吸血令嬢、孤独老人を配下にする
私が五郎丸(黒猫)と思う存分、戯れようと代々木公園のベンチを立った時でした。ふと、白髪の無駄にダンディーなおじいさんが目に留まります。
「そう言えば、いつもいらっしゃる方ですわね ……」
この公園は私のお気に入りで偶に訪れるのですけど、今のところ100%の確率でこの白髪のご老人にお会いします。きっと、この前のTVドキュメントでやっていた孤独老人というモノなのでしょうね。
軽く目が合ったので、会釈を返して気まぐれに話しかけてみます。
「こんにちは、いつもこの公園のベンチに腰掛けていらっしゃいますね?」
「こんにちは、お嬢さん。最近、仕事を控えていてね…… いざ、時間ができるとやる事、いや違うな、やりたい事が無いんだよ」
…… 所謂、企業戦士の成れの果てという奴でしょうか。
それにこのご老人、私の紅瞳で見れば生命力が低下しているのが分かります。私達、吸血鬼は吸血の際に被害を受けないように、その人物が病気などを患っている場合は避けるのが常識です。そう、平たく言えば不味そうなご老人なのです。
血液の匂いを感知する私の嗅覚では、癌などの血液に病原が混ざる類の病気ではないようですが、もう先は長くないのでしょうね……
だからこそ、目に留まって少しの興味を得たのですけど。
「でも人間の時間は限られていますから、有効に使うべきですわ。それが人の美しさというものではないでしょうか?」
「ははっ、実はね心臓病を患っていてね、そんなに時間が無いとも医師に言われているんだよ」
まるで、他人ごとの様に軽く流しますが、余命宣告されたばかりの人間などこの様なものなのでしょうかね。
「それでね、後は息子に任せて仕事から引退したんだけど、其れ一筋で生きてきたからね。本当に何もないんだ…… 」
「こんな公園で黄昏るよりも、奥様と余生を過ごせば如何でしょう」
自分の事を棚に上げて建設的な意見を提示してみました。
「妻はね、去年に先立ってしまったよ。生きていれば、今の状況も違ったかもしれないが…… 妻の最後を看取れたことを思えば、良かったのかもしれない」
鬱々します……
何かこっちまで気が滅入るじゃないですか、話しかけたのは判断を誤りましたね。
よしッ、決めましたわ。
私はそのご老人の頬に右手を添えて、流れる黒髪を左手で掻き上げながら屈みこみます。
「ん、お嬢さん、どうかさッ!?」
カプッ、チュ~ッ!!
うん、健康状態の悪い方の血は不味いですね…… それを堪えて、私の魔力を牙から流し込んで、このご老人を隷属化します。
「…… 自身の状況は理解できますね?」
「あ、あぁ…… 分かる、今までの身体の倦怠感が嘘のようだ」
「では、名乗りなさい」
「藤堂聡一郎と申します」
トウドウはベンチから立ち上がり、背筋を伸ばして、ぴったり斜め30度のお辞儀をしてきます。完璧です……日本のビジネスマンの性能を見せてもらいました。
無職ニートのヤマノウエに見習わせたいほどです。
「トウドウこれからは私のために尽くしなさい。それが私の眷属である貴方の喜びになります。後、詳しい事は今から呼ぶカシワラに聞いてくださいね」
ポケットからヤスダ名義のスマートフォンを取り出して、今は元のIT企業を退社して、合同会社“IRiA”の代表取締役社長に専念しているカシワラをコールします。
「はい、カシワラです。何か御用件ですか、イリア様」
「一人、配下を増やします、迎えに来れますか?」
「いまは何処ですか?」
「代々木公園ですわ、場所は……」
「分かりました、これから行きます」
「では、お願いしますね」
通話を終えて、大まかに新入りのトウドウにあれこれと注意事項を説明していると、カシワラがやってきます。
「お待たせしました、イリア様」
「…… 人目のあることろで様付けはやめて下さいね」
「すみません。で、こちらの……」
唐突にカシワラがフリーズしました。
「初めまして、私は合同会社“IRiA”代表取締役のカシワラと申します。宜しくお願い致します、藤堂会長」
「もう会社は息子に任せていますので、名ばかりの会長職です。どうかお気遣いなく…… それと申し訳ないのですが、今は名刺を持ち合わせておりません」
そう言いながらトウドウはカシワラの名刺を受け取ります。
「…… カシワラ、トウドウと面識があるのですか?」
「イリアさん、国内最大手の藤堂商事の会長ですよッ!直接の面識はありませんが、経済紙の写真で見たことがあります」
こうして、合同会社“IRiA”は国内最大手の商社の後ろ盾を得て、さらなる発展を迎え、資金繰りの問題も解決されるのでした。
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