吸血令嬢、ベンチで黄昏る!
惑星“ルーナ”で都市エベルが魔族領域となっていた頃、吸血鬼の令嬢イリアは代々木公園でベンチに座り、“午前の紅茶ミルクティー”を片手にアンニュイな表情をしていた。
その手には彼女の種族の長であり、友人でもある吸血姫スカーレットより渡された“お買い物リスト”が握られている。
「圧縮機に小型蒸気タービン、それに高周波真空溶解炉ってなんですの?その必要性が分かりませんわ…… 本当に要るのかしら」
買い物リストと供に渡された補足資料には、地上進出を想定した農業改革プランと“はーばーぼっしゅ法”によるアンモニアの精製、それを利用した有機肥料の製造計画が記載されている。
それに加え、この日本国でも火力発電所で使われている蒸気タービンの製造も視野に入れているらしく、併せて発電機のコアに使う希土類磁石を生産するための高周波真空溶解炉もリスト入りしていた。
勿論、計画立案はいつもながら、リーゼロッテ率いる青銅のエルフ達の中央工房区画第一研究班だ。
「お金が…… お金が足りませんわ。私のお菓子代を削っても…… 焼け石に水ですね」
はむっ
と、最近はすっかり定番になってしまったメロンパン¥108円税込みを齧り、“午前の紅茶ミルクティー”を啜る。
…… ちょっと前までは、午後の気分転換にお洒落なカフェでケーキなどをいただいていたのですが、ここ最近は節約生活です。
向こうから換金できる宝石類などを持って来ても良いのですが、それにも限界があります。錬金術で錬成した金塊を売るにしても、この世界では厳密にそれは管理されていて、やりすぎると足が付きますわ。
「何より、魔王様が地球経済の中で正当に利益を上げろと仰っています……」
合同会社“IRiA”の企業活動自体は順調で、ミアやカズィら青銅のエルフが作成した出退勤管理システムは個人経営の飲食店などを中心に売上を出しています。営業回りをするカシワラとヤマノウエも頑張ってくれていますからね。
ただ、その売上は頭打ちになっているようです…… 此方に駐在する青銅のエルフ達は“良い作品を作れば、自ずと評価されて売れるのですぅ!!”と力説していましたが、それは何か違う気がしますわ。
先日、読んだ日本経〇新聞の“独立起業のすゝめ”というコラムにも、“どんなに最高の商品でも、売れなければ経済的に無価値だ!”と書いていました。
最高傑作なら必ず売れると考えているあの子達の考えを正すべきでしょうか?
…… いえ、技術者は常に最高だけを目指し、それを世に広めてお金にするのがマネジメントともそのコラムに書いていましたね。
「さて、どうしたものでしょうか……」
そう呟きながら私はまたメロンパンを齧り、晴れ渡る空を見上げます。
夜闇に紛れてひっそりとではなく、この晴天の空を飛翼で駆け抜けると今の憂鬱な気持ちも晴れそうですが、それをやれば通報されますわ…… そんな詮無き事を考えてしまうあたり、疲れているのかもしれません。
「難しい事を考えるのはやめて、家に帰ってシューレ殿が拾ってきた五郎丸(黒猫)と戯れましょうか♪」
そう決めた私はベンチから立つのでした。
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