魔王、故事成語を思い出す
「粉砕と言っても、力任せにハンマーで叩きまくるわけじゃないんだろう?」
もし、そうならば地下15階層で陣を張っているダロスを呼んでこなければならない。とても此処にいる青銅のエルフ達の細腕では無理だ。
「ふっふ~♪ 心配は無用じゃぞ、レオ~ンッ!」
ズビシっとリーゼロッテは工房内の壁際を指さす。
其処には横向きの樽の左右に軸が付いたモノがある。それはY字型の台座に載せられ、宙に浮いていた。形状から察するにその樽を回す仕組みのようで、軸の片側は壁際にある蒸気機関に取り付けられている。
「そもそも、“あるみな”が硬いのなら、“あるみな”で削ればいいのじゃ」
ああ、つまり、同じ硬度の物質をぶつけ合えば共に破砕するという理屈か。
地球の故事成語でも矛盾の話がある。
最強の矛と最強の盾をぶつけ合えば共に壊れてしまったという話だ。
差し詰め、この装置は蒸気機関式粉砕ミルといった具合か……俺はコンクリートミキサー車を何となく連想する。
「師匠~ッ、“あるみな”をミルっちゃいますよ?」
「しっかりと、樽の蓋を固定するのじゃッ、途中で中身をぶちまけると洒落にならんからのぅ」
その作業を近くで観察すると樽の内側に天然ゴムが貼り付けられている事が分かった。
「“あるみな”で樽が破壊されないための配慮ですわね」
「あぁ、色々と考えているな、青銅の連中は」
スカーレットと一緒に作業を見学する。
精製された高純度アルミナの複数の塊が特製樽に入れられて、しっかりと投入口が封鎖される。そして蒸気機関が作動し、樽がガラガラと音を鳴らして回転し始めた。同様に珪石も粉砕する必要があるため、それはもう一台の蒸気機関式の粉砕ミルにかけられる。
「……二人とも、今日はここまでなのじゃ。あまりに回転速度を上げると樽が転げ落ちたり、内側から破損しかねんからのぅ」
「ああ、残りの作業を頼む」
「宜しくお願い致しますわね、リーゼロッテ様」
こうして、高性能な耐火煉瓦の原料となる“アルミナ粉末”、“珪石粉末”が手に入った。なお、粘土は既にミノタウロス族の協力の下、中央工房の屋外作業場に運ばれている。
その日はスカーレットと共に最下層に戻り、執務室で共に書類作業を行った。その際、第3工房区画のエルミア班から、地上での運用を想定した蒸気自動車“がーにー”の研究開発許可を求める書類が目に留まる。
「スカレ、これに予算を付けてやってくれ」
「良いのですか?そこまで優先度の高くない事案ですけど」
「この前の自走式爆弾“雷霆”は役に立ったからな。それに恐らく、俺達が進軍すれば地下10階層あたりにいるシュタルティア王国軍は地上まで撤退するだろうから、蒸気機関式の乗り物も需要が出てくる」
「…… 多くの兵を送り込めないダンジョンで無駄に消耗するよりも、この際、地上で迎え撃つということですわね。確かに私でもその判断をしますわ」
そう、ダンジョンの外での戦いは近いと考えた方がよいだろうな……
翌日、耐火煉瓦作りの進捗が気になった俺がふらっと中央工房の室外作業場に顔を出すと、リーゼロッテに捕まった。
「レオ~ン、良いところに来たのじゃッ!!妾たちが粘土と“あるみな”粉、珪石粉を混ぜて成型するでのぅ、お主に焼成してもらいたいのじゃ」
「まぁ、然したる予定もないから構わないか……」
その日は青銅のエルフ達がせっせと捏ねた耐火粘土のブロックをひたすらに俺が火魔法で焼き上げるという一日を過ごす。
こうして、数日を投じて必要な耐火煉瓦を確保し、中央工房に1500℃近くまでの高温を扱える反射炉が後日、完成したのだった。
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