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魔王、昼を抜く

新市街の昼過ぎ、喧騒から遠ざかった場末の料理屋でテーブルに突っ伏す令嬢がひとり。奇麗な金の髪が卓上に広がり、その表情は窺う事ができない。


「…………… お父様」


先程の兵士二人から新領主の話を聞いた後、新市街中央通りの青果店でリンゴを買いつつ、色々と話を聞いたところ、先月、ノースグランツ前領主ジフル・リースティアが病死した事実が判明したのだ。


つまり、イルゼ嬢の父君が亡くなっていたという事だ。余りの衝撃に彼女が前後不覚に陥りかけたため、人気の少ない料理屋で一度休憩を取る事になった……


そのイルゼ嬢が突っ伏したままに呟く。


「まさか、看取る事もできないなんて……」

「…… お嬢様」


注文した、フィッシュチャウダーとパンを運んできた女将がそのどんよりとした空気に二の足を踏む。というか、テーブルに突っ伏したイルゼ嬢が邪魔で、運んできた料理を置けない。


“イルゼ殿、女将が困っているぞ、取りあえず顔を上げろ”


むくりと身を起こした彼女の瞳は涙の後が残っている。


「…… 大丈夫ですか? お客様」

「……はい、どうぞお構いなく」


その言葉の後、イルゼは固まってしまう。

料理屋の女将は手早く料理をテーブルに並べて、そそくさと厨房に戻って行った。


「お、お嬢様、温かいうちに食べましょう!」


マリがイルゼにスプーンを握らせると、彼女は機械的にスープで濃厚なスープを掬って口へと運ぶ。


「熱ッ!?」


「お嬢様! み、水ですッ」

「んくッ…… 舌がヒリヒリします」


この調子では、無理そうだな……


“どうする、イルゼ殿。昼食を食ったらダンジョン最下層に戻るか?”

「いえ、一度、領主の館に行きましょう。気になる事だらけですから……」


そのままイルゼは手早くフィッシュチャウダーをかきこみ、パンを口に放り込む。

侍従であるマリもそれに合わせて急いで自分の食事を済ませようとする。


「はわわッ、熱ッ!?」

“マリ、大丈夫? 水を飲みなさい、喉を火傷しますわよ”


むぅ、俺も二人が食べているのを見ていたら腹が減ってきたな……

影に潜みながら、俺が腹の虫を鳴らしている間に二人はチャウダーとパンを完食していた。


「女将さん、ご馳走になりました。お代は?」

「…… 確かに、毎度ありがとうございます」


料理屋から出るとイルゼ嬢は足早に旧市街へと進んで行く。


“イルゼ殿、気になる事というのは?”


「私が病に臥せっていたお父様から領地を受け継ぐという話になった際、シュタルティア王に実績が無い小娘だと横槍を入れるような進言をしたのが現領主の父親、隣接する領地を治めるゲオルグ・ベイグラッドなのです」


“ふむ、実績か…… それでダンジョンに?”


「えぇ、武功を立てるのが一番手っ取り早いですからね、最前線への配置を希望しました。武功どころか捕虜になりましたけどね…… 今思えば、英雄物語の読み過ぎで毒されていたのでしょう」


“で、地下ダンジョンから戻らないイルゼ殿は死亡扱いが妥当か…… 他に親類は?”


「ノースグランツ領内に数名いますが、ベイグラッド卿からの搦め手で抑えられています」


「ち、ちょっと、お嬢様ッ!!」


マリの呼びかけにイルゼ嬢が立ち止まり振り返ると、近くにいた市民から不審な目で見られている…… 普通に俺の念話に応じたため、傍から見ればイルゼ嬢は独り言を呟きながら歩く残念美人と化していたのだ。


「ん、コホンッ」


ひとつ咳払いして、彼女は無言で再び歩き出し、日中は開放されている旧市街への門をくぐった。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。

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