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魔王、星の使徒を支援する

都市エベルの小城、領主の執務室の鏡に続々と帰還するノースグランツ領兵の姿が遠見の魔法で映し出されている。


個々の表情が分かるように鏡に映る光景を拡大すると、どの顔にも疑念と不安が宿っていた。


(そりゃあ、気が付いたら自分達だけ地下ダンジョンのある北部森林地帯の入口に取り残されて、混乱のままに帰還したら、領主が変わっているわけだからな……)


「うぅ、緊張します」


執務机に備えられた領主の椅子の上で金髪碧眼の令嬢がカチコチになっている。


「やはり、ここは魔王殿が……」


「何をいっている? 占領下という状況ではあるが、都市エベルを含むノースグランツ領の領主はイルゼ殿だ」


「私達のような魔族が直接的に領地を収めれば、領民の反感を買いますわよ?」


俺とスカーレットに退路を断たれて彼女は頭を抱かえ込む。


「ふむ、領兵を率いているザフマン卿とガイエン卿とは既知の仲なのだろう……」

「何を悩むことがありますの?」


そこで黙ってイルゼの背後に直立していたマリが口を挟む。


「あ、あのッ!ガイエン・オルニクスは私の父です」


増々、緊張する意味が分からんのだが……


「ガイエンは私の剣術の師です。今回の私の判断をどう感じるかと思うと……」

「お嬢様、大丈夫です!父が無礼を働いたら私が怒りますので!!」


マリがひとり息巻く中で、執務室の扉が叩かれる。


「ガイエン・オルニクス及びザフマン・クライスト、ただいま戻りまして御座います」


「どうぞ、入ってください」

「「失礼します」」


扉を開いて入室して来たのは40代後半と30代ほどに見える中隊長2名だ。

どちらも筋肉質な体格であり、まさに戦う者といった印象を受ける。


「先ずはベイグラッド家の小僧にしてやられました事、お詫び申し上げます」


白髪交じりの年配騎士が頭を下げたのに続き、もう一人の騎士も同様に詫びた。


「…… 恐れながらイルゼ様、先に届いたという私からの書状というものを見せて頂けませんでしょうか?」


「マリ」


侍従は主が執務机から取り出した書状を受け取り、ザフマンに渡す。


「本当に申し訳ありません、私が所持していた刻印を無断で使用された様です……」


「いえ、二人とも良いのです。私の方こそ長い間、消息を絶ってしまい申し訳ありませんでした。それに私の独断で都市エベルの占領を魔王殿にお願いしました……」


年配の騎士ガイエンが視線を執務室の客席に腰掛ける俺とスカーレットに投げかける。


「では、この者達が……」

「えぇ、私とマリが暫くお世話になっていた魔王殿とスカーレット殿です」


「…… イルゼ様と娘を生かしてくださり、感謝いたします。ですが、都市エベルの件については話が変わります。貴殿はこの都市やノースグランツ領をどうなさるつもりか?」


二人の騎士は訝しそうな視線を向けてくる。


今、都市エベルの新市街周辺には帰還した600名のノースグランツ領兵が待機しており、彼らにはその直接的な指揮権がある。いざとなれば交戦を選択する事もあるだろう。


「…… 理想的には人魔混在の領地を目指す、この地は幸い平等を常とする星の使徒信仰も根強いからな、全くの不可能という事もあるまい」


「強いて言えば、彼の不死王領域に近い形となりますわ。ですよね、おじ様」


「あぁ」


その領土では、不死王リチャード・ワイズマンが統治をおこない、人々が日々の暮らしを営み、不死の軍団が民を守護している。


大きく魔族が数を減らしている現状、人との融和路線を模索する俺には良い手本となる事も多い。既に鬼人族の姫、ミツキ麾下の鬼人兵が不死王領域の王都アウラへ調査に向かっている。


「人魔混在、不死王領域…… イルゼ様、そこに貴方様の意志は介在しておりますか」


「えぇ、無為に争いに巻き込まれて領民に被害を与えるよりも占領に甘んじたほうが良いと…… 魔王殿やスカーレット殿、それに此処にはおりませんがヴィレダ殿の在り方から判断しました」


「…… 貴女様がそう決められたのならば従いましょう。ザフマン、貴公はどうする?」


「まぁ、ベイグラッド家の連中に顎で使われるのも気が進みませんし、御供しますよ」


「ありがとう、二人とも…… では、帰還した領兵たちの武装を解いて、常備兵は日々の勤めに、動員兵は本来の暮らしに戻るように指示してください」


「「はッ!」」


そのまま二人の騎士は命令を実行するべく執務室を退出しようとするが、不意にガイエンが脚を止める。


「…… マリ、良く戻ったな。無事で何よりだ」

「父さん……」


それだけ言うと彼の御仁は去っていく。


この後、都市エベルの兵数は平時に戻る。さらに都市全域へノースグランツ領の占領をイルゼ・リースティアが受け入れた事、特に暮らし向きは変わらないが魔族との融和政策が段階的に試みられる事などが通達される。


その後、色々と混乱はあったが、この都市では大きな影響力を持つ星の使徒の“全ての生命は等しく星の子らとして尊ぶべき”という教義の下、人々はやがて落ち着きを取り戻すのだった。


こうして、都市エベルでの事例を基にノースグランツ領の各都市や町の長にも同様の通達がイルゼ嬢の名で送られて混乱を引き起こすのだが、それも大きくは変わらない日々の暮らしの中に埋もれていく。


その影で、俺達が密かに星の使徒達を支援し、その教義とともに人魔混在の思想を広め、領内の安定に努めたのは内緒だ……


読んでくださる皆様、本当に感謝です!

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