……


ぐいんッ


とスクリューを構成する羽根の傾きが変わる。

前進は翼角+30度、後退するなら翼角‐30度、停止ならば翼角0度だ。


ロッドの押し引きに応じてその翼が角度を変える。


「ん、オッケー♪」


「おーい、レシプロの魔導式蒸気エンジンが届いたから取り付けて回してみるか?」


「と、そうね。可変機構ごと回転する予定だから、耐久性を見ないとッ!!」


今度は可変ピッチスクリューから伸びる軸の先に魔導式蒸気エンジンが取り付けられて、魔力伝導板に手を当てた青肌のエルフが魔力を送ると、クルクルと羽根が回り出す。


「……あれは、どのくらいの魔力を消費しますの?」


「一隻につき2基つけるからのぅ、試算じゃと青銅のエルフが3人いれば近海で活動するのに問題がない程度じゃッ!長距離を考えると寄港して休養を挟むしかないのじゃが……」


「まぁ、今回は私達もいますから問題はありませんね」


……………

………


王都シュヴェルグから出航した王国海軍の船団は都市エベルを目指して海路をすすんでいた。自国の湾岸沿いに進むだけの難しくもない海域を順調にすすむが、旗艦の船室で船団を率いるルービス将軍は顔を曇らせていた。


「まさか、自国の都市を攻撃する羽目になるとは、何が起こるか分からんのう……」


彼は大型船1隻、中型船3隻、小型船10隻の総勢1060名を以って都市エベルを制圧する任を受けていた。


密偵からの報告によれば都市に駐留する魔族の数は少なく、領主の小城と兵舎を抑えている魔人兵が百二十名ほどとなっている。


「できる限り、迅速かつ市民への被害を抑えて都市を解放しましょう」


まさにその通りという表情でルービスは副官の言葉に頷く。


現状、領主のウェルガ・ベイグラッドの身柄が抑えられ、代わりに前領主の娘であるイルゼ・リースティアが領主代行を勝手に名乗り、魔族側の占領を領民の安全と引き換えに受け入れている。


そして殊の外、魔族が理性的であったために星の使徒の信者が多いノースグランツ領全域で現状への慣れが領民に生まれつつあるとの報告も受けていた。


「このままノースグランツ領に根付かれては面倒なことになる」


そもそも、土地を失う事そのものが国力の低下であり王国としては許容しがたい。また領主が課す租税とは別に王国が国民に薄く広く課す税の減収にも直結する。


などと考えている最中に突如、船体が大きく揺れて大きな音が響く。


ドオオォオオオォンッ


「な、何事だッ!!」


様子を確認しに甲板へ出ようとするルービスは既に船体が僅かに傾きはじめている事に気付くが、そのまま階段を駆け上がって怒鳴る。


「状況を報告しろッ!!」


「は、はいッ、船団の横腹を突く形で凄い速度で小型艦船が迫り、本艦に巨大な火球をッ!左舷船底が破壊された模様ですッ!!」


「馬鹿なッ!? なぜこうも易々と接近されるんだ!!大体、風向き的に船団の左からでは速度が出ないだろうッ!!」


怒鳴った事で多少は冷静になった彼は他にも確認すべき事があると気付く。


「敵はッ!」


質問をうけた船員は今や沈みつつある船の進行方向を示す。其処にはどんどんと遠ざかっていく小型艦船が見えた。


「帆が無いだとッ、何故あの速度が出せるんだッ!?」


わけが分からない中でもすべき事はある。


「他の艦船は無事かッ!」

「はい、火属性魔法による攻撃を受けたのは旗艦のみですッ」


「総員退艦ッ!各艦艇に分乗しろ!!」


……………

………


「おじ様、あれで良かったのですか?」


船の上を、潮風に吹かれながらふわふわとスカーレットが黒い靄の翼を広げて飛びながら声を掛けてくる。どうやら、船酔い対策らしい。


「構わないさ、旗艦が沈めば士気を維持する事はできないからな。このまま攻めてくる事もないだろう。ノースグランツ領に俺達が浸透しつつある今、下手にやりすぎて領民に恐怖感を持たれるのは得策ではない」


「それもそうですわね」


会話が途切れた瞬間に隣を並走する小型の魔導式蒸気船から呻き声が微かに聞こえる。


「うっう、気持ち悪いぃ~」

「ぅ……ッ…… (ぐったり)」


ヴィレダとベルベアの人狼娘達は初の船上で酔いつぶれていた。

因みに、王国の船団に仕掛ける前からこんな調子である。


まぁ、事前に慣らし運転をしていた青銅のエルフ達がしっかり仕事をしてくれているので問題は無いが…… 別の艦上ではグレイドも蒼い顔をしながら平静を装っている。


ダンジョン暮らしが長いため、皆、船酔いの耐性が無い様だ。


「…… ふむ、何かしらの訓練が必要か」


その呟きは風に乗って流れて行った。


読んでくださる皆様、本当に感謝です!

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