魔王、アルミナの精製に立ち会う
いつもと変わらず、中央工房からは元気なリーゼロッテの声が聞こえる。
「よし、皆の者ッ、大釜を用意するのじゃッ!苛性ソーダに加水して熱溶液を作るのじゃッ!!直接作業する者は“ごーぐる”を忘れんようにのぅ……目に入れば失明するのじゃ……」
工房の作業場で小柄な青白い肌のエルフ達がリーゼロッテの指揮の下、忙しなく駆け回っていく。
「エイル、ミーミア、作業場のダクトの換気扇を使うからのぅ、蒸気式発電機を作動させるのじゃッ!!」
「「はい、師匠!」」
二人の青銅のエルフが作業場の壁際に設置させている蒸気式発電機の炉に石炭を放り込み、火魔法で燃やし始める。暫しの後に、徐々に勢いをつけて蒸気発電機の主輪が回り出して、銅製コイルと磁石による発電が行われる。
その電力は変圧器を経由して適切な電圧に調整された後、天然ゴムで覆われた電線を経由して部屋の中央にある大型の換気扇を回し始めた。
なお、蒸気式発電機の炉に繋がるダクトの要所にも換気用ファンが設置されており、石炭の煙をダンジョン中央部の吹き抜けまで排出している。
そのままエイルとミーミアと呼ばれた二人を含む数名は蒸気式発電機が過剰電力を生まないように計器類をチェックし、調整弁によるベントで蒸気量の調整を行うようだ。
「早速、やっているようだな、リゼ」
「うむ、これから大鍋に苛性ソーダの溶液を作って“ぼーきさいと”を煮込むところなのじゃッ!するとのぅ、“ぼーきさいと”に含有される“あるみな”が溶液中に溶け出すのじゃよ」
作業場の中央ダクトの下では、リーゼロッテの弟子たちが大釜に苛性ソーダと適量の水を投入し、火魔法で熱している。その大釜には熱電対による地球製の温度計が付いていた。
「あまり温度を上げ過ぎてもいかんでのぅ、大体250℃が最適じゃ!」
補足しておくと、熱電対とは2つ異なる金属線をよじり合わせたモノで、これが熱源に接触するとこの2つの金属線が電極となり、電気が生じる。
その際の電圧から温度を推測する仕組みだ。
「しかし、科学というのは正に魔法だな……」
「うむッ!妾も地球の科学者たちに対する尊敬の念が堪えんのじゃッ!!」
そんな感慨を抱いている間に工程は進み、大釜の中でボーキサイトが煮込まれていく。その後、大鍋の溶液がろ過されながら別の大釜に移される。
さらに複数人の青銅のエルフ達による氷魔法の応用で溶液が冷やされて、そこに溶けていたアルミナが綿毛状固体として沈殿していった。
「リーゼロッテ様、そろそろ、再加熱しますよーッ!」
「うむ、頼むのじゃッ!」
氷魔法が中断され、今度は逆に火魔法で加熱脱水処理をされていく。
そうして、大釜の中には高純度アルミナの塊が幾つかできたのだった。
できあがったアルミナの一つを手に持ちじーっと見つめるスカーレットが一言。
「リーゼロッテ様、この“あるみな”なるモノとても硬そうなのですけど……確か粉砕するのですよね?」
「スカーレットは察しが良いのぅ、その“あるみな”はダイヤモンドに次ぐモース硬度9じゃ。まぁ、モース硬度は“傷の付き難さ”を基準にしている故、粉砕し難さとは言い切れんがのぅ」
硬い事に違いはないだろう、どうやって粉砕するんだ……
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
ふと気づけば評価やブクマを頂けていた時とか、すごく嬉しいです!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




