吸血姫、紅茶よりも……
一夜明けた翌日、私室で地球のイリアが定期報告のためダンジョンへ帰還した際に持ってきたリプ〇ンのミルクティーを啜る。なお、俺はコーヒーよりも紅茶派で、かつ、紅茶はアールグレイかミルクティーが至上だ……最近はアールグレイにミルクを入れた複合的なものもあるが、あれはあれでグッドだ。
そしてお茶請けにゼルギウスが焼いてくれたスコーンは絶品なのだ。それを齧りつつ、これも奴が整備してくれたТокарев ТТ-33の仕上がりを確認する。
もはや誰の執事か分からないくらいだが、スカーレットとより親密になってからは俺の世話もある程度してくれている。
責任は取らされそうだが……
そんな事を考えていると噂をすれば影というやつで、部屋の扉が軽く3回ほどノックされる。
「おじ様、入りますわよ?」
…… 以前なら“入って宜しいでしょうか?”と確認されただろうが、今は入室する事が前提の聞き方をしてくるあたり、距離感は近くなっていた。
俺はティーポットからティーカップに紅茶を淹れ、それをソーサーの上に置き、スティックシュガーとスプーンを添え、席に着いた彼女に差し出す。
「ありがとうございます、おじ様」
「イリアの土産だ、そのままでも美味しいがミルクを入れてもいい……」
視線で卓上のミルクピッチャーを示す。
「では、そうさせて頂きます…… ん、美味しい」
「この辺りでも栽培されている寒さに強い茶樹の葉も完全発酵させれば紅茶になるのだろうか……」
「そこはリーゼロッテ様に確認しないと分かりませんけど、向こうの惑星の品種改良を重ねて洗練されたコレには敵いませんよ?」
スカーレットは軽くティーカップを掲げながら返事をする。
「それはそうと、おじ様。先ほどは随分とミツキ殿の進言を重んじてらっしゃいましたね……」
「あぁ、鬼人の姫は聡いからな」
実は“策士策に溺れる”が当てはまるタイプの気もするが……
「それに、概ね同意見だったのだろう?」
「先ず、私に聞いていただければいいですのに……」
あざとい可愛さで拗ねながらも、その紅い瞳は俺の首筋を見ている事に気付いた。
「それはすまなかったな…… おいで、スカレ」
席を立って彼女を招き寄せると、スカーレットは慣れた手つきで俺の襟を開いてそっと寄り添い、俺の首筋に牙を突き立てる。
「んくッ…… つッ…」
そして、その喉がなまめかしく動いた。
吸血鬼に血を吸われる者は微弱ながらも中毒性のある快楽を得る。魔族ならまだしも、人間ならば病みつきになる程度には…… 困ったことに俺も例外ではなく、多少の快楽を伴う。
コン、コン、コンっと、その雰囲気の中で部屋の扉が再び叩かれる。
「魔王殿、帰郷の準備が整いました、入っても宜しいでしょうか?」
スカーレットの肩を軽くポンポンと叩く。
「ん、もうッ!もう少し、ゆっくりいらしてもいいのに……」
最後にペロリと首筋の傷を舐めて彼女が離れる。
「魔王殿?」
「あぁ、イルゼか、入って来てくれ」
さて、都市エベルへ行くとしよう。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。