魔王、SAN値を削られる
俺だって、たまには一人でまったりしたくなる事もあるのだ。
そんな考えとは裏腹に来襲してきたヴィレダにベルベアは地球製、もっと言えばMade in Japanのボディソープで身体を洗っている。色々と見つけて土産と称して買ってくるイリアから貰ったのだろうか?
二人はどうやらケモ耳と尻尾を重点的に洗っている。
尻尾などは丁寧にブラッシングしているほどだ。
しかし、何故、雄という生き物は一糸纏わぬ女性がいれば、そこに視線が惹きつけられるのだろうか……これはある種の心理だ、などと自分自身に言い訳をしていると二人の声が聞こえてくる。
「ベルベア、おっきいから羨ましいよ」
ああ、そうだな。
彼女の胸は豊満だ……
「……(フルフル)、……ヴィレダ、ちっちゃくて……可愛い♪」
「うぅ~ッ」
ベルベア、それはフォローになってない……
もっと他に言い様もあるだろう。
「……(ポンッ)」
その彼女は自分の前の床を軽く叩いた。
それに対してヴィレダは慣れた様子でその場所に座り、背後からベルベアが彼女の奇麗な銀髪を洗う。その一連の所作が二人とも非常に円滑だ、恐らく習慣化しているのだろう。
「~~♪」
気持ち良さそうに目を細める天狼が一匹そこにいるのだった。
そして身体を洗い終えた二人は湯船へと入ってくる。
一切を隠すことなく、ざばざばとお湯をかき分けてヴィレダが俺の側に腰を下ろすと、洗いたての髪の香りが漂ってきた。
「ん~、気持ちいいねぇ」
先程の俺と同じように彼女もぐでっとした感じになり、そのまま此方に寄り掛かってくる。躱すのも不自然なため、肩を貸す事にした。
そして反対の側からも重みがッ!
ベルベア、お前もか!?
「……皆、一緒♪」
ヴィレダはともかく、ベルベアは胸が当たるだろうがッ!?
くッ、理性というSAN値がガリガリと削られていく……因みにSANとはSanity(正気、健全さ)の略だ。
この場こそ何とか耐えたのだが、俺のSAN値はもう残っていなかったのだ。
その後、館でベルベアの調理した夕餉を美味しくいただいたが、どういうわけか精の付くものばかりでその夜は中々、寝付けなかった。
そこに訪ねてくる人影が二人……
……………
………
…
清々しい朝の森林区画の空気が木造の館にも入り込んでくる。
木々に遮られて窓から入る光は少なく、部屋の中は薄暗い。
そして、ベッドに眠るヴィレダとベルベアの姿がそこにはあった。
ベッドの周囲には俺や彼女たちが脱ぎ捨てた衣類が散乱している。
「…… 認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを」
分かる人にはわかってしまいそうな台詞を思わず呟く。
いや、過ちにする気は無いのだがな…… 段々、俺の持つ日本人的な常識がダメージを受けて、軋む音が聞こえてくるようだ。
気持ち良さそうに眠る二人が目を覚ました後に、もう一度、館に併設されている温泉へ一緒に入る。そして、簡素に朝食を済ませてから転移ゲートを開いて最下層の謁見の間へ帰った。
その際に、謁見の間に居合わせたスカーレットに三人での朝帰りの理由を聞かれるかと思ったが、彼女は事情を察している様子で特に何も言われなかった。
その事に内心でほっとしたのは秘密だ。
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