魔王、騎士令嬢に取り憑く!
ちょいと時系列に問題があったので、前話の冒頭だけ修正して、軍議(夜)の翌日という事にしました。
自身の私室にて、遠見の魔法を行使し、鏡に映った都市エベルを上空から観察する。
都市エベルは1.5㎞四方の城塞に囲まれた旧市街を中心として、城壁の外側に新市街が広がっている。そして、その都市人口を補うべく新市街の外側には広大な耕作地を備えていた。
なお、城塞内側の旧市街は遠見の魔法を阻害する装置により、真っ黒にしか鏡に映らない。と、言う事はその部分では許可された者以外の転移魔法も阻害されるという事だ。
「イルゼ殿、どの辺にゲートを開けば良い?」
「そうですね…… 新市街は可能なのですね?」
「やめておいた方がいいですわ、新市街であれば阻害はされずとも、ゲートの存在を探知される可能性があります」
「スカーレット殿がそう言うならば、耕作地の周辺でしょうね」
「分かった、そこにしよう」
遠見の魔法で人気のない耕作地を探し、俺が転移ゲートを開く際、常に起点としているこの私室からの座標を算出する。
「此方と彼方を繋げ、転移方陣ッ」
そして、部屋の隅に転移ゲートを開いた。
「では、先に失礼しますね、おじ様」
「いきましょうか、マリ」
「はい、お嬢様!エベルに帰るのは半年ぶりですね!!」
先に女性陣がゲートをくぐった後に俺も続いて、都市エベル近郊の耕作地に出る。
そこで、俺とスカーレットを眺めながら、イルゼ嬢が確認してきた。
「失礼ですが、魔王殿にスカーレット殿、その格好のまま新市街に入るつもりですか?」
「そうですよぅ、目立ちすぎます。ただでさえ、魔族の方は容姿が整っているんですから!」
指摘の様に俺は魔王の正装で矢鱈と目立つ服装、スカーレットは簡素な黒のドレスに金髪紅眼の角付き美人だ。
新市街に入った途端に衛兵がやってくるに違いない。
まぁ、考えてはいる。
「イルゼ殿、少々、貴殿の影に潜ませてもらおう」
「では、私はマリの影に」
「「はい?」」
俺はイルゼ、スカーレットはマリの影にずぶずぶと沈んでいく。
「相変わらず、常識のない方ですね、貴方は……」
“心外だな、人間でも同じ魔法を使う奴もいたぞ?”
300年前の“終極”の魔法使いとかな。
奴は“この世の全ての魔法を極める事ができる”という“終極”の概念装を所持していたが、人の身ゆえに知り得た魔法のほんの数%程度しか扱えなかったそうだ……
「ふわぁ、何か違和感がありますね、コレ」
“影に潜まれている間は動きが少し重くなるので注意してくださいね”
因みに、先ほどから俺達の発する言葉は全て、影を介した繋がりを利用した念話だ。
ゆえに、その声は互いのパートナーにしか聞こえない。こちらの場合はイルゼ、スカーレットはマリといった具合なので、俺とスカーレットは直接に意思疎通ができない点に注意だ。
「……まずは新市街、そして城塞の内側、旧市街に行きましょう」
「はいッ!」
長閑な耕作地の昼の風景のなか、畑に鍬を入れる農民の姿を眺めながら、新市街に延びる街道を騎士令嬢と従卒の二人はゆっくりと歩いていくのだった。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




