魔王、魔導式蒸気機関を普及させる
「で、このエルミアが送ってきた改定案のSクランクとカーブは何なんだ? 予定では地下ダンジョンから都市エベルまでの道路は直線だったはずだが…… 何か問題でもあったのか?」
都市エベルの城内に間借りしている執務室で、俺はエルミアから送られてきた報告書に目を通す。
「…… ふむ、あの娘のことじゃ、大方予想できるのぅ。平坦な道じゃとつまらんのじゃろうなぁ…… 技師には必要な遊び心なのじゃッ!!」
などと、蒼い肌を持った青銅のエルフ達を指揮するリーゼロッテは理解を示すが、こんなものは却下だ。何故、障害物が無い草原に道路を敷設するのに態々、迂回路を作らねばならんのだ……
「却下の方向で調整してくれ」
「なんじゃ、つまらんのぅ……」
いや、その道を使って各種資材を運ぶわけで……最短経路が必須条件なんだが。
「ところで、魔導式蒸気機関の改良はどうなってるんだ、リゼ?」
「ふっふ~、順調なのじゃ!妾を褒めても良いんじゃよ?」
小柄な彼女がずいっと頭を差し出してくるので、取りあえずその藍色のサラサラとした髪を撫ぜておく。
「~~♪」
暫く続けると満足したのか、俺に用意していたA4資料を渡していつもの解説モードに入る。
「蒸気を発生させる発熱の魔石の改良は既に終わっておるのじゃ! 導管も純粋なオリハルコンではなく、銅や錫を混ぜ合わせたもので代替されているのじゃ!!これで一部の蒸気機関だけでなく、広く魔導式を普及させられるのぅ」
…… 俺の造成の概念装も使ってダンジョンと都市エベルの周辺一帯を調査したが、結局、原油の気配は微塵もなかった。少々使う分には地球から購入して持って来ればいいが…… 本格的にガソリンなどを燃料とした内燃機関を此方で主動力として採用するには心許ない。
結果、極一部で稼働していた魔導式蒸気機関を改良して量産できないかを検討した。
「希少性の高いオリハルコンの使用量を減じたことで魔力伝導率が下がるのじゃが、それは発熱の魔石の熱変換率の向上改良で補ったのじゃ!!それどころか、出力はやや上がったぐらいじゃのぅ」
そして、最後にリーゼロッテがぼそっと小さな声で付け加える。
「魔力操作ができる者しか扱えないし、その質と量に出力が左右されるのは仕方ないのじゃ……」
勿論、その点は魔族であれば問題は無い。寧ろ、石炭や木炭を燃やすよりも手間が少なく汎用性も高くなり、燃焼室を小型化できる。そして、見方を変えれば、魔力の質が高い者であればより出力の大きい魔導式蒸気機関を作動させられるという事だ。
「ありがとう、リゼ。これを都市エベルの船舶に搭載しよう…… それに資材運搬用に開発している蒸気トラックの動力にも使いたい」
「うむ、エルミアに一基、提供するのじゃ!!」
こうして惑星“ルーナ”では、風変わりな魔導式蒸気機関という独自の動力を中心とした蒸気機械文明が広がりを見せるのだった。
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