吸血姫、騎士令嬢を巻き込む
「概ね、ミツキ殿の予想通りですわね」
ダンジョンの地下14階層、中央部の吹き抜けから侵入した吸血鬼達が偵察を行っている。
「スカーレット様、宜しいでしょうか」
「ええ、構いませんわ」
スカーレットは自身に随伴する吸血鬼の意見に耳を傾ける。
「徘徊する魔物の数は規定値に戻っているようですが、その平均的な強さが増しているように感じます……」
「魔物の氾濫の後、生存競争がおこなわれたのでしょうから、強い魔物が残るのは予測の範囲内です。それに“魔物の渦”のサイズを考えれば、ベヒモスなどの大型の魔物が通れるわけでもありませんから、強いと言っても許容範囲内ですわ」
などと言っていたが、それはひとつ上の地下13階層の闘技場を物陰から偵察した際、間違いだったと気付く。
「ふむ、お嬢様、まさにベヒモスですな……」
「……いったい、何処から入ってきたのかしら」
彼女の視線の先には体長6m程の巨体を持つ魔獣の姿があった。
「スカーレット様、アレをご覧下さい」
そう言われて、配下の差し示す方向に視線を向けるが…… そこには何も無い。
「…… 何もありませんわよ?」
「ああ、そういう事で御座いますか」
スカーレットは自身が理解できないのに周囲の吸血鬼達が頷くため、少しだけムッとしてしまう。
「ゼルギウス、説明をッ!」
「お嬢様、あそこに何も無いのが問題なのです。本来は“魔物の渦”がありましたので…… 恐らくは、人間達に何かしらの仕掛けをされて消滅したのでしょう」
「ベヒモスが此処にいるという事は“魔物の渦”の制限解除と拡張をおこなったのでしょうね…… 無理に広げた状態では長くは持ちませんから、それで消滅したのですね」
まぁ、ベヒモスは厄介ですが、私やヴィレダなら単騎で倒す事も出来ますし、おじ様なら言わずもがなですわ。
気にする事もありませんね。
その時、ふと最近、地下49階層の訓練場に入り浸っている金髪碧眼の騎士令嬢を思い出しました。
「ん~、彼女の相手にちょうど良いかもしれません。危なくなったら助けに入ればいいわけですものね」
いい事を思いついたとばかりに彼女はひとりで頷く。
「見るべきところは見ましたので、そろそろ帰りましょうか♪」
スカーレットは軽い足取りで帰還のため、階層中央部の吹き抜けに歩き出した。
……………
………
…
「…… 以上が封鎖されている地下14階層及び13階層の現状ですわ、おじ様」
俺は謁見の間の玉座にて、スカーレットの報告を受ける。
「報告ありがとう。ご苦労だったな、スカレ」
「それで、私の提案は如何でしょうか?」
金髪紅瞳の吸血姫が可愛らしく小首を傾げる。
「…… ベヒモスか、微妙に心配な気もするな」
それに、侍従のマリが黙っていないだろう。
「ミツキはどう思う?」
「恐れながら、我が君、私もイルゼ殿の戦いを拝見したく思います。今までその機会がありませんでしたので…… 一度、彼女の脅威度をこの目で確認しておきませんと」
情報収集に余念のない事だな……
こうして、イルゼ嬢のあずかり知らないところで、彼女がベヒモスと戦う事が決定された。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。