騎士令嬢、兵士を叱る
都市エベルの新市街は人だらけだった、俺の記憶ある300年前だと都市の人口は精々、1万~2万の間だったのだが、いまはその倍はいそうだ。
ただし、地球の日本とは比べるべくもなく少ないが……
“かなり増えているな人口が……”
「そうなのですか? 私にとっては普通の街並みですけど」
“俺の声はイルゼ殿にしか聞こえないから、律義に返さなくていい。不審に思われるぞ?”
「ッ……」
彼女はきょろきょろと周囲を見回す…… 不審度5割増しだ。
おかげで、影に潜りながらイルゼ嬢と視覚を共有している状態の俺も街並みが良く見える。
新市街の中央通りには冒険者ギルド支部やら、その周辺の鍛冶屋などが並ぶ。一本、奥の路地には定番の娼館街と大衆浴場があった。
何処の都市でも娼館と風呂屋はセットで、その風呂屋の儲け時は早朝だ。
一夜を娼館で過ごした連中がさっぱりして帰るからな…… 昔、ブラドと一緒に人間の街の娼館に何回か行った事があるのはスカーレットには内緒だ。
それはそうと、通りに人の数は結構いるが…… どこか活気がない気がする。
“イルゼ殿、実家に帰る前に新市街の広場に寄らないか?”
「広場ですか?」
その言葉を侍従のマリが拾う。
「お嬢様、広場には御触れがでますので、何かしらの有益な情報があるかもしれませんよ」
「では、向かうとしましょうか」
そして、俺達は見知らぬ路地を迷いだした。
“おいッ!故郷じゃないのか此処はッ!”
「そ、そんなことを言われても、私、旧市街から出たことがほとんどありませんので……」
“マリ、ここは何処なのかしら?”
「はて、何処なのでしょうね……」
その時、俺達の脇をあまり栄養状況の良くなさそうな子供が駆けていく。
「あうッ!……うっう~ッ」
そして、路地から出て来た二人連れの兵士とぶつかり、路上に転げる。
「ちッ」
兵士はそのまま舌打ちだけして、去って行こうとする。
「…… お待ちなさい」
その兵士は不快を隠さない表情で振り返るが、イルゼ嬢の騎士鎧を見て背筋を伸ばす。横柄であっても“兵士”ではある様だ。
「はっ、何でありましょうか?」
「出会い頭とは言え、相手は幼い子供ではありませんか…… 先の対応はリースティアに属し、街を守る者として不適切です」
その言葉を聞いた兵士がバツの悪そうな顔をして、蹲る子供に手を伸ばす。
まぁ、立場的に従う必要がある上、正論を言われているのだからな。
「悪かったな、お嬢ちゃん。大丈夫か?」
「あっ、ん、大丈夫!急がなくちゃッ!!」
立ち上がった、子供はまた駆け出して行った。
「これで宜しいでしょうか、騎士様。それと、老婆心ですが、新領主のベイグラッド様は前領主を引き合いに出されるのがお嫌いですので、注意してください」
もう一人の兵士も頭を下げる。
「すいませんね、コイツ、さっき行きつけの食堂の看板娘に袖にされて、イラついてたんすよ」
それだけ、言って二人の兵士も去って行く。
そして、そこに残されたイルゼは呟く。
「新領主?」
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




