魔王、不死王を思い出す
「先ず、現状の再確認から始めよう、イルゼ殿」
「はい、では失礼させていただきます」
イルゼ嬢は席を立ち、ダンジョン49階層の中央工房区画から持ち出してきたホワイトボードの前に移動し、マーカーを手に取った。
「現在、皆さんが交戦しているシュタルティア王国は大きく4つの領地に分かれます。そのうち、3番目の規模で北西に位置するのが此処ノースグランツ領です」
彼女はホワイトボードに略図を書き込んでいく。
「そして、今さっきグレイド殿に運んでいただいた兵士達の出身地のミザリア領がその南になります。王国地図では南西ですね」
さらに彼女が先程書いたノースグランツ領の下にミザリア領を書き込み、赤のマーカーで射線を引く。円卓に広げられた大地図を見ながらその位置関係を把握していると、ミツキから質問があがった。
「このミザリア領の南方にある山脈は昔越える事が困難でしたけど……
今はどうかしら?」
「……ここ数年、山脈の向こう側にあるリベルディア騎士国がドラグーンを増員しているのに加えて、幾つかの軍用坑道が鉱山用と偽って掘られていると聞きます」
そこで、少しイルゼ嬢は思案した顔になる。
「…… 全てはミザリア辺境伯からお父様にもたらされた情報で確度の問題があるかもしれませんが、彼の御仁がリベルディア騎士国の侵攻を危惧していたのは事実でしょう」
「おじ様、ここ1~2年になって王国軍が地下ダンジョンの制圧に力を入れていたのは、その兆候があったからかもしれませんね。事が起こった時にダンジョンが健在なら、図らずも挟撃される可能性がありますわ」
確かに、その可能性はあるだろうな……
「スカーレット殿、同じ問題はリベルディア側にもあるのですよ」
そう言いながら、南方山脈のリベルディア側の麓に丸を書いてその中にこう記した。
“不死王領域”
「不死王?誰それ、ベルベアは知ってる?」
「…… (……ふるふる)」
ヴィレダの隣で黒狼娘が首を左右に振る。
二人が知らないのも無理は無い。
不死王はその昔、俺と同じく魔王を名乗っていた1人だ。
俺よりも先に“終極”の魔法使いの大魔法で原子の塵にまで分解されて消滅したはずだが…… えッ、あいつ生きてるのか!?
此処にいる中で唯一、俺と昔の記憶を共有できるリーゼロッテに視線を向ける。
「レオン、そんな目で見られても妾は知らんのじゃ、研究と実験で忙しかったでのぅ……」
くッ、この引き籠りめッ!!
「魔王殿、恐らく貴方が思っているのは不死王グラデルでしょうけれど…… 今上の不死王はリチャード・ワイズマンです」
「ワイズマン?……“終極”の魔法使い?」
「その御子息ですよ」
いや、息子にしても人間の寿命的に存命しているわけがない。
…… つまり、アンデッドなのだろう。
「不死者の身で人々を善良に治める彼については諸説ありますが、今の人類側からは敵視されています。ですので、リベルディア騎士国も軽々には動けないのですよ」
そして、最後にこう一言。
「私の中では、彼は間違いなく英雄なのですけどね…… その話は又別の機会にしましょう」
読んでくださる皆様には本当に感謝です!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります!!




