騎士令嬢、軌道修正を試みる
「スカーレット、この“天雷”は二人の吸血鬼で運用する想定か?」
形状こそガスボンベであるが、其れなりの大きさがある。
「はい、その通りです。“天雷”の本体に繋がる鎖の持ち手をそれぞれの吸血鬼が持って飛翔します。既に同じ重量のダミーを用いて訓練をさせていますわ」
「試作品ゆえ今は2個だけじゃが、それでも空から狙える“あどばんてーじ”は大きいのじゃッ!問題は、“天雷”を運ぶ吸血鬼の飛翔速度が落ちることじゃのう……」
人間側にもワイバーンに乗った飛兵が存在するため、空は吸血鬼の独壇場では無い。そう考えると飛翔速度は重要な要素となる。
「使いどころは難しいが、効果は見込めそうだな……」
思わずに呟きが漏れる。それを聞いたイルゼ嬢が段々と顔色を悪くしている事に手元の資料を眺めていた俺は気づいていなかった。
……………
………
…
何やら私の前で恐ろしい話が順当に進んで行きます…… このリーゼロッテ殿から渡された資料にある“雷霆”は地下20階層の城塞の門を吹き飛ばしたアレではありませんか!
私はその時、城塞2階の窓から見ていましたが、門とその周辺を固めていた歩兵小隊が一瞬で吹き飛ばされたのは記憶に新しい事です。
それが20個もッ!
さらに“天雷”という怪しげなものまで……
こ、これは私が何とか軌道修正しなければッ!
もともと、ダンジョンの地下20階層の城塞で援軍を待っていた際、“遍在”の魔女殿はその数を300名程度と仰ってました。
で、あればダンジョンから撤退した300名と併せて、地上に展開するシュタルティア王国軍は一個大隊600名くらいの軍勢になっているはずです。
ヴィレダ殿の言う通り、一個連隊1200名規模が展開しているとすれば、計算が合いません…… 不足分の600名は何処から来たのか?
それは分かりきっています。
このダンジョンに最も近い都市エベルとその近隣都市から招集したノースグランツ領兵でしょう。そして、都市エベルは私やマリ、ジャンの故郷です。
私はともかく、マリやジャンの父親はノースグランツ領兵のため、地上の王国軍に参加している可能性は高いと言えましょう。
そして、領兵たちもノースグランツの民であり、帰りを待つ家族がいます。
むざむざ、死なせるわけにはいきませんッ!
「ヴィレダ殿、地上のシュタルティア王国軍の中にこの様な紋章の軍勢はありましたか?」
私は自分の鎧の紋章を示します。
「ん、あったけど……もしかして、イルゼの仲間?」
「えぇ、ノースグランツ領を治めるリースティア家の紋章です…… 私もその地を護る領兵の一員ですから」
これは本格的に覚悟を決めないといけませんね……
このダンジョンに住まわせてもらって、青銅のエルフの工房区画などで見識を深め、闘技場にて様々な猛者と訓練とはいえ戦う事もできました。
結果的に、様々な事を経験した私はかつてのように王国軍の圧倒的勝利を信じる事ができません。
少なくとも今、行動をしなければ約600名のノースグランツ領兵の命が危機に晒される事は確かなのですから……
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。