魔王、責任転嫁される
両手を上にあげつつ、鋭い視線を飛ばす赤髪の大男ウェルガがスカーレットの頭部の角を凝視しながら言葉を飛ばす。
「イルゼ、魔族と通じている事がバレてみろッ! お前や領民もただでは済まないぞッ!!」
「かと言って、シュタルティア王国の一領地として、魔王殿の手勢と戦ってもただでは済みません…… ですから、都市エベルを含むノースグランツ領は魔王殿に占領してもらいます」
「イルゼ殿、俺は構わんが…… それでいいのか?」
「ええ、私は魔王殿の捕虜ですからね」
その時、黙考していたスカーレットが呟く。
「…… イチローおじ様、これは要するに責任転嫁ですわ」
ふむ、冷静に考えればその通りかもしれない。
都市エベルとノースグランツ領としては善戦するもむなしく、占領されたという事にしておけば事後に釈明ができる。直接的にノースグランツ領兵を動かして、王国軍と敵対しない限りはな……
問題は目の前の大男の父親がいる隣接するミザリア領の動向か…… 俺はなおも喚き続けているウェルガに近付いてその額に手を伸ばす。
「な、何をッ!?」
「少し眠れ…… 安らぎの中に安堵と共に落ちろ、スリープ」
どさりとその大柄な体が応接室の床に倒れる。
取りあえず、煩かったので眠らせておいた。
さて、今のところはこの応接室を占拠しただけなので、この小城全体を制圧しなければならない。
「イルゼ殿、此処の転移を阻害している魔導装置の場所は?」
「ミツキ達を呼び込んで、さっさと終わらせてしまいましょう」
「何か複雑なものがありますね…… 長年暮らした居城を陥落させるというのは」
魔導装置は最上階に設置されており、結局、そこまで行くのに出くわしたミザリア領兵を片っ端からスリープで眠らせていく。
イルゼ嬢の頼みもあって、捕らえる方向になったからだ。一応、この都市にも犯罪者等の収容施設は新旧市街の両方にあるらしいので、其処か兵舎に拘束するとの事だ……
「どうですか、おじ様?」
「多少、形式は違うが本質的には同じ原理で動いているから何とでもなる」
既に魔導装置の制御権が書き換えられており、イルゼ嬢に制御できなかったので、装置に手を触れて強引に俺を登録する。
「これでッ、此方と彼方を繋げ、転移方陣ッ」
室内に黒いゲートが開き、ダンジョン地下49階層の訓練場に待機させていたミツキ麾下の鬼人兵十数名が素早く室内に展開した。
「…… 首尾はよろしいようですね、我が君」
「後は任せる」
「御意に…… 四半刻で制圧してみせましょう」
そう宣言しながら、軽く首を垂れる鬼姫に対してイルゼ嬢が念を押す。
「ミツキ殿、ミザリア領兵達は捕縛していただきたいのです。彼らは領主の命に従っているに過ぎませんので……」
「分かっておりますよ。ですからヴィレダ殿の人狼兵ではなく、我ら鬼人兵なのでしょう?」
黒髪の着物美人は薄く微笑み、その後は隠密行動に長けた鬼人兵により、きっかり四半刻で都市エベルの城塞は制圧されるのだった……
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拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります




