天狼、地上へ
一方、此方はシュタルティア王国軍の天幕の中、そこには“遍在”の魔女と“緩衝”の聖女に微妙と評された貴族の次男坊の姿がある。
彼がダンジョンから徹退してきた王国兵と増援兵の約1200名を指揮している。
「正直なところ、居心地が悪くてかなわないな……」
「まぁ、率いて来た大半の兵は都市エベルのリースティア家に仕えていた者たちですからな……」
一月ほど前に都市エベルを中心としたノースグランツ領を収めていた辺境伯が病死し、隣接する領地を治める貴族の長男が新たな領主として任命された。
その新領主の命により、縁もゆかりもない亡くなった辺境伯の兵卒を率いてこんなところまでやってきたのが貴族の次男坊、クリストファ・ベイグラッドである。なお、新領主の弟にあたる。
「なぁ、ジグルは兄貴のところに残らなくてよかったのか? ここにいては貧乏くじを引くぞ」
「またまた、ご冗談を…… ヴェルガ様に都市の施政などできるわけがないでしょう。周りの者達が苦労を強いられるのは目に見えていますよ。残っていればその代表格がわたしでしょうに……」
「さしずめ、親父は兄貴に経験を積ませるために色々と手を回してノースグランツ領主に推したという事か……この地の領民もたまったものじゃないな」
彼の兄であるヴェルガは平たく言えば、短絡的な自信家だ。
周りのものが遠慮して諫めなかったがためにそうなってしまった。
まぁ、弟である彼とその配下のジグルにもその責任の一端はある。
そして、父はここ数ヶ月、そんな兄を隣接するノースグランツ領主にするために色々と画策していた。その内容はとても褒められたものじゃない。
旧領主の病死も徐々に効果をあらわす毒によるものではないかと噂が立つ程度には…… 正直なところ、クリストファはその父親のやり方に不快感を持っていた。
だからこそ、元々はリースティア家に仕えていたノースグランツ領兵を率いる事に躊躇いがある。
「時にクリス様、乗り気になれないのは分かりますが、聖女殿からもう少し積極的に軍務に関わるようにと要望がきております」
見目麗しい聖女殿に加えて魔女殿からも評価が低いクリストファであるが、一応はなるべく、ノースグランツ領兵に干渉しないという意図も持っていたのだった。そうすれば、本来のノースグランツ領兵の指揮系統が機能するからだ。
「ダンジョン周辺に斥候は出しているのだろう? 相手の動きがない以上はどうしても守勢になる。今しばらくは気を張る事もないさ……」
…… 単に悠長に構えているだけかもしれない。
そのようなやり取りが成されている天幕の外、ダンジョンのある森の外縁部に設けられた陣地の要所には遠見と転移を阻害する魔導装置が設置されていた。
つまり、ダンジョン内部から遠見の魔法でその様子を窺う事ができない。
だから地上に斥候を出す必要があったのだ。
そして、森の中を四つ足で疾駆する獣の姿がある。
月あかりを浴びてうっすらと輝く銀色の狼と対照的に暗闇に溶け込む漆黒の狼だ。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




