魔王、地上の様子を窺う
地下13階層のベヒモス討伐から少しの時が過ぎ、今は謁見の間の玉座で報告を受けている。
「イチローおじ様、地下14 ~ 13階層の魔物達の興奮状態は収まり、現状としては魔人兵の制御が有効になりましたわ。それにより、魔物の数は規定値に抑えられて安全も確保されています」
「そうか、ひと段落だな」
魔物の氾濫と暴走の時は焦ったが、一過性のモノで良かった。
それにしても“誘引香”か……
「リゼ、回収した誘引香の分析はどうなんだ?」
「うむ、抜かりはないのじゃッ! 同じものを作れとお主がいうなら、やってみせるでのぅ。どうじゃ、妾はできる女であろ?」
いや、あれは百害あって一利なしだからいらないんだが……
「あぁ、いつも感謝している」
後は上層の状況とシュタルティア王国軍だな……
「スカレ、地下13階層以降についてはどうなった?」
「やはり地下10階層まで、シュタルティア王国軍の姿はありませんでしたわ、おじ様」
「と、なれば次に2個中隊規模が滞在できるのは地下5階層だが…… 恐らくは、そこにもいないんだろうな」
「今、ダロス殿麾下のミノタウロス兵とミツキ殿麾下の鬼人兵、魔人兵の構成で地下9階層から5階層まで進軍中ですが…… やはり、王国軍は地上でしょうか?」
そう考えるのが自然だな…… 地下30階層と20階層で敗北している以上は何の勝算も無く戦いを挑まないだろうし、地上に出ればダンジョン内部と違って多くの兵が展開できる。
人間と魔族の数の差を有利に使わない手はないだろう。
「ヴィレダ、ベルベア、少し頼みたいことがある」
「あたしは構わないよ、イチロー」
「……(コクッ)」
頼み事の内容によらず、前向きに答えてくれるのは有難いな。
「少し、地上の様子を見てきてほしい」
……………
………
…
シュタルティア王国の北部森林地帯の一角に旧地下鉱山があり、そこが拡張されて今は魔族の巣として機能している。
その森の外に構えられた陣幕の中で、魔女と聖女は息を抜いていた。
ここには彼女達しかいない。
「地上に出てきたのに。浮かない表情ですねディアナ」
「あ~、分かる?」
「何か思うことでもありますか?」
「先日の誘引香とか、段々と手段を択ばないようになってきてないかしら、私達」
もともと、魔物を呼び寄せて興奮させる誘引香は王国内の領地における使用を禁止されていた。この魔族達が引き籠るダンジョンも王国の主張に従えば領内の扱いになり、誘引香の使用は許されないはずだ。
「確かに、私も思うところはありますけど…… それのおかげで大きな被害も無く、私達はここまで撤退する事ができ、増援とも合流が済みました」
「それはそうだけどね…… 増援でやってきた上官殿も微妙じゃない?」
「私はいつ書類仕事から解放されるのでしょうね……」
増援と共に都市エベルからやってきた貴族の上官殿は基本的に何もせず、大半の仕事を配下に丸投げしており、その中にはミリアとディアナも含まれていた。
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拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




