魔王、都市防衛について配慮する
そこから再びエルゼ嬢の説明が続き、ミザリア領の右隣にエルゼリス領が書き込まれる。
(…… 分からん、300年前と地名が変わりすぎている)
この辺り一帯の旧魔族領域は、人間達の国ができてから呼称が大きく変わっているようだ……
「このエルゼリス領は王国の四大領地の中だと最も小さいですが、国境を接するバルディア共和国と陸路の交易が盛んです。こちらは経済的つながりがあるため、不穏な空気などはありません」
バルディア共和国は四方を他国に囲まれているため、経済関係を戦略的に構築して、自国が攻められないように立ち振る舞っているそうだ。
「中々に上手く考えられていますわね、我が君」
手元で扇子を弄びながら、鬼姫が言葉を続ける。
「このバルディアは周辺国家の岩塩の供給源とのことですから、安易に攻める事もできないのでしょう。塩の値段が上がれば民の不満も増しましょうし、それを盾に交渉事も有利に進められます」
「俺たちも何か攻められにくい理由があればいいんだけどな」
「無いものねだりをしても仕方ないよ、イチロー」
「……ッ (コクッ)」
そして、最後にノースグランツ領の右隣りにヴェルギア領と書き込まれた。
「此処が王都シュヴェルグを擁する最大の領地ヴェルギア領です。地下ダンジョンの遠征部隊は王都の港から、海路でこの都市の港まで輸送されます」
「ということはじゃ、都市エベルを押さえられた事は大きいのぅ。海路と陸路では所要日数も持ち運べる物資の量も違うじゃろうし、補給路の維持の難易度も異なるからのぅ」
リーゼロッテの言う事も一理はあるが、都市防衛を考えるとな…… 俺と同じ事を考えたのか、魔人の長が口を挟む。
「リーゼロッテ殿、必ずしも陸路で来るとは限らない。海戦もあり得るぞ」
そのグレイドの発言を受けて、思案顔になったスカーレットがイルゼ嬢に問う。
「…… イルゼ、都市エベルの有する軍船の数はどれくらいなのかしら?」
「軍船転換できる中型船が2隻、小型船が8隻の計10隻です」
「で、王都はどれくらいの軍船があるんだ?」
「そうですね、記憶があやふやな面もありますので、少し誤差があるかもしれませんが、大型船1隻、中型船3隻、小型船12隻の計16隻だと思います」
…… 結構な戦力差じゃないか。
まぁ、元々この辺りは寒冷な気候で水温が低く、時期によっては海が凍るぐらいだから、氷結魔法を駆使すれば奇を衒う事ぐらいできるかもしれないか……
「ざっと、シュタルティア王国の各領地を説明しましたけど、ご意見はありますか?」
「結局、王都のあるヴェルギア領が問題ですわね、おじ様」
「あぁ、そうだな」
ミザリア領は南方のリベルディア騎士国への備えがあり、どれくらい有効か分からないが領主の身内を捕えてある。
エルゼリス領については規模が最も小さく、現状で地下ダンジョン派兵に参加していないため、脅威度で考えるならヴェルギア領が上といったところだ。
まぁ、先ずはノースグランツ領内の地下ダンジョン侵攻部隊を何とかするのが最優先だけどな……
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