吸血姫、角が気になる
「ここが、新しいお家?」
「……ッ (コクッ)」
おい、勝手に同意するんじゃないベルベア!
そしてヴィレダ、あんまり高そうな調度品を触らないでくれッ!!
「お約束ですと此処は手を滑らせるところですわね、おじ様」
「…… スカーレット殿、あの皿はお父様の気に入っていたものなので勘弁してください」
ヴィレダが飾ってある絵皿を手に持って眺める姿を見ているイルゼ嬢の表情は不安そうだ。普段、彼女と仲が良いために強く注意できないのだろう。
「ふむ、人間どもの趣味嗜好はあまり昔とかわらんのじゃなぁ…… こう、錬金とか機械の成分が足りないのぅ、油の匂いもせんし、妾は落ち着かんのじゃ」
「それで落ち着けるのはお前ぐらいだろう、リゼ……」
「そうかのぅ? ブラドの奴も部屋中を実験器具で散らかしておったのじゃが……」
確かそれで、幼いスカーレットが変な装置を触って怪我をしたことがあった。
あの時の怒り狂ったエリザは正直、怖かったな…… 母は強しという事か。
ちらりと、俺は彼女の面影を残すスカーレットに視線を向ける。
何やら鬼姫と言葉を交わしているようだ。
「スカーレット殿、折角の奇麗な角が痛んでいますよ。ちゃんと手入れはなさっていますか? 我が君に侍るならば、身だしなみには気を配りませんとね」
「…… 今まで、何かと理由をつけて働かなかった貴女と違って、私には毎日手入れをするような時間はありませんの。でも、そうですね、確かに最近は肌と角が荒れている気がしますわ……」
どうやら気になったのか、スカーレットは頭の角をぺたぺたと触って感触を確かめている。
因みに吸血“鬼”は悪魔のような巻角だが、鬼人は昔話に出てくる赤鬼や青鬼のようなやや反りながら上に伸びた角だ。
良く分らんが、手入れ自体はミツキの方が楽そうだな。
「そうそう、ちょうど良い角用保湿液があるので今度ミカゲに持って行かせますね」
「ん、ありがたく頂きますわ、ミツキ殿」
「えぇ、お気になさらず」
ダンジョンの階層防衛の際、理由を付けて鬼人兵を動かさなかったミツキにスカーレットはわだかまりを持っているが、ミツキの方はそうでもないらしい。
度々、ミツキから話しかけて関係改善を図っている。
…… 良く思われてない自覚はあるんだろうな。
しかし、物で釣られるのはどうかと思うぞ、スカーレットッ!
と、心の中で突っ込んでいたら、応接室の扉を開けてグレイドが戻ってくる。
「魔人兵の配置、全て終わりまして御座います」
「ありがとう、グレイド。ご苦労だったな」
歳を中々取らないだけで、外見は人間と変らない魔人兵を呼び寄せ、グレイドの指揮の下でエベル城塞の警備に就かせた。既に最初の仕事として、スリープの魔法で眠らせたミザリア領兵を捕縛し、中庭に運ぶように頼んでいる。
一応、まだ1~2時間は眠ったままのはずだ。
起きた頃に投降するか、虜囚となるかを選ばせてやろう。
さて、皆もあつまったことだし、ミーティングを始めるか……
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります!




