魔王、都市エベルの拡張を企む
「エルミアッ!伐採予定の木は取りあえず、全てうちの連中で斬り倒したぞ!!」
「あ、ありがとう御座います、ダロス様」
ミノタウロス族の長にして黒毛の猛牛ダロスの報告に若い青銅のエルフの娘が恐縮する。
まぁ、若いと言っても長命種族なので当てにならないが…… 兎も角、族長級の立場である彼に自分如きが指示を出すのには気が引けた。
「切った木は一時的に脇へ退けてください。道路が開通した際には都市エベルに運んで建築材にするって、魔王様がいってたのです」
「わかった、力仕事なら望むところだ!」
にかっと爽やかに笑って、筋骨隆々の身体をのっしりと揺らしながら黒毛の猛牛は麾下のミノタウロス兵を率いて切り倒した木の撤去作業に向かう。
道路工事の第一段階として、先ずは地下ダンジョンの入口から周囲を覆う森林地帯の外縁部までを開通させる予定で作業は進められていた。
その為に、ミノタウロス兵とコボルト兵の指揮権を一時的にエルミアが借り受けている。その彼女の下に、今度は黄金色の毛並みをしたコボルト族の長オルトスが訪れた。
コボルト族は力が弱いため、弱肉強食の思想が強い魔族においては軽んじられているが、エルミアを含む青銅のエルフ達はそうは思わない。その部族の構成規模は今の魔族で最大であり、その数は質を凌駕するかもしれないのだ。
「お疲れ様ですぅ、オルトス様」
「…… お主に頼まれている敷設予定地の石や岩の撤去だがな、あれはもう少しかかりそうだ。目立つモノは退けたのだが、細かいのがまだまだ残っている」
「いえ、そこまで細かい物は取り除かなくても構いません。第一工房区画から供給される天然ゴムやタイヤの原料に使う “かーぼんぶらっく” の質も上がっていますので、尖った石やある程度の大きさの物さえ取り除ければ」
黄金色のコボルトは頭に?を浮かべつつも自分なりに解釈する。
「よくわからんが、尖ったものと目立つものを退ければいいんだな」
「それでお願いするのですぅ」
頷いたオルトスも再び施設予定地から不要物を撤去する作業へと戻っていく…… その背中を眺めながらエルミアが溜め息を吐いた。
「うっぅ~、話が大きくなりすぎなのですぅ……」
事の発端は私が蒸気式バイクに続いて開発した至高の逸品、蒸気自動車 “ガーニー” でした。
早速、魔王様へ自慢げに見せびらかして、草原地帯へのゲートを開いてもらって試乗をしたのですが…… 私の自動車開発のよき理解者である魔王様がおもむろに道路を開通させようと言い出したのですぅ。
“道路を整備するという事はダンジョンが攻められやすくなるリスクもあるが、それ以上にメリットがある。これから都市エベル外縁部に俺達の居住区画と工房区画をつくるからな、其れには資材を運ぶ道路が必要だ”
”魔族と人の混在する都市を既成事実として作る訳ですわね、おじ様”
で、いつも通り魔王様びいきのスカーレット様が賛同して二人の世界を作り出したので、ガン無視していたら此方へ弾が飛んできたのですぅ……
“では、計画立案、現場指示はエルミアに頼むとしよう”
“え゛?ち、ちょっと待ってくださいですぅ!!”
必死に止めましたが、例によって無駄でした……こうして私は、暫く道路工事の監督をする事になるのです。完成した暁には、思う存分走らせてもらいますけどね。
あぁ、整地された路面ではどれだけの速度がでるのでしょうか?
そして、私の蒸気自動車 ”ガーニー” ちゃんの性能の限界を試すのですぅ!!
「…… ふふっ、一緒にピリオドの向こう側へ征きますよぅ」
エルミアの興味は尽きないのであった。
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